基本的にセツのことは気に入っているのだが、最も好きなのはその声かもしれない。
セツの声は低い。人間的というより、鉱物のような響きをもっている。
音量は大きくはないのだが、不思議と耳に残る。掠れたその声はいつも温度を感じさせない。この声が、好きだ。
「リディ」
真剣に薬品を調合していたセツは、顔を上げてリディジェスターを呼んだ。
ホーンタブレットを読み解いてから、やたらとスキンシップの増えた彼は、リディジェスターの耳元で囁くことが多い。
セツは恐らく、わかってやっている。
耳にぴたりと唇を押し当て、吐息を吹き込むように、唇の動きがわかるようにゆっくりと囁くのだ。
「リディジェスター」
ただ、これだけなのに。
この金属のような錆びた声で話しかけられてしまうと、体の力が抜けて行く。名前を呼ばれることの心地よい束縛と、もっと性的な仕草により背筋に鳥肌が立つ。
情事の最中のような。
「おいで、リディ」
事後の微睡みのような。
何をされるのか、全くわからないけれど。
何をされてもいい、と思わせられる。
色を滲ませる声が心地よくて。こう言うときのセツは卑猥な事しか言わないけれど。
それでも俺はこの声が好きで、多分今夜も飽きるほど聞き続けるんだろう。
なんか、どっかで書いたような気がする…。
2005/12/01