惣菜

The Majestic Tumult Era "SS"

「飽きたなぁ………」
 机の上にだらしなくなつき、自分の右手を眺めていたカーシュラードはぽつりと呟いた。わきわきと何度か指を握りしめては元に戻す。
「おいおい仮にも将軍様がそんなこと言っちゃあ、示しがつかんだろ」
「んー…」
 だらけ切っているカーシュラードに声をかけたのは、元は傭兵上がりの大男だ。顔を縁取るように髭で覆われていて、まるで熊のようだった。
 階級と実力至上主義の上下関係で、この男の態度は目に余るものだが、カーシュラードと戦場で出会ってからと言う物、この大男は士官学校無しの例外的扱いで連隊長補佐官に就いていた。名は、ガンスイ。巌水、と書くらしい。
「手、どうかしたのか?」
「……手?」
 言われてから気が付いたとでも言うように、カーシュラードはぼんやりと右手を見つめる。
「さっきから右手ばっか眺めてっからよ」
「あー……」
 答えにも、まったく気力はない。
「そろそろ、想像力と右手だけじゃ飽きて来たなぁ、と思いまして」
 溜息と供に吐き出したそんな科白に、巌水はジョッキの泡を吹きだした。口ひげの回りに白い泡がついている。
「アホぉかお前ぇ…」
「いやぁ、切実ですよ?禁欲生活って慣れてないんで」
 巌水は呆れているものの、基本的に下世話ネタは大好きだった。
「新兵士でも見繕ってやろうか?お前くらいの顔してりゃ、夜伽希望の女なんざ掃くほどいるだろうに」
 ちなみに俺でさえ夜はそこそこ充実してんぜ?
 ベルトに太い指を引っかけて、腰を揺らしての揶揄に、カーシュラードは口角を上げた。
「これでも操立ててんですよ」
「不可抗力で許してもらえんじゃねえか、演習中の」
「肩身狭いんで。というか、僕が清い身体だろうと、下手するとあの人が浮気してそう」
 情けない告白に、巌水は再度吹きだした。中身が半分ほどだったので、零れることは無かったが。
「お前、愛されてねえな」
「言わないでください。傷付く」
 ぐったりと机に突っ伏して、長い長い溜息を吐く。
「気になんなら、権限振りかざして指南役連れてくりゃいいだろが」
 巌水は、カーシュラードの相手を知っていた。華奢な体躯に似合わず凄腕の剣技を誇る二刀流の指南役。実はその人が実兄だという事は知らないのだが。
「そんな情けないことできるわけないでしょう、やりたいけど。物凄く、犯りたいけど」
 呟くと、良い考えのような気がしてきた。どうせ野外演習だ。監督役の自分が居ても、戦陣を切って戦える訳でもないので、暇だった。
 不埒な妄想をする程度に、暇だ。
「しゃぶってくれるだけでもいいんですけどねぇ…。無茶苦茶に揺さぶって顔にかけたら堪んないだろうなぁ」
 虚空を眺めるカーシュラードの瞳には、すでに周りの風景は映っていない。ただぶつぶつと品のない欲望が口から垂れ流している。実行できないし、実際にあってもやってくれなさそうなので、望みは随分と卑猥だ。
「あの小振りの尻はいい感じだよな」
「具合もいいですよー。きつくて、熱くて」
「それでも思い出して頑張るっきゃねえな、大将」
 巌水はジョッキを笑いながら呷った。
興味無さげに見ていたカーシュは、巌水のでかい背中を鬱陶しく思いながら決意した。
「あーもー、絶対、帰ったらあの人拉致ってヤダっつっても突っ込んで掻き回してひーひー言わせてやる」
 切羽詰まったその呟きに、巌水は馬鹿笑いをするのだった。

  

お総菜=おかず
こういうシモを話せるキャラクターは、へたするとカーシュラードくらいしか居ないきがします。若さ的に。
2005/5/12

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