Evening Dress

geter様以外の持ち帰り厳禁!! くぅちゃん様へ>>>12345hit

「知ってる?吸血鬼ってすっごいカッコイイんだって!!」
「何よアンタ、見たことあるの?」
「この間客に来てたハンターがいってたのよ。寝物語にしてはちょっといただけなかったけど」
「ああ、客の顔と比べてさめちゃったんでしょ?」
「そ〜。疲れたから帰れなんて言えないしさ」
 あははは、と笑い声が室内に響いた。
 ここはアグライアの花街、その一角で一際高級感を漂わせている娼館ヨリンゲル。
「ハンターっていえば、カグラに聞いてみたら?」
 と、長身のヒルドが提案する。
 テーブルの端で昼食を食べていた俺は一斉に彼女たちに囲まれてしまった。
「ねぇねぇねぇねぇ!!吸血鬼にあったことある!?」
「…………ある、けど」
 ええ、毎日。
 とは、さすがに言えない。
「どうなの!?」
「どう…って?」
「人間に比べてカッコイイわけ!?」
 12個の瞳が期待を込めて俺を見ている。
「………何、俺と比べて?」
 一応聞いてみると、温厚そうなアルテミアに叩かれた。……いたいよ。
「あんたの顔なんかいいのよ別に。ねえ、勿体ぶってないで本当のこと教えなさいよ」
「何を基準に『カッコイイ』のかわかんねぇが、容姿が優れていることは確かだよ。ってゆうか、美女美形以外は見たことがない」
「へー…………ほんとなんだ〜」
「そういえば、ちょっと前にグレンダル家のお嬢様がさらわれたって話あったわね」
 と、過去の古傷に触れられる前に俺は食事に専念することにする。
 三つ子月の一日目、俺とメリアドラスは飽きもせずアグライアに小旅行をしに来ていた。そのメリアドラスはヨリンゲルの特別ルームで日が沈むのを待っている。
「ねえ、カグラ。メンドシノ様は?」
 少女のようなカルチュアが、俺を横から覗き込んだ。
「部屋で寝てるんじゃないか?あいつ夜行性だから」
「あんたと違って繊細なのよ。長旅で疲れが出たんじゃないの?なんならマッサージサービスするわよ?」
 あきらかに違う目的を持ったヒルドが笑う。
「食われちまうから止めた方がいいぞー」
「やぁだー!行ってこようかなアタシ!」
「止めろ止めろマジに」
 きゃあきゃあはしゃぐ女達。だがしかし、横で微笑み続けるカルチュアはさらに俺を覗き込んで、
「どうして止めるんですか?嫉妬?」
 その言葉に、俺はパンを喉に詰まらせた。
「図星ですか〜?」
「何?どうしたのカルチュア?」
 く、苦しい。何か飲むもの……!
 急いでグラスを飲み干すと、女達がいっせいに俺を見てにやけた。
「へ〜、そうなの」
「げほ。そうってどうだよ」
「やぁねぇ、誰もとらないわよ」
「だから、何だよ!!」
「照れてる〜」
「誰がだ!!」
 彼女たちの含み笑いにさらされながら怒鳴ったとき、かたりと後ろで音がした。
「妬いてくれるのか、嬉しいな」
「うわっ!」
 いつの間にかやってきたメリアドラスが、俺の背後にぴたりとくっついていた。本当に嬉しそうな重低音の声を耳元で囁いたのだ。そしてそのまま、首筋に唇を落とす。
「なななななっ………!!」
「お早うございます、メンドシノ様。何かお持ちいたしましょうか?」
「そうだな、このワインを貰おうか」
 こちらへどうぞ、と席を譲ったカルチュアはその足でワイングラスをとってきた。注がれたワイン白ワインを一口飲んで、メリアドラスは横で固まる俺に流し目を送る。深紅の瞳があからさまに楽しそうだ。
「彼女たちに混ざっていても違和感がないな」
「どーゆう意味だよソレ」
「心外だな、誉めたつもりなのだが?」
 静かに微笑まれて、俺は怒鳴り返せなくなる。
 あまり構うとどつぼにはまりそうなので、俺は食事に専念することにした。しかし殆ど食べ終えているので、あまり気休めにはならなそうだ。
「ところでメンドシノ様、どうやってカグラを落とされたんですか?」
「私も気になっていましたの。この堅物ったら、何も教えてくれないんですもの」
「ナンバーワン主義だったカグラをどうやってオンリーワン主義に変えたのか、とても気になりますのよ」
 年頃の女の口調と、貴婦人の話し方を人物によって巧妙に使い分けるあたり彼女たちは正直者だ。目線や仕草まで変えてみせるから、やはりプロなんだろうと思う。
 だが、そういう話を本人の目の前でするのはどうかと思うぞ。
「このまま何もせず帰す気は無かったからな、意志を明確に告げて、あとは押して押して押しただけだ」
 こともなげに、考えもせず述べた。
「あら、強引なんですのね」
「自信があったからな」
 そうですか…。
 首の辺りがぞわぞわする。異常に居心地が悪くて、俺は食器を片付けに立ち上がろうとした。が、メリアドラスに阻まれてしまった。わざわざ腰に手を回してくるのは絶対に確信犯的だ。
「主役が逃げてどうする」
「………だから、そういう話するなら、俺のいないところでやって下さいよ」
「だって、あれだけ私たちが心配して待っていたのに、あんた何も教えないんだもの。それって卑怯じゃない。何があったのか白状しちゃいな」
 びし、と指まで突きつけてヒルドが笑う。
「恋人かどうかさえ言わないんだもん。とっちゃうわよ」
「どーだっていいだろーよ」
「あんたも煮え切らない男よねー」
 そんな事言われても。
 もう何年の付き合いかも忘れてしまった彼女たちの前でいちゃつけるほど神経太くないんだよ俺は。
「頑固者だからな」
 今更、といった口調でメリアドラス。肩でひとまとめにしていた髪を解いて、何度か手櫛で梳いてからいつもの三つ編みにしている。
 何故か逃げられなくて、女達の視線にさらされながら、俺は小さく息を吐く。窺うように彼女たちへ目を向けると、十二の瞳が驚きに見開かれてた。
「びっくりした。本気なんだ、カグラ」
「は…?」
「だって、カグラさん、私たちにも髪の毛触らせてくれないじゃないですか」
「切るのも編むのも自分でやってるでしょアンタ」
 言われて、再確認してしまった。そう言えばそうだ。俺は今まで他人に髪を触らせたことがほとんどない。どんなに仲が良くても他人が髪に触れることが嫌で仕方なかったが。
「それは光栄なことだな」
 嬉しそうな声で囁かれ、咄嗟に言い返せばいいものを、言葉が詰まってしまう。眉間にしわを寄せてメリアドラスを睨んでも後の祭りで、彼はおもむろに髪の一房を手にとって愛おしそうに口付けた。
「だ…だからっ!そーゆーのを人前でやるなっつーのに!」
「人前じゃなかったらいいのかしら?」
「よくねーよ。勝手に解釈しないでくれよ」
 深々と溜息を吐いて、俺は自分の手で顔を覆った。どっちへ曲がっても行き止まりの道へ迷い込んだようだ。
「あんなこと言ってますけれど、よろしいのですかメンドシノ様?」
「そうだな。後でじっくりと訂正させてやるから、今は何を言っても構わないさ」

「あら怖い。ならわたくしたちが協力いたしましょう」

***

 俺の意思って、きっとそんなに重い物じゃないんだな。
 彼女たちにとっては。
 なんでこんなことしなきゃいけないんだろう。

「やだ!あの香水どこいったっけ?!」
「あ、あたし持ってる〜」
「ちょっとカグラ、お願いだから今だけ髪触らせてちょうだい。これだけやっておいて、髪いじらないのは犯罪行為だわ」
「お前等の行動が犯罪行為だろうと思うがどうだ?」
「何よ、メンドシノ様喜ばせたいでしょ!?協力なさいよ」
「女装した男に喜ぶってのは既に変態の域を出ているだろそれは」
「元々性別なんてあまり関係ないのよ。食指が動くかどうかで性別を超越できるものなんだから。もともと女好きだから、女の恰好した美男子見たって喜ばないはず無いわ」
「どんな理屈なんだソレは」
「ってゆうか、あんた男に見えないのよ今は。もぉ、いいから、黙って!ルージュがひけないわ!」
「どうする〜パット入れる?」
「入れんなっっ!!!」

 格闘すること一時間。
 俺の抗議は黙殺された。

***

 ヨリンゲルの特別室前にあるホールが、微かにざわついた。
 既に日が落ちているので、ちらほらと客の姿が見える。 
 うわ。誰だか知らないが、特別室に来る客だ、そこそこの地位と金があるんだろう男達が、明らかにこっちを見ている。
 その一番良いソファには、メリアドラスと数人の女性が座っていた。なかなかいい雰囲気に見えるが、奴はまじまじと俺を見ている。
 仕事のために女装をしたこともある。そこら辺の女より女らしく見える自信もある。だが別に趣味でもなければ喜びでもないのに、なぜこんな恰好しなくてはいけないのか。そりゃメリアドラスは嫌がらないだろうが、例え喜んだとしても、その変質的な喜びのために俺が恥をかかなければいけない道理など何処にも存在しないだろう。
 がっちりと脇を固められ、俺は人形のように歩かされている。彼女たちの判断は正しい。誰もいなかったら俺はすぐに逃げ出している。
 鏡を見て、俺が絶句してしまった程だ。一目散に逃げたい。
「そちらのご婦人は初めて見るな、名前を窺ってもよろしいか?」
 紳士と言うにはまだ若い男が声をかけてきた。
「彼女は特別ですの」
「特別料金、ということかな?」
 どれだけ金積まれてもやらねぇよ。
「申し訳ありませんが、わたくしどもはそのご質問にお答えできませんわ」
 有無を言わせず微笑んで、俺はメリアドラスの前に引っ立てられる。
「………随分と化ける」
 それが第一声だった。息を呑むのも驚かれるのも初めてだが、誰がこんな場面を想像しただろうか。
「ほら、下向いてないで、早く感動のご対面しなさいよ」
「どの辺が感動なのか俺に理解できるように説明してくれ」
 俯く俺の視界に映る橙色髪は、彼女たちの苦労のお陰でくるくると手間のかかるウェーブになっている。髪飾りの類は無いが、所々きらきらと光に反射していた。
 足下に見えるレースは、黒のイブニングドレスの物だ。胸元を隠してあるので、首まで襟が詰まっている。そのかわりに二の腕は剥き出しだし、ベルベットの生地が肌にまとわりついて嫌だ。ストールの御陰で直に肌を見せることは免れているが。
「カグリエルマ」
 わざわざ、そんな優しげな口調で名前を呼ばなくてもいいだろう。きっと、彼は解っていてわざと彼女たちの前で見せつけてやる気なのだ。なんでそんな酔狂につきあってやらにゃならんのか。
 返事もしない俺を焦れったく思ったのか、メリアドラスは俺の顎を掴んで上向かせた。
「……っ…」
 見つめ合うこと暫し、人間に擬似した黒い瞳孔が一瞬だけ細長く獣のそれに見えた。
「困ったな。私の負けだ」
「は?」
「お前が女に見える。どれだけ着飾ったとしても男に見えると思っていたのだがな」
「その目玉は飾りか…」
 げんなりと告げた俺だが、自分でもおかしな程、鏡に映るその姿はまるで女だったのだ。ストイックなまでに露出のないドレスなのだが、紫がかった口紅と誘うような目元がアンバランスで逆に惹き付けられる。気付けばさりげなく腰に回された腕の所為で、俺は奴にしなだれかかるしかなくて、あからさまにラブシーンを演じている。
 長い指が後頭部を撫でる、その仕草があからさまに性的な動きで。
「あらぁいやだわ。わたし達って邪魔なのかしら?」
「でも、すっごくいい物見れてますね」
「ねえカグラ、アンタ本気でウチで働く気ない?」
 外野が好き勝手なことを言ってくれているが、俺はこの後どうなる。
「本気で、口説いてもいいか?」
「今までは本気じゃ無かったのか」
「誤解のないように言うが、どんな恰好をしていようと愛している。それに、随分と甘い香りがするな。この場で食べてしまいたい」
「…っ……」
 途端に騒ぎ出す外野達。
「今晩の予定は全てキャンセルして、ここで思う存分味わうとしよう。勿論合意するだろう?」
「ふ…ふざけんなっ」
「あまり騒ぐな。この場でその口を塞ぐぞ」
「なんでこーなんだよ」
「いいかげん諦めたらどうだ?どうせこの後二人で部屋に籠もれば疑惑は確実に確定されるんだ。………ああ、この恰好のままお前を外へ連れ出すのもそれはそれで楽しそうだがな」
 そ、それだけは勘弁してくれ!
 本気でやりそうな気配を察知して、俺は思わずメリアドラスの腕を掴んだ。
「さて、私もそれほど理性的ではない。そろそろ部屋に戻らせていただこう」
 幾分邪悪ともとれる野性的な微笑みを彼女たちに残して、メリアドラスは俺を抱き上げた。
 俺が発した抗議の声は、奴の唇によって塞がれてしまった。

***

「結局なんなのよ。私たちの入り込む隙なんて無いんじゃない」
「なんか、得した分、損した気がするわ」
「覗けないのが残念ですね」

 告げた彼女たちの文句は、閉じた扉の前で消えたのだった。

 

  

12345HITのキリ番を踏んでくださったくぅちゃん様に捧げます!
「カグラとメリー、ラブラブな話」というリクエストでした。
ラブラブがいつの間にか女装話に変わってました(笑)。素直に御免なさい。 主人公より脇役の方が異様にめだってますね。期待してたのと違うわ!と言われてもぐうのねも出ません。エロでラブラブは書きやすいんですが、何もしないでラブラブするのがちょっと妄想できませんでした(笑)。
頑固者カグラさん、この後美味しく戴かれました。お粗末様です。
御来訪感謝!!
2003/9/21

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