In the inside of darkness

geter様以外の持ち帰り厳禁!! たまりゃん様へ>>>12/25,no.1 hit

 新月。その圧倒的な闇に紛れて、ひとつの禍がやってきた。

***

 目が覚めた。
 唐突に意識が浮上した。そして、自分がそう感じたことに激しい違和感を感じる。確か自分は、城の中を闊歩していた筈なのに。
 月明かりのない夜に、蝋燭一つも灯っていないと、この瞳には何一つ映らない。瞼を開けていることすら解らなくて、本能的な恐怖を感じた。
 上半身を起こしてみて、手の平にあたる感触で自分が床の上にいることが解った。ひんやりとした石の感触。少しでも何か見えないかと首を左右に動かせば、さらりと音を立ててる髪の動きで、三つ編みが解けていることが窺える。
 ここは何処だろう。
 まずそれを考えて、しかし不用意に声を出すことは慎んだ。
 メリアドラスが仕掛けた新手の悪戯かとも思ったが、彼がこんなことをする必要がない。訳もなく自分を不安にさせる筈はないと断言できる。
 それなのに今自分の置かれた状況が、あまりにも不自然で。メリアドラスが仕掛けたのではないとすれば、自分はかなり危険な状況下にいるかもしれない。
 第二世界の王であるメリアドラスには、自分が何処にいるのか解らないはずはない。もし自分に何かあるならば、形振り構わずやってくるだろう。
 そうならないのは、自分が第二世界にいないか、メリアドラスに太刀打ちできない何かがあったか、このどちらかだ。
 そこまで冷静に考えて、震えそうになる身体を理性で止めた。
「なんだ。あんまり怖がらないんだな」
 聞こえてきた声に安堵しかけて、それがまた恐怖を呼んだ。
 メリアドラスと似て、非なる声。
 あの、低いけれども自分にとって随分甘く響く、あの声に似ている。そんな声の持ち主を、自分は知らない。
「………誰…だ」
 かろうじて、声は震えていなかった。
「俺の名前を聞いたのか?それとも存在を聞いたのか?」
 暗闇の中で、その声だけが頼りだった。せめて声の方にむこうと、耳を澄ませているのに、笑みを含んだその声はどこから聞こえてくるのかわからない。
「肝の据わった人間だな」
 くつくつと喉で笑う声。
 じっと動きを止めたままでいると、解けた髪を掬われた。指でくるりと巻かれて、梳かれる感触。唯一許した男以外に触れられて、鳥肌が立った。とっさに、その手を払う。
「ああ、そう。そうだ。そういう気の強さが好きだ。組み伏せて食い殺してやりたくなる」
 言いざま、耳を噛まれた。
「っ…!」
 逃げようと暴れて、それなのに出来なかった。
 床に押し倒されて、起きあがろうとした後頭部を掴まれ、そのまま床に押しつけられる。
「殺す前に、犯そうか?随分可愛がって貰っているようだし」
「……ざっけんな!」
 殺されるのも犯されるのも嫌だった。服の隙間から忍び込まされた手を何とか避けようと藻掻いたが、拘束はビクともしない。
 ぶつ、とボタンが飛ぶ音が聞こえた。暗闇の中、相手が何処にいるのかさえわからないことが、これほどまでに怖いとは。
 顎を強い力でつかまれて、そのまま唇を奪われた。舌を絡められて、口腔を乱暴に犯される。強引だけれど何処か紳士的な仕草がメリアドラスに似ていると感じて、抵抗を緩めそうになった自分に愕然とした。
 せめて舌くらい噛んでやろうかと思ったのに、
「…ぃっ…!」
「そう言えばこんな味だったか、人間は」
 逆に噛み付かれてしまい、もういっそ泣きたくなってくる。
「………ラス…ッ」
 助けて。
 恥も外聞も今更関係ない。掠れるような声だったが、俺は確かにアイツを呼んだ。暗闇の中で。
「メリアドラス…!」
 俺の呟きに、舌打ちが聞こえた。
 ガラスがはじけ飛ぶような音がして、明かりが甦った。一斉に灯った、いくつもの蝋燭。臨めない月の光に負けじと輝く。眩しいと瞳を閉じる前に見た光景は、きっと一生忘れられない気がする。
 自分に馬乗りになっていた人物の頭が、人形のように取れて吹き飛んだ。漆黒の髪に漆黒の瞳。メリアドラスと同じ顔。
 閉じることの出来なかった瞼と共に、思考が停止しかける。
 その訳の分からない混乱した自分の腕を、力一杯引かれた。声を発する間もなく、俺は誰かの腕の中に収まっていた。強い力で抱きしめる、その腕は見知った感触で。
「…メリぃ…」
 はからずも、安堵のために涙が出た。

***

「なぁんだ…つまらんな」
 やっと明かりに慣れた目が、その姿を捉えた。薄暗いそれでもわかる。
「ちょっと犯して殺すぐらい、お前が怒る道理はない。人間なんて腐るほどいるだろう。壊れたら、また新しいのを捕まえればいい」
 メリアドラスと同じ顔が、まったく違う口調で笑う。とばされた筈の首が、胴体にくっついていた。
「私の世界に無断侵入とはいい度胸だな」
「俺にそんなクチ聞いていいのか、放蕩息子め」
 は?息子?誰が?
 思わず涙も止まってしまった。
「いくらお前だろうと、世界成立の理には勝てないだろう。早く出ていけ」
「この俺に理を説くとは随分威張り腐るじゃないか。なんならお前の目の前でこの人間を食い殺してやろうか?」
 愉快犯みたいな顔で、メリアドラスそっくりの男が笑った。対するメリアドラスは、見たこともないような冷酷な顔で静かに怒っている。
「そんなことをして見ろ、切り刻んでやる」
「へぇ…、やってみるか?馬鹿息子。こんなちっぽけな世界で息巻いているお前とは格が違うと思い知らせて欲しいようだ」
「…ちょっ。メリー!」
 状況が解らなくて、思わず問いつめた。しかし深紅の瞳はちらりとカグリエルマを見つめて、すぐに目の前の男にそそがれた。
 抱きしめる腕にだけ、力が入る。
「そのお姫さんを守りながら、お前に俺が倒せるか?」
「お前が連れてこれる魔人の数は精々二体。私がお前から奪い取った魔人は四体。理を含めて、地の利は私にある」
 空気ごと凍らせるような睨み合いを続けた二人は、まったく動こうとしない。居心地が悪い。
 すると唐突に、漆黒の瞳をした男が方眉を上げた。何事かを囁いて。しかしその言葉は聞こえることはなく、口の動きだけを目で追った。
「残念。そろそろ時間だ」
 にやりと笑って、視界から消えた。
 え?と、思う間もなく。
「!?」
 その男はカグリエルマの目の前にいて。
「遅い」
 咄嗟に反応したメリアドラスは、その男の手の平で押しやられる。
 獣のように尖った犬歯を剥き出しにして、カグリエルマの首に囓りつかれる一瞬前、メリアドラスが形勢を立て直した。
「エレボスへ帰れ、     !」
 本気で怒ったメリアドラスが、カグリエルマを引き寄せて怒鳴った。不思議なことに最後の言葉が不明瞭でカグリエルマには聞こえなかったが。
 心底可笑しそうに唇を吊り上げた男は、薄暗い中に確かに残っていた闇に溶けていった。
「また…な?」
 その声が、耳に付くぐらい濃厚な闇を内包して木霊した。
 結局、何が何だか解らないまま、カグリエルマはメリアドラスを見上げる。見上げて、驚く。黒い、翼。対の翼が視界の端に広がっている。理由を聞こうと深紅の瞳を覗き込めば、酷く安堵した様子で両手を使って抱きしめた。
「メ…メリー…?」
 肩に顔を押しつけて、深い深い溜息。これ程までに疲労を表すメリアドラスを見たことは無かった。聞きたいことは色々あるけれどその前に心配で、頭を抱いてキスを落とす。
「大丈夫。俺はここにいるから」
 絶対に離したくないと、まるで子供のような必死さだから、自然とそんな言葉が漏れた。暫く撫でていると、メリアドラスが掠れた声で囁いた。
「お前が……私を呼んでいなかったらと思うと、ぞっとする」
「…うん?」
「あいつの作り出す闇に、太刀打ちなどできないだろうからな。結界の中から『呼んで』くれなければ、お前は私の目の前に居なかったかもしれない」
 漸く顔を上げて、沈痛そうに。こういう弱い所など今までに見たことが無かったから、不謹慎にも顔が綻んでしまった。
「あれ、誰だったんだ?」
「………以前、話したことがあるだろう。私の制作者のことを」
「あるけど。……って、嘘。ホントに?マジか?『父親』!?」
「…………ああ」
「うあぁ…」
 息子と言っていた。顔を見れば瓜二つだから、納得は出来るが。年齢なんて聞くだけ無駄だと解っているからあえて聞いたりしないけれど、まるで双子みたいなあの顔と声を思い出す。
「あいつに、何をされた……?」
「『されかけた』だ。未遂だよ」
 確かに怖かったのだが、力強い腕で抱くこの人物の父だというのなら、少しは譲歩してもいいのかもしれない。
「釦がいくつか見あたらないが」
 渋い顔をしながら。やっぱりしっかり見つけていたらしい。
「キスされた。服ん中に手ぇつっこまれたけど、何かされる前にお前が来たから」
「……何処が未遂だ。あの下衆が」
 罵って、そのままカグリエルマの唇を塞いだ。優しい仕草で歯列を割って舌を差し入れる。それに応えようとしたが、舌先に走った痛みに短く呻いた。
「……血の味がするな」
「そいや、噛まれた」
 言うと、瞳を細めたメリアドラスはカグリエルマの腕を掴んだ。
「………忘れさせてやる」
 犬歯を剥き出しに、凶暴なほど低く、唸った。

***

「ちょっ……も……やぁ…」
 甘い声で強請るような反論は、ただの睦言にしか聞こえない。カグリエルマは手の甲で自分の口を押さえながら、もう一方の手でシーツを握りしめた。
「声くらい聞かせてくれ」
 唸るように言うと、メリアドラスは声を遮る手の平をシーツの上に押さえつけた。
 ホールのようだったあの部屋から、長い廊下と階段を昇り、扉の一つを開けるとまるでそこはホテルのスイートだった。二間続きのその部屋の間取りを見て、高級な宿を思いつく。
 いつのまにか消えていたあの翼に、事情を理解出来ていないカグリエルマは、理由を問いつめようとした。だがメリアドラスの何時にない性急さに思いを飲み込んだ。
「あ、…ぁ…んっ…、メリ…っ…」
 服なんてどこへ行ったものか、お互いに肌を合わせて。もう散々焦らされて、指なんかじゃ足りない。焦燥感に苛まれたカグリエルマは、殆ど泣きそうになりながら強請った。
 すぐに与えられたその質量と熱に、身体が歓喜する。
 それなのに。自分が欲しいと思うほどの刺激は与えられなくて、もどかしくなる。浅い部分で出し入れを繰り返され、貪欲になった身体では物足りない。
「ワザと…だろっ…!」
 悪態を付いてみても、口の端で笑われるだけ。明らかに焦れているのに、視線で何度も願っているのに、意地悪くもくるりと回すように擦り上げた。
「少し手加減をしなければ、お前を壊しそうで怖い」
「…な…に?」
「八つ当たりをしてしまいそうだ」
 凶暴に呟いて。一度お互いの肌がぶつかるほどに強く突き上げた。
「…ひ…ぁッ…!」
 声が、裏返る。押さえつけられた手に爪を立てて、潤んだ瞳で睨み付けた。
 そのまま緩く揺すられると、図らずもそれを締め付けてしまう。絡み付く熱さをずるりと引いて、また浅い箇所を攻め立てた。
「ふ、ぁっ…や……、い…加減っ…!」
 懇願を心地よく聞きながら。メリアドラスは露わになった首筋に舌を這わせる。
「お前は、解っていないだろう…?」
 それは独り言に近かったけれど。
「私がどれだけ…恐怖を味わったか、など」
「なん…でっ…」
「お前を失う痛みなど、想像を絶する。それくらいならば、お前を人でなくしてしまった方がまだマシだ」
 嘆きに近いその本心を初めて聞いた気がする。いつも悠然としたこの国の王をここまで弱らせるあの存在。
 メリアドラスの本心を聞いて、危機感が甦ってきた。胸が苦しくなる。訳も分からず謝ってしまいそうで。
 自由な方の手でその首に縋り付いて、カグリエルマは途切れがちに名前を呼んだ。
「なら…っ…、遠慮なんか、…すんな…よ…」
 この俺に今更何を遠慮する必要があるのか、と。
「ホントは、我慢なんか…できないんだろ」
 言うと、散々焦らしていた動きを止めて、メリアドラスは涙に濡れて銀色に見える瞳を覗き込んだ。
「加減なんか、しなくて、いい…」
「……お前を傷つけるかもしれない」
 今の私には、それが一番怖いのだ。本能混じりの欲望を、無理矢理押さえ込んだ深紅の瞳がそう告げていた。
「お前に傷付けられることなんて、ない。……乱暴でも、平気だし……。それ、に…」
「……それに?」
 聞き返されると、顔を背けた。目尻や頬をさらに紅く染めて、何度か口を開いては閉じる。黙って答えを待っていれば、微かなほど小さな囁き声で。
「……このまま、されてた方が、……変に、なる。だから…滅茶苦茶にしても、…いいから」
 もっと、欲しがって。
 赤い舌が覗く濡れた唇で、そんなことを強要されれば。せっかく押さえ込んでいた激情に身を委ねそうになる。
 やんわりと精気を奪っていた、それだけでは足りない。本当は。早い脈で誘うその鼓動に牙を立てて、渇いた喉を潤したい。気遣いなどできないくらいに、本当は余裕なんかないのだ。
「…知らん、ぞ」
「……大丈夫」
「泣いて止めても、お前を喰うかもしれない」
「腹、減ってんだろ。……俺は、美味いぜ…?」
 まるで魔物のような、甘美で妖艶なその微笑。淫靡なまでのその仕草は、半分が虚勢だと解っているけれど。しかし抗えるものではない。
 辛うじて残した理性で、音を立てて唇を啄む。
「愛している。それだけ、覚えていろ」
 精々優しく囁いて、先程十分に確かめた首筋の脈に食い付いた。
「…ぃっ…!!」
 皮膚を食い破られて、カグリエルマが呻く。回した手の平で背中に爪を立てた。しかし吸血に痛みなど一瞬だと、既に身体が知っている。
 補食特有の快楽物質が中枢神経を鈍らせて、背筋を駆け上がるような快楽を植え付けた。一度知ると二度と忘れられないような、常用性のある危険な快楽だ。抵抗を全てなげうって、獲物として大人しく身体を預けてしまう、そんな気持ちにさせる。
 失血で冷える身体を無理矢理燃え上がらせ、耳の中で煩く鳴り響く鼓動は粘膜を擦り上げる動きに合わせてやる。
 喰われている、この瞬間だけは二人の位置関係が崩れる時だ。確かに方や人間で方や魔物の王だが、お互いに対等であると理解している。しかし獲物になるこの時だけは、確実にカグリエルマはメリアドラスより下位にいた。それは奴隷や捕虜のようなものだ。絶対に、逆らうことはできない。我を忘れ従順になる、その瞬間。対して、征服者になる、その瞬間。
「あっ…、ぁ…んっ…ッ…く…」
 散々焦らされていたときとは違う、気が狂いそうなほどの快絶。痺れるような、あからさまに淫らな動きで。自然に奥まで入り込んできたメリアドラスを包み込むように締め付けると、膝をすくわれて乱暴に突き上げられた。
「ひぁッ…あっ、ぁ…あ――――……!」
 いい加減我慢を繰り返していた身体は、あっけないほど陥落してしまう。補食されているそれ自体の陶酔感と、手加減のない出し入れに、促されてもいないのに自身を解放して。ざわりと鳥肌がたったその肌は、漆黒の毛先が触れるだけでも刺激になる。余韻で何度も締め付ける敏感なその内側の皮膚を、メリアドラスは容赦なく突き上げた。
 喉を鳴らし熱く脈打つその血液を飲み干して、傷口を抉るように舌先で舐め取ると、悲鳴のような喘ぎが聞こえた。
「やぁっ…あ…っ、も…少し…、…ゆっく…り!」
「無理だ。そんな余裕など持ち合わせていない」
 肌をぶつけるくらいの強さと強引さで、ぎりぎりまで引き抜いてから一気に。そのまま奥を穿ちながら、揺するように性感帯を押し上げると、物欲しそうに絡み付いてくる。
 自然と流れる涙を舐め取ると、無防備にしがみついてきた。
「こんなものじゃない。いっそ……堕として、やる」
 ベッドの軋みの合間に漏れる濡れた音に煽られて。腰を抱えてもっと足を広げさせて、深い位置を狙って押し上げると、まるで貪欲に引きずるような動きで何度もきつく締め付けてくるから。普段より抑えの効かない自分を許して、一番奥で解放してやる。
「…あ…つ…ッ…」
「お前の中が、な…」
 口の端だけで笑んで。達しても堅さを失わなかったそのままの角度で、随分と滑りを帯びたその中をわざ と不規則な動きで掻き回す。その動きに収まりきれなかったものが、厭らしく音を立てながら溢れ出してシーツを汚した。
「めり…ぃ…っ、ゃあっ…、メリ…っ…!」
 もう、名前を呼ぶことしかできなくて。喘ぐこの声を堪えることもできなくて。せめて自分も欲しているんだと解って貰えるように、漆黒の髪に指を絡ませて、そのままぎゅっと首にしがみつく。
「………愛している、カグリエルマ」
 その低く掠れた凶暴な囁きを聞き取れないまま、今度は一緒に高みを目指した。

***

「…結局、顛末って何なわけよ?」
 最終的に意識を飛ばしてしまったカグリエルマは、漸くちゃんと目が覚めてから幾分掠れた声で尋ねた。指一本動かせなくて、ただ黙ってシーツにくるまっている。メリアドラスの傍からは、どうしても離れがたい。喰われた後は、どうしても。まるで主に縋る召使いみたいに。
 身体が動かないぶん言葉を使おうと、矢継ぎ早に質問を口にする。
「ここ、何処なんだ?俺は城にいたはずなんだけど。なんでこんなとこにいるわけ」
「私の城より大分離れた別荘の一つだ、ここは。新月は闇があまりに深くて、感覚が鈍くなって困るな。お前を傍から引き離すべきではなかった」
「何だよ。視界から消えても駄目?」
「次からは、な。腕の届く範囲でお前を遊ばせることにする」
 なんて、物騒なことを言いながら。メリアドラスは背を預けたクッションから身を屈めて、カグリエルマに口付けた。
「翼…。そういえば、もう消えてるけど」
「手加減無く力を使った反動だ。本性が出かけた」
 鳥にしては禍々しく、それでも神秘的な翼を、いつかもう一度見てみたいなんて思いながら。
「追い返した時に、何か言ってたよな。聞き取れなかったけどさ」
「……ああ、気付いたのか。『息子』である御陰で、私は唯一あれの真名を知っている。人間の舌には発音できるものではないから、恐らく聞き取ることも不可能だろう」
  『息子』であるメリアドラスが真名を知っているということは、『父親』であるあの人物がメリアドラスの真名をしっているのもまた事実。
 繋がりがある、と低く呟いて。
「闇が深ければ深いほど、あいつが私に干渉できる確率が上がる。私が選んだ人間に手を出しに来た。あいつは、愛や執着を理解しない。好きなだけ貪り、犯し、殺して、すぐに次を探し出そうとする。際限がない、欲望その物だ」
 思い出したのか、苦い物を飲み込むように眉間にしわを寄せて。
「私との絶対的な力の差を知っていて、わざと見せつけるように私の城からお前をさらった。存在を示す闇に取り込み、お前を嬲り殺すつもりだったのだろう」
「………マジ…?」
「危機感が、足りない。…知らなかったのだから、無理もないが。私は、気が狂うかと思った」
 吐き出された、その言葉。
「お前が自分の物だと確認しなくてはどうしようもない程」
 カグリエルマが付けた爪痕が、肩口にいくつか残っている。漆黒の髪を掻き上げて。『父親』だというあの男より、よっぽど人間的な表情を持ったメリアドラスが、どうしようもなく可愛いくて、愛しくて。
 動かない体を何とか動かして、そこに存在していると証ている熱を求めて擦り寄った。
「メリアドラス…」
 名前を呼ぶのは、好きだけれど。好意を囁くことは酷く恥ずかしくてもどかしい。本当は、何一つ恥ずかしがる必要などないのだけれども。
「…………好きだ。…愛してる」
「何だ…?」
 聞こえなかったとでも言うように、嬉しそうな顔で覗き込んでくるから。本当は人一倍言葉を欲しがるメリアドラスに、今日くらいは何度でも言ってやろうかと思う。
「あいしてる」
 視線をぴたりと合わせたままで囁いて、おまけに綺麗に微笑んでやる。
「………嬉しいが。あまり、煽ってくれるな」
「何で?」
「欲求に底はない。これ以上は、さすがにお前を壊しかねん」
「いいよ」
 さらりと、簡単に答えてみれば。メリアドラスがあからさまに驚いて、血の色に似た瞳を見開いた。細くなった瞳孔はまるで肉食獣のそれだ。
「知らん…ぞ」
 最中と同じ答えを返して。
 いつになく高ぶっている神経を、それこそ磨り減らす勢いで沈めるために。
 がっついてくるその身体を、受け入れられる限界まで受け入れてみようと。
 お互いに、確信犯に似た笑みを浮かべた。

  

メリークリスマスキリ番!たまりゃん様に捧げます!
すっかり新年も明けてしまいましたが、片目を瞑って戴けるとうれしくて泣きます(笑)。
色々指定していただき、私的には大変助かりましたが、一カ所だけどうしてもリクエストに添えないものがありまして…。
ごめんなさい。「カグラの命が危険的なピンチ」 とリクエストではなっていましたが、怪我や何かで生命の危機が生じた場合、メリアドラス等魔物サイドの生き物にそれを治療する術は皆無なのです…。
なので、カグラが生命の危機に瀕するような自体になれば、それはもう「人間止めてくれますか?」(笑)と言っているようなものなので(笑)。
メリアドラスに吸血を貰うなりなんなりしなければならないわけで…。私設定では、カグリエルマは人間のまま生かしていきたいので、貞操の危機に(いえ、ある意味命の危機でしたが)変えさせていただきました。勝手ですいません>_<ぁぅ
そんなこんなで、こんな話が出来上がりました。ちょっと遅れたメリークリスマスプレゼントになれば嬉です。
リクエスト、有難うございましたー!!
2004/1/11

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