わがまま王子と親衛騎士 8

The Majestic Tumult Era "Spoilt Prince and Palace Knight"

「別に構わなくてよ」
 優雅にお茶をすするジューヌベリア王女の前で、ヴァリアンテは天井を仰いだ。
 政務の隙間を縫って親衛隊長として談話の時間をいただいた。王女ティーブレイクを兼ねた休憩時間に告げる話題としては、少し気が重い内容だった。
 ジューヌベリア王女の次男であるダヴィディアート王子の、夜伽指南についてである。
 母親としてより、カーマを担う王族として許されないだろうと予測していたヴァリアンテに、彼女は眉ひとつ歪める事無く簡単に告げたのだ。味方を失ってしまった気がして、すぐに次の言葉が思い浮かばない。
「あの子、為政者としては向いていないのじゃないかしら。お陰で実の兄と争う事がないのは救いかもしれないけれど」
「ですが…」
 実の母親が実の子を評価する内容をどうかと思わなくもないが、そこを突っ込むほど身の程を知らぬわけでもない。
「王族と騎士の何たるかなんて、あの子が癇癪を起こすまで教えたつもりよ。最後の一線は弁えているでしょう。そもそも、ニーヴェナルが拒否すれば終わってしまうような些細な事だわ」
「それはそうなんですが」
「苦い恋ひとつ知らないで、見合いさせるのも可哀想じゃない?現実を知れば、少しは大人になるかもしれなくてよ」
「…市井と同じに考えないでくださいよ、ジューヌ様」
「王族と親衛隊の恋物語なんて、歴史の裏側を見れば意外とたくさん転がっているじゃない。ロマンスだわ」
 まるで他人事だと言わんばかりの王女に、ヴァリアンテは肩を落とした。
 事実、王族と騎士の恋物語は、お伽話から大衆小説、果ては純文学まで数多く存在する。けれど、実際には王族と婚約または結婚まで辿り着いた実話というものは存在しなかった。だからこそ、裏側なのだが。
 もしかして天の采配はダヴィディアート王子に傾いていのではないかと、ヴァリアンテは深く深く溜め息を吐いた。

  

ジューヌ殿下はお見合いだったので、恋愛に憧れ(?)があるらしい。自分の息子で、しかも王位継承権を持っているのに放任しているのは、王位あらそいが少なければそれに越したことがないと思っているから、単に面白がってる(M2遺伝子)か。ダヴィット殿下は、争って王になるほど魔力が凄いわけではないという事もある。
2010/09/18

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