Idle Talk

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 レカノブレバス大銀河、その中心に位置付けられる巨大軍事基地『AUGAFFセントラルスフィア』。小惑星ほどの大きさを持つ人造星の中、高機密レベルに属する将官自室の一角。レイヴン・ルイ・ローゼンヴォルト准将の自室は、本来将官らしからぬ、いやむしろらしいともいえる、有様だった。
 将官寮の作りは広く、簡易キッチン付のリビング、寝室、それに要人警護用の客間が備え付けられている。そのリビングのソファには、男物の長い軍用のジャケットが無造作に放り投げなれ、形状記憶のおかげで皺こそついていないものの、あからさまに脱ぎ散らかした様を浮き彫りにしていた。点々と絨毯に落とされた衣類と軍靴。それに混じるサイズ違いのジャケットやシャツが寝室までつながっていた。
 何があったのか、容易に想像が付く。
 軍人にとって時刻はあまり関係ない。朝だろうと昼だろうと夜だろうと『訓練』と称する招集がかかれば馳せ参じなければならないし、第一勤務時間が三交代制なので、シフトによっては昼夜が逆転してしまう。
 それでもやはり将官になればやや規則的な生活もおくれるのだが、ことローゼンヴォルト准将の場合はいささか異なっていた。彼は事実上、白兵科の准将という位置づけで、戦闘時には艦隊を率いる立場にいるのだが、普段は実に機密的な実務をこなしている。特務科と呼ばれる部署の責任者であり、その仕事内容が表舞台に出てくることは皆無であった。対テロ部隊、または攻性の諜報活動も買って出る。
 そんななかなかミステリアスでエキサイティングな部署の責任者の自室の扉に、第一秘書の女性が立ち止まった。
 ブザーを一度。
「ボス」
 短く呼んだ言葉にも返答はない。通常勤務外の訪問なので、部屋の主が眠っていることは想像に難くない。だからといって、はいそうですか、で済ませられるわけでもなく、波立つ赤毛を軽くかき上げて、第一秘書クイーン・リンデンバウムはもう一度インターフォンを鳴らした。
「ボス、申し訳ありませんが、至急処理していただきたい書類があります」
 ハッキリとした活舌で。
 書類自体はペーパーメディアではないのだが、いまだにその言葉は使われている。今持っている書類は本来休み明けでよかったのだが、期限が急遽早まってしまっていた。
「ボス!」
 幾分強めた口調で呼ぶと、インターフォンのコンソールが赤い光から緑に変わり、入室の許可が下りた。クイーンはため息を隠しながら、勝手知ったる上司の部屋に電子バインダーを片手に入室した。

***

「……ヤベぇ」
 ルイはコンソールを操作してからおもむろにつぶやいた。
「………ヤバイだろ、これはさすがに」
 寝室の扉は閉まっているとはいえ、いくらなんでもこの惨状を秘書に見られるのは気が咎める。
 銀糸の髪を乱暴に掻きあげて、何か上に羽織るものを探してみたのだが、手に届く範囲には何もない。せめてもの救いにズボンだけははいていたことに感謝した。
「……ボース。いったいこれは何なのよ?」
 リビングに脱ぎ散らかした洋服の類を見たのだろう、すっかり素に戻っているクイーンは悪態をついた。
「今行くからこっちに入ってくるなよ!説明は後だ」
「んなこと言ってられないでしょうが!アンタ自分の立場わかってるの!?将官寮に女連れ込むなんてばれたら減棒どころじゃすまないわよ!?」
 もっともな科白である。文句も言えないルイは、せめてもの抵抗に心中で、相手は男なんだけどな……、とつぶやいてみた。
「軍人たるもの秒単位で着替えをして頂戴。入るわよ」
 この女性、なかなかやり手の秘書であり、かなりの美人でもあるのだが、いかんせん付き合いの長さのおかげであまり懸命な主従関係とは言えない。ルイのゆうに倍の年かさであって、彼が士官になりたてのころからの面識がある。時に母のようなその態度に、ルイは苦笑はすれども迷惑ではなかったのだが。
「だぁー!待て待て待て!!」
 目下のところ男(特に自分の上司)のプライバシーを尊重しないクイーンは、鍵をかけられる前に手早く寝室の扉を開けた。
「だから待てっつってるだろーが………」
 一般兵よりだいぶ大き目のベッドに腰掛けながら、ルイは盛大に肩を落とした。
 平均的レカノブレバス人より少し大きめの体躯。白くはない健康的に鍛えられた上半身が裸で、その背中には銀糸のような見事な髪が流れている。他星人などを考慮に入れて、髪形の規定などがないおかげで、その長さは背中の中ほどまであった。
 標準年齢で26歳。それにしては異例の人事なのだが、数々の戦歴と勲章がこの男の価値を表していた。飄々としている裏で、彼がどれほど残酷で容赦がないのか、身近な者ほど身に染みてよくわかっている。
「本来、アンタの部屋に部外者を入れる場合は、いろいろな手続きがあるのよ。職権乱用傘に着ていばってんじゃないわよ」
 にやにやと笑うクイーンはレカノブレバス系ではなく、遥か東方の他星系の生まれだ。赤茶の肌と赤い髪、黄色の瞳が特徴的である。
 ため息をつきつつ顔を上げたルイの瞳は深紅。なかなか凄艶なコントラストなのだが、クイーンにとってはその後ろに丸まっている赤みがかった金髪が気になった。
「アレクシスかしら?」
 これだけ騒いでも起きる気配のない人物の名はアレクシス・カレル。リビングに脱ぎ散らかされた服の半分は彼の持ち物であるはずだ。
 どうして准将の部屋に部外者を入れることが出来るのか、本当のところをクイーンは理解している。軍内部を統括するコンピューター郡の使い手が、ルイの部下であり悪友であることをしっかり把握しているので、きっと今この場に他人が『存在』している事実はないのだろう。
「いつのまにか、そんな仲良しになったのね」
 こらえきれない笑いを漏らしながら。覗き込もうとしたクイーンを制すように、ルイは身じろぎする。ちらりとのぞいたうなじに、生々しく情事の跡が点々と残っていた。
「激しいのね」
「黙れっての。ホラ、仕事かしなさいよ。とっととサインして帰ってクダサイ」
「アラ、そんなこと言っていいのかしら?私がバラしたら、貴方明日から基地内歩けないわよ?」
「………………中年の婆かお前は」
「誰がババアですって?」
 ぼそりとつぶやいたその言葉を耳ざとく聴きつけて、クイーンは微笑を浮かべながらピンヒールでルイの足の甲を踏みつけた。
「めっそうもない、美しいお姉さまっっ!!」
 とたんにかぶりを振ったルイの声に気づいたのか、シーツをかぶって丸まっていたアレクシスが小さくうめいた。
「あら、起きたわね」
「こんだけ騒げばそりゃ起きるだろ」
 幾分あきれながら。
 もぞもぞと体を動かして、アレクシスが眠りから目覚める。ルイは深紅の瞳を細め、屈み込んでその耳元に低くささやいた。
「おはよう」
「………んんー……?」
 くすぐったそうにしながら、体の向きを変えたアレクシスは目の前にルイがいることに少しだけ驚いた。
 それを眺めていたクイーンは、あんまり妖艶なその姿に驚いてしまった。初対面のときにも面食らったその美貌。そこら辺の美女を集めてきてもかなわないくらいの美形なのだ。ルイも平均から見れば随分と美男子なのだが、如何せんアレクシスの美貌とは一線を引く。あまりに美しいと恐怖する、そんな畏怖を含んだ美しさだった。少しばかり赤みがかった金髪と、スカイブルーの瞳。鍛えられていてもごつくはない華奢な体躯。
 今はあちこちキスマークが散った身体をさらしている。知らずクイーンはため息を漏らした。その音が聞こえて、アレクシスが目を剥く。
「………クイーン!?」
 ルイの陰で見えなかったので大いにあせった。まさか誰もいないと思っていたのだ。気配を読むことに長けているので、普段ならば決して見逃すはずはないのに、ルイのそばにいるときだけなぜか決まって無防備になる。
「フォルトゥマラ大教会の傭兵さんはずいぶん色っぽいのねぇ。これも契約内容なのかしらぁ?」
「………依頼内容は極秘なのでお話出来かねるな」
「って、ルイ、アンタなんのためにアレクを雇ったの!?あの強突張りの枢機卿に貸し作るのだけは勘弁ならないわ!」
 電子バインダーを放り投げながら、第一秘書は腰に腕を当てた。子供が二人いるようには見えないボディラインを惜しげもなくさらす軍服が似合っている。
「契約なんざしてねぇよ。ごく個人的なオツキアイってやつだ」
 浮かび上がるホログラムを一瞥して、幾つか署名を施しながら飄々と答える。
「だったらなおさら悪いのよ!このあいだの事件の時は例外的にアレクを雇ったからいいものの、恋 人として呼び寄せるのなら、本星の邸宅に呼びなさい!あんなばかでかい家持ってるんだから、有給を消化していただきたいわ」
「………お前が俺のスケジュール握ってる癖に、何時俺に有給なんぞ取れるのよ」
 親子漫才の様な会話を頭上で聞いていたアレクシスは、堪らずに吹きだしてしまう。
 シーツにくるまってその肢体を隠しながら、声を立てないようにくつくつと笑った。金髪がさらりと音を立てる。年はまだ若い。標準年齢に換算しても20〜22歳前後だ。だが、彼は若輩だからと言って侮れる程弱くはなかった。
 百戦錬磨のガンマン。そのすばしこい動きに加え、凄まじい精密射撃の腕をもったガンファイトのプロである。
「よくよく見たら、宇宙一そら怖ろしいカップルだわね」
 クイーンは外見上を見て言っているのだが、この二人はこの銀河系で類い希なほどの特殊な超能力を持っていた。
「……失礼な奴だな。………ほい、署名終わりだ。さっさと俺の休日返せ」
「はいはいはい。わかってるわよ。邪魔してごめんなさいね、アレクシス。レカノブレバス本星から来るの面倒くさかったでしょ?甘やかさないで断っちゃっていいのよ?」
「イエス、マム。覚えておくよ」
 民間人だとしても重大な危険と違反を侵していると知っているアレクシスは、それでも悪びれずに笑った。
 その笑みに投げキスを返して、第一秘書はそそくさと寝室を抜け出した。

***

 やっと静かになった室内で、二人はお互いに溜息をもらす。
「あー……悪いな」
 サイドボードから害を取り除いた煙草を取りだして、ルイは火を付ける。
 もう少し眠ってもいいのだが、困ったことに目が冴えてしまっていた。
「不可抗力だろうよ、准将サン。いつも大変だな」
 怠そうに俯せの姿勢に移動したアレクシスが、上目遣いで茶化す。と、野生の獣みたいにニヤリと笑って、ルイが顔を近づけた。そのまま触れるだけのキスを繰り返し、徐々に熱を帯びていく。アレクシスが鼻に抜けた喘ぎを漏らした時になって、やっとお互いに離れた。後ろ髪を引くように名残惜しげな濡れた跡を舐め取る。
「やっべぇ。あんまり煽るから、勃ちそう」
「……アホか。これ以上やったら、俺が立てなくなるだろうが」
 いけしゃあしゃあとのたまって、アレクシスはルイの煙草を奪い取る。人体に無害化されたそれは、幾分物足りなく感じた。
「いきなり呼び出すなんざ、またどっか遠征か?」
「あ?ああ、まあな」
「ゴクロウサマ。さすが宇宙一のカウンターテロ部隊。俺達傭兵の出る幕ないね」
「………何回も言ってるが、俺の部下になんねぇか?」
 新しい煙草に火を付けて、ルイは真剣に聞いた。殆ど裸でシーツにうずくっまっているアレクシスは、深海色の瞳を細める。どこか意地悪そうな笑みを浮かべながら。
「ソレとコレは別だろ。それに、俺は軍隊生活なんか性に合わない。気ままな教会暮らしが一番楽だ。規則も規律も無い、客のニーズに応えるだけ」
「……くそ枢機卿と同じこと言いやがる」
「巨大冠婚葬祭組織の頭なんだから、そんなに邪険にするなよ。あれでもコネと権力は馬鹿に出来ないんだぜ?」
「だからムカツクんだ。俺の軍以外で掌握できない組織があるなんざ、寝覚めが悪いことこのうえない」
 悪態を付きながら、ルイはアレクシスの髪を撫でた。
「出来るもんなら、いっそ閉じこめておきたいな…」
「…………」
 最近の事件で知り合った二人だが、遙か遠い昔からの因縁がある。
 全部捨てて突っ走ることは容易だが、そうできるほど人生を捨ててはいない。
 お互いに曰くありげな視線を絡ませて、どちらともなく唇を重ねた。

***

 ようやく寝室から出てきたルイは脱ぎ散らかしてあったはずの衣類がソファの上にきちんとのせてあって、第一秘書の有能さに悪態を付いたのだった。

  

四万打ゲットのかる。さまにプレゼントいたします。
なにやら、必死に狙ってくださったみたいで嬉です。
イラストにちらちらっと出てきている、SFものの二人組です。銀髪の方がレイヴン・ルイ・ローゼンヴォルト、金髪の方がアレクシス・カレルです。ちょっと、事情があって当たり障りのない物しか書けませんでしたが、どんなもんでしょうか…。
組織名などはまた変わる可能性もあるので、あんまり言及できません…。あう。おう。へにょ…。本編後の二人の話、みたいな物です。登場人物も莫大、ではありませんが、世界観も規模もまるでSFです。
ああ、ネタバレできないので、さっぱりわからなかったりすると思いますが、まあ、「ふぅ〜ん」程度に楽しんでいただければ…。(なんて読者様に冷たいんだろう。大変申し訳ありません!!)
かる。様、ご来訪大感謝です!!
2003/11/17

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