Wolf's Passion

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 科学者なんて生業は、何処かの研究室か教授職にでも収まらない限り、食うに困る職である。
 ただ、セツ・スフォルツァの場合、堅苦しい研究室も、小難しい理論を教える事も、そのどちらも向いては居なかった。成果を求められても困るからだ。自分の好きなことを研究していたい。
 だから私立高校の教諭という職は願ったりだ。教科書が予め指定されているのだから、それに沿って話せばいい。生徒が寝ようと漫画を読もうと知ったことか。授業さえこなせば、理科学教室などの機材は好きにしていいという破格の待遇も好ましい。この学園の経営者には一応の敬意を表していた。
 高層住宅が所狭しと街を埋めるこの時代、庭付き一戸建てを買おうとすれば自然と郊外に居を構えることになる。
 しかしセツの住居はそうなる以前から街の外れ、雑木林生い茂るような端っこに建てられていた。自分が建てたのではなく相続で所有者になったのだが、相続税を払って余りある価値がここにはあった。
 現代の錬金術師と謳われる科学者、キュヴィエ。凡人が理解できぬ原理で動いていた女傑は、様々な発見を世に送り出したがその殆どは受け入れ理解される前に非難された。彼女は人工的な皮膚や肉体、それに類する研究を好んでやっていた。医学界で許認可が下りているものもあるし、倫理屋から叩かれてお蔵入りになった技術もある。だが彼女はいくら非難されても、何食わぬ顔で生きてきた。
 しかし晩年、人体実験に明け暮れているという噂がまことしやかに囁かれ、この街で暮らすことが困難になってきた。あっさり見切りを付けた彼女は、研究施設も兼ねていた屋敷をそのまま残して、若いツバメと共に国外へ高飛びを決め込んだ。
 そんな曰く付きの屋敷に、セツは住んでいる。
 表だっては居ないまでも、セツもキュヴィエと同じ様な研究をしていた。数度しか会話は無かったが、キュヴィエはセツに屋敷及びその定着物を譲渡し、自分が死んだら全ての研究財産と遺産をセツへ相続させるという遺言を残していた。彼女は金よりも自分の研究が後世に続くことを選んだのだ。
 外国の水が合わなかったのか、実際かなりの年齢だったこともあり、彼女はあっさりと身体を悪くして、セツへと遺産は転がり込んだ。
「…ただいま」
 年代物のセダンを車庫に入れ、そのまま裏口から屋敷へ入ったセツは静まりかえった屋敷に呟いた。
 一人暮らしで誰もいない屋敷へ挨拶をしたわけではない。早い内に家族から勘当されていたセツはその短くはない一人暮らし生活でも、まともな挨拶はしない男だった。他人が煩わしい性分だから、誰かと共に暮らすことも無かった。今までは。
 帰宅を告げたのは、この屋敷にセツ以外の人物に知らせる事も兼ねていた。
 そう、現在セツは一人で生活している訳ではない。
 キュヴィエはこの屋敷と財産を譲るに当たって、厄介な研究成果をも残して逝った。
「おかえり。早かったな」
 食堂側の扉を開けて出てきたのは、人の年齢でいえば二十歳に少し足りないくらいの青年だ。これが、キュヴィエの最大の遺産。
「定時でさっさと帰ってきたんだが。…俺が遅い方がいいのか、リディ?」
 セツは意地悪そうに笑んだ。
 リディと呼ばれた青年は、しかめ面を浮かべた。正式名称はリディジェスター。彼は確かに人間の外見をしているが、決定的に違う所も幾つかあった。
 本来耳のある部分より上部、猫科というよりは狼に似た大きめな耳がふたつ。腰と尻の中間からは毛髪と同じ桃色がかった長くふさふさした尻尾が生えていた。
「…マスター」
 房の多い耳を半分ほど伏せて、リディジェスターは呟いた。
 リディジェスターはこの屋敷でセツに覚醒させられた。セツはキュヴィエから受け取った研究資料に改良を加え、この『遺産』に主を認識させる事を成功させた。
 身体能力で言えば、人間より遙かに上回る複合有機体。セツ唯一人の命令を守り、奴隷よりも従順に主へ尽くす。
 困惑を現す従僕に、セツは笑みを深くした。ペットを可愛がるような仕草で頭を撫で髪を乱すと、リディジェスターは漸く安心したのか相好を崩した。
「俺は、あんたしか知らないから、居ないと困る」
「居ないと困る、か」
 使用人ならば、主が居ない方が気が休まる。しかしこの獣に似た生き物は、進んで主を求めていた。
 それはまるで新妻か、できたての彼女の様だ。そんなことを思いついてしまった事に、セツは己の頭を疑った。一夜限りの恋ならば幾らでもこなしたが、他人と付き合おう等とは考えもしない。そんな自分が、言うに事欠いて新妻だと。
「セツ…?」
「…」
 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるセツを訝しんだリディジェスターは、心配そうに顔を覗き込んだ。表情がころころと変わる訳ではないが、その耳と尾はなかなか雄弁で。ぺたりと伏せたままの耳を擽ってやれば、ゆらゆらと尾が揺れた。
「今日の夕飯は?」
 途端に両耳がぴんと立つから、これはこれでまあいいのか、とセツは胸中で納得した。

 テレビと本で学んでいるらしいリディジェスターの料理は下手ではないがエキスパートまではいかない。いきなり覚えたにしては及第点だが。
 夕食の片付けをすませセツの前に茶を置いたリディジェスターは、そのままリビングを出て行った。
 ニュース番組を眺めつつ夕刊を読んでいたセツは、外国製のでかいソファーにだらしなく身体を預けながらその姿を目で追う。眠っているとき以外、常に動き続けているような気がする。本当にメイドの様だな。
 尾を揺らしながら戻ってきたリディジェスターの腕を無言で引き、すっぽりと腕の中に収まる身体を抱き寄せた。
 野良猫のように暴れるから、剥き出しになったままの首筋に吸い付いた。途端にびくりと動きを止めるリディジェスターの姿に、セツは喉で笑う。
「随分忙しそうだな」
「俺がやらなきゃ、誰もやるやつが居ないだろ。マスターは何も出来ないし」
 その通り。セツは家事の類がまったく出来ない。この屋敷に来る前はホテルで生活していたくらいだ。屋敷が手に入ってからも、落ち着いたら家政婦を雇おうか迷っていた。他人の干渉が嫌だったので、どうしたものかと本気で考えていたものだ。
「サボっていいんだぞ?」
「そのうち。今は楽しいからいいんだ」
「楽しいのか、家事が」
 セツはうんざりした。研究機材を扱う事にかけては几帳面だが、こと生活となるとてんで駄目だ。掃除も洗濯もできない。
「楽しいよ。食料を加工すれば食えるようになるし、それをあんたが食ってくれる。料理は、覚えることが多くてやりがいがある」
「最初はよくわからん食い物が出てきたがな」
「そ、それは仕方ないだろう!知識はあっても実際やったことなんてなかったんだから!」 思い出すと恥ずかしい。リディジェスターはむっとしながら反論した。皿に盛ってはみたものの、セツに無言で突き返された最初の料理は嫌な思い出だ。
 化学は出来るのに料理が出来ないというのが、リディジェスターには許し難かった。材料を用意して、調味料を量って、あとは本の通り加熱したり冷却したり、実験だと思えばどうとでもなるだろうに。
 ぶつぶつ言っているリディジェスターをどう思ったのか、セツは吐息に笑いを混ぜる。
「今は美味い。十分だ」
「…う、…ん」
 遠回しな主の誉め言葉に、ありがとう、と素直に言えない。リディジェスターは耳をひょこひょこ動かしながら顔を伏せた。
 セツは狡いと思う。手放しで誉めたりはしないが、時折穏やかな声色で認めてくれる。それがどれだけ嬉しいか、きっと解りはしないと思うけれど。
 自分の世界はこの屋敷の中だけ。狭い世界だが、セツがいる。
 しばらくこの腕の中で構って貰いたかったが、大事なことを忘れていた。リディジェスターは顔を上げ、自分の身動きを封じたままの主を見上げた。
「そういえば、風呂の用意が終わってる。いつでも入れるから、って言いに来たんだ」
「…本当に主婦みたいだな」
 ふ、と笑いの混じった呟き声は、リディジェスターには聞こえなかった。不思議そうに見ている二色の瞳が真っ直ぐで濁りがない。
「風呂か…」
「うん。ちゃんとお湯張ってあるから浸かれよ?」
 あんたシャワーだけで出てくるんだから。セツはあまり水の中に浸かることが嫌いらしい。指摘してやる度に顔をしかめる姿が子供のようで、リディジェスターは心の中で秘かに笑っていた。
「そうだな」
 セツはひとり納得したような声で頷き、リディジェスターの耳元で囁いた。
「後でお前も一緒にな」
「は…?」
 一瞬言われたことが理解できず、思わず聞き返す。だが、セツはそれには応えずに、目の前にある獣の耳に齧り付いた。
「いっ…!」
 リディジェスターの肩がビクリとゆれる。撫でられるのは好きだが、噛み付かれるのは好きではない。
 知ってか知らずか、セツはそのままはぐはぐと甘噛みを繰り返す。
「ちょっ…、マスター…ッ!」
「文句は聞かんぞ。甘やかしてやるから、しっかり付き合え」
 くつくつと喉で笑う音が直接聞こえてきて、リディジェスターはぎゅっと瞳を閉じた。
 流し台の中の食器はいつ洗えるだろうか。

***

 リビングの明かりもそのまま、ソファの周りには衣服が放り投げてある。くちゅ、ちゅる、と吸い付くような濡れた音が、消されたテレビの代わりに響いていた。
「ン…、ふっ」
 セツはソファに背を預け、自分の足下に蹲る桃色の髪をゆっくりと梳き上げた。慣れていないリディジェスターが息継ぎの度に小さく呻くその声に嗜虐心がそそられる。ときおり揺れる獣の耳はぺたりと伏せられ、ふさふさとした尾は白い素足に絡まっていた。
「…いい子だな」
 必死に幹を舐め、括れた部分に吸い付いてくる。僕だと言い切るリディジェスターを抱こうと思ったきっかけは何だったろう。確かに感じる快感の中、セツは亡羊に考えた。彼がもう少し獣のようだったら、きっとこんな欲情は抱かなかった。
 女だとは言わないが、女顔だと形容していい小綺麗な顔と、華奢な身体。自分の生きる意味はセツに尽くすことだと言い切った姿勢にそそられた。
 それと、自分の性癖を疑うわけではないのだが。
 セツは軽く腰を突き上げて、呻くリディジェスターの耳を擽った。
 この狼のような毛並みの耳と尾がいけない。倒錯的な感情をよぶ。フェティシズムの類は持ち合わせて居なかったと思ったが、どうやら自分にはそれを楽しむ趣味が有ったようだ。
 にやりと口角を上げたセツは、乾いた唇を舐めた。
「リディ、もういい」
 制止を促せば、リディジェスターはゆっくりと顔を引く。唾液と体液の混ざった物が、ちらりと覗く舌先から局部へ糸を張って名残惜しそうに切れる。
「おいで」
 うっすらと笑ったセツに従って、リディジェスターは身体を起こして膝の上に乗った。雰囲気と行為に煽られて目許を赤く染め、濡れた唇で指示を待つ姿は言葉に尽くせぬほど婀娜っぽい。
「んッ…、マス、タ…ぁ」
 ひく、とリディジェスターの肩が揺れる。腰を引き寄せられたそのまま、節の目立つ長い指が後孔に埋め込まれていた。セツに口淫を求められる前に解されていたそこは、潤滑液の滑りを残したまま指を嚼む。
 迷わず二本目の指を挿し入れ、柔らかさを確かめるように緩く抜き差しをすれば、リディジェスターがしがみついてくる。力なく垂れた尾が、時折ぴくりと揺れた。
「ぁ…、あ、あッ」
「いい具合に蕩けてるな」
 浅い、指にかかる一点を責めてやれば、リディジェスターの身体が面白いように跳ねた。
「指だけでイく気か?」
 意地悪く笑うセツも、目の前の痴態に煽られてあまり悠長なことはしていられないのだが。この奴隷に似た生き物をついつい虐めてしまいたくなる、困った物だと胸中でごちた。
「…やッ、だ、め…我慢できな…ッ、…ひゃぅ…っ」
「そうだな。今度は耐える訓練でもしようか。丁度良い『試作品』がいくつかあるし」
 副業と言うべきか趣味がふんだんに盛り込まれた大人向けの性交補助玩具をセツは作っていた。コレがなかなか人気があって、売れ行きは好調だ。試験品は大体リディジェスターに試していたが、それを使った調教は面白いかも知れない。
 しかし、今は取り敢えず目の前で震える肢体を貪り尽くそうと、埋め込んでいた指を引き抜いた。ぐちゅ、と濡れた音が聞こえてほくそ笑む。
 形良い双丘を左右に開き、余韻にひくつく秘部へ己の先端を宛がう。どうされるのか理解しているリディジェスターは、セツにしがみついた腕の力を強くした。初めて拓かれるわけではないが、性交で初めの挿入は未だに違和感を感じるのだ。
「ん、…んぅ」
「いい子だ。そのまま奥まで腰を落とせ」
 明らかな命令口調とは裏腹に、セツは酷く優しい口付けをリディジェスターのこめかみに落とした。腰を撫でながら引き寄せ、剛直が肉に埋められていく心地よさを味わう。
「や…ぁ…、…こわ…、むり…ッ…」
「無理じゃあ、ないだろ。いつも咥え込んで離さないくせに」
「…ん、セツ、が…!」
「ご主人様、だろう?」
「…ッ」
 悔しそうに睨み付けてくるリディジェスターに噛み付くような口付けをして、セツは一気に腰を引き寄せた。唇を塞がれているリディジェスターはビクリと痙攣して、セツの肩に爪を立てる。
 埋め込まれた牡を何度か締め付けられ、セツは自分の腹に飛んだ少量の生温い体液を感じる。衝撃が強すぎて我慢できなかったのか、絶頂には遠いもどかしい快楽がリディジェスターの背筋を駆けた。
「んっ、ン…、あ…ンぁ…」
 唇を離して首筋を舐めながら腰を回せば、リディジェスターが背を反らせて喘いだ。
 暫くゆるりとした動きを繰り返して、もどかしさを煽る。ソファの肘掛けへ器用に体重を掛けたセツは、目の前にひろがる卑猥な光景に唇を舐めた。セツの腹部とソファの背に手を突いてバランスを取るリディジェスターに、もうひとつさせてみたいことを思い出した。
「リディ、リディ」
「…ぅ、ん…ッ、な…に」
 酔った様なとろんとした瞳で見下ろされ、これだけ飛んでいるなら大丈夫だろうとセツは目を細める。ソファを掴んでいるリディジェスターの手を外して、はしたなく雫をこぼす昂ぶりに持って行く。
「自分でして見せろ」
 動きを止めて意地悪く笑ってやれば、息を切らしたリディジェスターが呆けた顔をした。
「…は…?」
「いつもは俺がしてるだろう?たまにお前が自分でやるのも悪くはないと思うが」
「んんッ…、や、や…ぁ!」
 狼狽えているままリディジェスターの手の平と勃起したものを合わせて擦り上げてやれば、途端に埋め込まれた牡を締め付けられた。
 先走りの滑りを擦り込む様に上下に動かしてやれば、ぬちゅぬちゅと聴覚を犯すような粘着音が響いた。自慰を強要されるような経験が今までなかったので、どうしていいかわからないリディジェスターは、その両目にうっすらと涙を浮かべる。
「や…だ…ッ、こわ…い…」
「大丈夫。何処が悦いか、身体で覚えろ。…ほら」
 少し激しく指を動かして、下から小刻みに腰を突き上げてやれば、びくびくと身体が跳ねる。もどかしい快楽に、リディジェスターは子犬のような泣き声を上げた。
 深く身を埋めたセツは、腰を回しながらリディジェスターの臀部をゆるりと撫でる。ふさふさと生えた獣の尾を掴んで指を絡ませれば、中の締め付けが強まった。
「ひぁッ…!あ、あ、っん…!…や、だめ…ッ」
「駄目、じゃないだろう?腰が揺れてる」
 撓る背に合わせて揺れる身体と蠢く体内に、セツは補助に添えていた指を離した。リディジェスターは動きを止めず、快楽を追うまま指を動かす。
「いい眺めだな」
 自分の上で淫らに踊る姿を直視し、乾く唇を舐めたセツは満足そうに唸った。快楽を覚え込ませ、自分の好みに作り上げる事が楽しくて仕方がない。なんて従順でいやらしい僕。最初は単なる研究成果としか見ていなかったが、今では酷い執着さえ覚えてしまった。
「ぁ…ん、んッ…ふ…ア、ぁ…や」
「凄い音だな、わかるか?」
「だ…て、…んんっ…は…とまん…な…ッ…い」
 とろとろと零れる先走りが結合部まで滑り落ちて、摩擦の度に淫猥な音を奏でていた。揶揄するセツは穏やかに動きを合わせるだけで、リディジェスターは貪欲に快楽を拾っていた。
 自分の高ぶりを握りしめ思う様嬲りながら、体内で感じる場所にセツの先端を擦り付けて上下に律動する。快感に泣きながら喘いで軽く背を逸らす姿は、AV女優も顔負けだった。普段の無垢さからは想像できない淫蕩な表情に、セツは笑みを深くする。
「ぬるぬるだな」
 蜜を零すリディジェスターの先端に指を宛て、掬うように嬲ってやれば、むずがるようにかぶりを振る。
「さ、わ…ッ…、いで…!」
「どうして?悦いんだろう?」
「…めッ…、我…慢…ん、…できな…なる、…からっ…ゃ…」
 ぐりぐりとわざと弄ればリディジェスターが自分の物の根本をきつく握り込んだ。それは教えてないんだがな、と胸中で苦笑したセツは、瞳をきつく瞑って耐えるリディジェスターの口元へ濡れた指先を持って行く。
「リディ」
 下唇に指を宛て呼べば、リディジェスターがうっすらと瞳を開けた。促されるまま自分の先走りに濡れた指を口に含んで、拙い仕草で舌を絡ませる。
「随分とはしたないな」
 唾液を纏った指を引き抜いて唇を濡らし、細めの首を伝って下り、ぷっくりと尖った胸の突起をひっかいた。甘い吐息を漏らしたリディジェスターはセツの言葉に目尻を赤く染める。そのまま爪先で刺激され、教え込まれた肉体は素直に快楽を拾う。弱い部分を同時に嬲られれば反論の言葉すら吐けなかった。
「あんた…が、…ぁっ…」
 淫らに喘ぎ身体を震わせながら、リディジェスターはセツを見つめて呟く。
「……俺が?」
 あんたが仕込んだからだ、とでも言うのだろうか。セツは意地悪く弄る指を止めずに聞き返す。時折ひくひくと動く伏せた耳と、生理的な涙を浮かべて潤んだ切なそうな瞳に見下ろされ、セツは喉を鳴らした。
「…あんたが、…俺に構ってくれる、なら、…何されても嬉しいに、……決まってる」
「……」
 セツは思わず、動きを止めた。
「ひゃッ!…ん、…ちょ…おっき…っ!」
 体内で脈動する熱がどくりと膨張し、リディジェスターは咄嗟のことに身体を強張らせた。締め付けた御陰で自分を貫く物を意識してしまって、悪循環に泣きそうになる。
 セツはセツで不意打ちのように落とされた発言に、正直に身体が反応してしまってばつが悪かった。彼はリディジェスターが漏らした支配欲を擽るような言葉に酷く弱い。その手の道具を使った行為もそこそこ好んでいたし、相手を快楽に落とすことも長けている。
 しかしやはり。
「…セツ…?…ぁ…、…ご主人…さま…?」
 無意識にやってのける目の前の生き物には、堪らない。
「小悪魔め」
「何…?…っぅあ…あ、あッあ、ん…ゃ…んん!」
 腰をがっちりと掴まれて今までの比にならない程突き上げられれば、リディジェスターは途端に悲鳴のような啼き声を上げた。粘膜をめちゃくちゃに掻き回されて信じられないような奥まで穿たれる。入り口から奥までかなりの早さで擦り上げられて痛みと心地よさに意識が飛びかけた。
「んっ、ンぅ…ひっ…、ヤ…激しッ…だ、め…!」
「激しい方が、…好きだろうが」
「あ…あっア、んんっ!」
 一際甲高く啼いたリディジェスターは仰け反って白濁を放った。勢いよくセツの腹に飛び、添えるだけになっていた自分の指にも押し出されるようにしてとろりと溢れ伝う。
「…、ぐちゃぐちゃ、だな」
「…っ!」
 痙攣するような柔肉の締め付けに、セツは興奮を隠さずに唸った。そのままの早さで抉るように突き上げを続け、リディジェスターの身体にのめり込む。
 射精後の放心もできぬまま揺さぶられるリディジェスターは、銜え込んだままのものでぐちぐちと掻き回される度に指の先まで走り抜ける快絶に身悶えた。
「…ァ、あッ、あ、ア…!」
 連続して訪れる射精感に身体が反応しても、心が追い付かない。こんな事、教えられた筈もなく、リディジェスターは抑えきれる理性も溶かしてただ啼いた。
「ひ…ぅンっ…、や…おかし…く、な…るッ!」
「…達き過ぎ、て?」
 荒い呼吸の合間に言葉を返すセツも、殆ど限界間近だった。
「壊…れ、ちゃ…ッ、…あ、ふ、…ご主人…さ、まぁっ!」
 がくがくと身体を揺らしたままの懇願で、セツの柳眉が寄った。形良い双丘を鷲掴み、力任せに左右に割って、勢いよく腰を引いた。
「ッ、あ、あああっ――――!!」
 張り出した先端がずるりと姿を見せて、同じ勢いで今まで穿っていた後孔の奥まで突き込んだ。
「…っ、…く」
 堪らず声を漏らしたセツは、リディジェスターの中を熱い欲望で濡らし、最期の一滴まで注ぎ込むように腰を揺らす。
 漸く動きが穏やかになってくずおれたリディジェスターは、汗と精液に濡れたセツの上に倒れ込む。疲労で指一本動かせそうにない。安堵と、それに混じる歓喜が身体を満たす。自分の主が自分の中で精を放つ事に優越感を覚えるなんて、きっと、ずっと秘密だ。
 耳の裏と頭を優しく撫でられて、心地よさに瞼を閉じれば、そのまま意識がすとんと落ちた。お互いの荒い呼吸だけが耳に残った。

***

 ――ぴちょん。
「……?」
「気がついたか」
 水気を払うように獣の両耳が動いて、瞳を開けたリディジェスターは自分の置かれた状況がいまいち理解できなかった。すぐ視界に入ったのはセツの首筋と鎖骨と胸板。声は頭上から聞こえたから、抱き込まれているんだろう。
 ――ちゃぷ。
「…あれ、…風呂…?」
「ああ。綺麗に飛んでたからな。中も外も洗っておいた」
「……」
「腹上死を体験した気分はどうだ?」
 くつくつと喉で笑う錆声が室内に響いた。そのあまりの内容にリディジェスターは二の句が継げない。きっと素面でこういう問いかけをされても、もっと答えられないだろうが。
「たまには二人でべたべたするのも良いだろう?」
 答えを返さない僕に気分を害した様子もなく、上機嫌なセツはリディジェスターの髪を戯れに梳いている。
 リディジェスターはそのとき、ふいに気がついた。もしかして、セツは放っておかれるのが嫌だったのだろうか、と。そういえば忙しいときに限って、この主は邪魔をしたり無理難題を言ったりする。
 そんなことに気がついてしまえば、あんな恥ずかしいことをさせられた後でもとりあえず許してしまえる自分がいた。セツに構って貰えるのなら、何をされても基本的には嬉しいのだ。そのことに違いはない。
 とりあえずリディジェスターは背後で楽しそうにしている主へ向けて、
「………うん」
 とだけ答えておいた。

 ―――照れながら。

  

いつもありがとうございます!春臣苗たまに捧ぐ500khitキリ番です!
自分的予定より一月近く遅れてしまいました事をお詫びしますっっ。
「HTで現代パラレル学園物、狼尻尾と耳、飼育小屋」がリクエストでしたが、「飼育小屋」がノットクリアーでした…。屋敷が小屋ってことでなんとかならないでしょうかっ!よく考えたら学園でもなんでもないですがセツは学校の先生ということでお願いしますお願いします(ひっし)
エロだけは、ひたすら頑張った気がしないでもありません(変な日本語…)。一番エロの薄かったHTが一番サイト内で濃いエロ話になったんじゃないかと思います。
騎乗位で自慰でいきっぱなし(男にもあるらしいが真偽の程はいかんともしがたい)という、喜佐一の脳内もそろそろアレなかんじですが、貰っていただけると幸いです。
passionは受難でも愛情でもどっちでも。
2006/6/12

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