その5
「あいたたた。あー…、いい湯だねぇ。沁みるねぇ」
「同感です。効きますね」
「ぎっくり腰か?」
「筋肉痛と腰痛の間。いやぁ、歳考えないと駄目かなとは思ったんだけど。こればっかりは譲れなくてね」
「まあ、クリストは解るが、一番若いカーシュはまた筋肉痛か情けない。ハーフエルフの名が廃るぞ」
「僕の細胞は怪我には強くても、疲労に対しては普通より上くらいですよ」
「体力馬鹿がよく言うぜ。…つうか、腰に来る程どんな訓練してんだ。お前等一応指導側だろうが」
「いや、訓練なんてしてないよ。今日は一日デスクワーク」
「僕も同じく」
「…アレか。文系と体育会系の違いってやつか。良かったなお前等、バルネアのお湯の効能に痔もあっただろ」
「たまに思うんだけど、M3と僕等ってどこかズレる時あるよね。ムッツリってより、オープンだし」
「そうですね。現在進行形で恋人が居るか居ないかの差ですか」
「何だとこの野郎共。俺が王配になったら無理難題吹っ掛けてやるから楽しみにしてろよ」
「…ちょ、君さ、そういう発言どうかと思うよ。実現可能な挙げ句本気だから笑えない!」
「何にせよ、M3が王配になったとしても腰痛とは無縁そうですが。相手が相手ですし」
「そうだよね。背中に勲章ひとつ付けて来ないからな、君は」
「ああ、何だよお前等。ヤリ過ぎかよ。それこそ情けねぇなおい」
「名誉の負傷ってやつですよ。残念ながら僕は治ってしまいましたけど。羨ましい」
「そればっかりは譲れないね。…いや、でもね、結構滲みるんだよ。あの子、爪長いからさ」
「鼻の下延ばしながら言われてもな。ドMにしか見えねえぞ。『女王様』はベッドの中でも健在か」
「………。聞きたいよね?聞きたいだろう?」
「…いや」
「いえ…」
「聞いていけ」
『………』
「昨日はさあ、一緒にディナー食べたんだよ。グラジオ通りの裏に出来た新しい店なんだけど、けっこういい店でね。かなりご機嫌でさ。盛り上がっちゃって。遅くまで楽しんだから帰りはちゃんと送っていったわけでな」
「はいはい。送り狼になった、と」
「そんな気は無かった…わけじゃないけど、まあ、ね。そこんとこはほら。男ならさ」
「解ります」
「だよな?だがな、そこで話は終わらんのだよ。あの『女王様』がだよ?俺の服の裾握りしめて、『帰っちゃうの?』だよ?信じられる?!」
「それは珍しいですね」
「わかったから、座れ。見苦しい」
「小さい声でさぁ!『帰っちゃうの?』って!俯いてんだけど、耳が真っ赤になっててな!」
「カーシュ、おい、止めろ」
「無理です。父と同世代の滾ったおっさんを止めるなんていくら何でも無理ですよ」
「せめて座らせろ。下半身まで滾られたら敵わんぞ」
「それは流石に無いんじゃないですか。昨日の今日ですから。僕ならまだしも」
「…待て。聞き捨てならんな。頑張れば何とかするぞ。証拠見せようか?」
「見たくもないわ!!」
その6
「あー…、だるい。しんどい。腰いたい。やっぱ温泉よネェ…」
「そうだねー…」
「っていうか、男ってチョロイわよネェ…」
「私も男なんだけど」
「アンタはアタシと親友やれるくらいじゃない。それに今更おとさなくっても愛は変わらないでショ」
「それは勿論。っていうか、何したの?」
「そう言うアンタも草臥れてんじゃない。どんな事したのヨ」
「大したことはしてない、と思うよ。内容が濃かっただけ」
「そうねぇ。最近忙しかったから、若い坊やには堪らない禁欲期間だったんじゃないの」
「ドナも人のこと言えなさそうな草臥れ具合じゃないか」
「ン〜…。最近ちょっと警戒されてたから、ちょっと引っかけてみたのよね」
「具体的に」
「別に面白くも何ともないわよ。ちょっとアイツの服握って、『帰っちゃ駄目』みたいな事してみたわけ」
「キャラ違くない?」
「うっさいわね。自覚してるわよ。素面じゃ無理だったわよ」
「まあ、クリストは引っかかりそうだよね」
「見事にひっかかったわ。もう、どっかに火が付いたらしくて大変よ。朝まで離してくれないんだもん。あー、だるい」
「クリストって、口では色々言ってるけど、あんまり行動に出ないと思ってた」
「地位と歳考えてんじゃない?垣根は高いけど、越えちゃえばただの男ヨ、あの人」
「モテないけどね」
「そうなのよネェ。だからアタシくらいしか婿に貰ってくれないんじゃない?」
「婿なんだ」
「嫁に来いって言う度胸あるなら行ってあげるけど」
「貰って欲しい癖に」
「うっさいわネ。アタシだって乙女の部分あるのよ。このおっぱいのどこかに」
「…探していい?」
「今日は駄目。酷使したから休息中。…っていうか、アンタ。キスマークの一つもないの?」
「……あったよ。散々止めてもやられたよ。やっと消えたからバルネアの同伴してるんじゃないか」
「治癒力高いのも問題よネェ。色気も何もあったもんじゃないわ」
「それはそれで大変なんだって…。あの子のしつこさったらないよ…」
「足腰ふらつくまで付き合ってやってんだから、アンタも大概ヨ」
「うぐ…」
2011/01/31