負ける

The Horn Tablet [ SS ]

 すっかり出来上がった室内では、荒く忙しない呼吸といやらしい粘着音が籠もっていた。会話はなく、衣擦れと嬌声が全てだ。
 月が明るすぎて、深夜にも関わらずベッドの上は淡い光に照らされ、刺激の度に握りしめるシーツが濃い影を作っていた。
「んっ、あ……ッふ…」
 目尻に貯まった涙と、火照って薄く色の付いた頬がどんな娼婦より婀娜っぽいと思えるのは、惚れた弱みなのだろうか。ひくひくと痙攣するように擦り寄せてくる太股を、汗で湿った肌を辿りながらひらかせる。ぐっと押し広げた両足にさらに密着するよう腰をすすめれば、深く入り込んだ刺激にリディジェスターが啼いた。
 ゆる、と遅い突き上げに喉が反り返る様子がよく見える。体内の粘膜を擦り上げるように埋め込んでは引き抜く。自分の分身にまとわりついてくる事に酷く興奮する。
「セツ…っ…、や…」
 つま先がぎゅっと丸くなり、目尻に貯まった涙が滑り落ちた。足りないと言うのだろう。もっと乱暴に突き上げた方が悦いことを知ってはいるが、あえて緩慢なまま時折動きを止める。
 夜闇と汗のせいで黒っぽくなった髪を掻き上げて、こぼれ落ちた涙を吸い上げた。そのまま耳元へ唇を寄せて、舌を穴にねじ込んだ。
「ひ、ん――――…ッ」
 子犬のような悲鳴を上げて縋り付いてくるのが心地良い。暫くそうして揺すぶっていたが、ふと思いついた。
「ッあ…!」
 ずるりと一気に引き抜いて、素早く体勢を入れ替える。リディジェスターを腰の上に載せて、突然のことで呆然とする二色の瞳に意地悪く笑ってやった。
「自分で、できるか?」
 所在なさげに戸惑う仕草が堪らない。太股から立ち上がった中心を掠り、脇腹をなでながら尻の隙間に怒張を擦り付けてやれば、ぎゅっと瞳を閉じて頬を染めた。にやりと笑いながら媚態を眺めていると楽しくなる。
 考え込むようにぎゅっと眉をよせて、戸惑うように何度か唇が開いて閉じられる。覗く赤い舌と濡れた唇にそそられる。こくりと嚥下する喉に惑わされる。早く柔らかい胎内に入り込みたくてうずうずしながら、セツは自分の唇を舐めた。
「…っ…」
 おずおずと身体を起こしたリディジェスターを細めた瞳で黙って見つめていれば、濡れた二色の瞳が羞恥に染まって見下ろしてきた。
「どうした?」
「…え…と……」
 泣きそうになっているのが堪らない。腹に手を付いて身体を持ち上げ、支えるように触れてきた指がその熱さで一瞬引いた。自分でさせる事などあまりしていなかったから、どういう反応をするのだろうと期待を込めて黙っていれば、リディジェスターがぎこちなく微笑んだ。
 そして舌足らずに、
「……がんばる」
 掠れるような小さな声で。
「………」
 ………やられた。
 不覚にも達きそうになった。
 たった一言で陥落させられた自分が悔しくて、セツはリディジェスターの腰を両手で掴んだ。小さな悲鳴すら心地よくて、後はもう自分の欲望に任せて柔らかいそこへ己を突き立てた。

  

いつもメール下さる春臣苗様へ捧ぐ。大感謝!
2005/10/15

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