Sulky Cat.

kio 様 へ捧ぐ! Liwyathan the JET

 甲板の柵にもたれながら、カラスは煙草をふかしていた。灰皿の吸殻はそろそろいっぱいになる。
「なんだいアレ…」
 なんだか只ならぬ気配を感じて、ノクラフは横に佇むこの船の船長へ呟いた。二人は遠巻きに青年を見つめていた。
「迂闊に近寄ると引っかかれんぞ」
「ハァ?」
「いや、マジで。漁夫の利を得るために我慢中よ」
 楽しそうな魅朧の口調に、ノクラフはうんざりと肩を落とした。
「また、何か企んでんのかい…」
「俺の仕込みじゃねぇよ。今回は孔雀の悪戯だ。ちょっと面白そうなんで俺は様子見」
「あんな苛々した状態でよく感情抑制してるわね。何考えてるか全ッ然わかんない」
 口に出して気が付いた。感情を読む能力が一番強い魅朧は、相手の感情が読めないと機嫌が悪い。一番顕著なのは、つがい相手のカラスに対して。それなのに魅朧のこの反応の無さは、一体どうしたことなのか。
「アンタ、まさか。ついに自分にしかカラスの感情が読めないような絶対防御でも仕込んでんじゃ…」
「そういう疑り深い所は鷲に似やがったか、この似たもの夫婦。つうか、カラスは俺のつがいだぜ?やることやってんだから、俺以外が感情読みにくくなるのはあたり前じゃねぇか。
 俺だってお前の深層までは読めねぇもん」
 へぇ、そうなんだ。なんて納得しながら、ノクラフは新しい煙草に火をつけたカラスに視線を戻した。
 どうやら、またひと波乱ありそうな予感がした。

***

 

「からす、これをあげるわ」
 飲み物を持ってきたカラスにかけられた声は、小鳥のさえずりに似た美しい響きをしていた。彼女の名前はカナリーナ。
 巻髪が多い龍族の中では珍しく、癖の無い真っ直ぐな金髪をしている。傾国の美姫と言うにはそばかすの目立つ、ごく普通の女性。昔から大人しかったらしいのだが、カラスは今の彼女しか見たことが無い。
 龍族で三位の力を持ち、二番目に強いと謳われる海賊船の船長であるパヴォネの膝に座る彼女は、まるで人形のような瞳をしていた。パヴォネの言葉で動く彼女は、操り人形に似ている。
 その理由を知っているカラスは、彼女を見るたびに扱いに戸惑った。彼女に悪気があるわけではないのだけれど。
「よかったな、カラス。俺のカナリーナがくれるってよ」
「え?あ、ああ」
 パヴォネに促され、カラスは手のひらを出した。色々と含みの多いパヴォネ自身から貰うものならば十分に警戒するのだが、カナリーナを介されれば受け取らないわけにいかない。きっとパヴォネがやらせているのだろうが。
 ほっそりとした腕が持ち上がり、カラスの手にラッピングされた小さなものが乗せられた。
「ちょこれーと。めずらしいものよ?」
 微笑むカナリーナに、よく出来たといわんばかりのパヴォネが頬に口付けを与えていた。
「ありがとう、カナリーナ」
 礼はしたが、果たして食べていいものだろうか。魅朧に伺うのが一番問題ないのだが、今この場に居ない。それすらも計算のうちなのかと勘ぐらせるような笑顔を浮かべたパヴォネは、無言で食べるように求めている。
「い、いただき、ます」
 幸いカラスは甘いものが好きだ。恐る恐るラッピングをあけて、小さな塊を口の中に放り込んだ。味は悪くない。中がふわふわしているそれは、舌の上ですぐに解けて消えた。
「飲んだな?」
 パヴォネの確認に、やはりそうかと後悔する。
「今度は何をさせる気だ…」
 思わず殺気立つのは仕方が無いだろう。
「ヤだねー疑り深いのは。俺が悪いみたいじゃねぇか」
 白々しく笑うパヴォネは、子供がお気に入りの人形を抱きしめるみたいにカナリーナに抱きついた。
「せっかくお菓子をあげたのになー?」
「ねー?」
 口調を真似てカナリーナも笑う。こういうとき、彼女には魂があるんじゃないかと不思議で仕方ない。
「アンタの所為で色々面倒被ってるから信用おけないんだよ。それで?どうせ俺の意思で食ったってことでいいから、何が入ってたんだこの菓子に」
 カナリーナがいなければその首にかけてあるネックレスを全て掴んで揺さぶってやりたい衝動を必死で押さえ込む。
 パヴォネは一仕事終えた満足そうな顔で、もったいぶらずに白状した。
「感情を読ませない効果がある。効果が切れるまで、どんなエロいことを想像してても魅朧にゃバレねぇぞ。よかったな、カラス」
「それだけじゃねぇだろ…」
「勿論。懇意にしている相手に触れられると発情してしまうお手軽な副作用があります。おめでとう」
「おめでとう」
 わかっているのかいないのか、続けるカナリーナに八つ当たりをしたくなった。
「どんだけ効果が長引いても一週間ありゃ切れるぜ?それまで我慢するもよし。魅朧と楽しむもよし」
 耐えてやる。カラスは無言で拳を握った。
 その決意を予測していたのか、パヴォネは大口を開けて笑う。美形に有るまじき馬鹿笑い。
「我慢すんのもいいけどな、かなり辛ぇぞ。俺も試したけど1日持たなかったな。ただし媚薬としての効果は保障するぜ」
 そんな保障はありがたくもなんともなかった。それにパヴォネは絶対に我慢なんてしていないと思う。
「いつも魅朧から誘ってんだろ?たまにお前から誘わんと、飽きられるぞ?」
「余計なお世話だッ!」
 怒鳴ったカラスは、大またに店を出た。

 肺に吸い込んだ煙を一度に吐き出して、そのまま柵にもたれ掛かる。数日前の出来事を思い出したカラスは、苛立ちを押さえられずにいた。
 魅朧は事実を知っている。カラスが怒って店を出た後、パヴォネにネタばらしをされたらしい。下心をおおっぴらに出した顔で様子を尋ねてくるのなら雰囲気に乗れたのだが、今回に限って本気で心配されてしまった。けれど言葉の端々に、下世話な雰囲気をただよわせている。お陰で本当に我慢するはめになった。こうなれば限界まで意地だ。
 一緒に寝ると薮蛇だから、同じベッドの中では眠らない。だからと言って他に部屋は持っていないので、カラスはソファで丸くなる毎日を送っていた。
 不用意な接触を避けるため、極力近寄らず、触られる前に口で言うか、叩き落した。だが、たったそれだけの接触でも、熱が溜まってしまう。冷水のシャワーを浴びて自分を慰めたカラスは、情けなさにパヴォネを呪った。
 あと何日だろう。
 新しい煙草に火をつけて、カラスは天を仰いだ。煙を吐き出して、今度は柵に額をつける。
「そんなに辛いなら、一発殴っとけばよかったな」
 ちょうど一歩分の間をあけて、魅朧が近づいていた。髪が風になびいて、爽やかそうなのが憎らしいと逆恨みをする。
「…吸いすぎ、だろう。気持ちはわかるが、自分を痛めつけるなよ」
「自虐じゃないし、俺の気持ちなんてわかんないだろ」
 魅朧に投げつけるには、酷い内容の言葉だった。感情が読めないことは、魅朧にとって怒りの元だ。それなのにカラスは、やさぐれた気分のままに口走っていた。言ってから後悔するが、すぐにそれすら消えてしまう。
 魅朧が怒って乱暴するのも、歓迎かもしれない。
 そんな事を考え付いたカラスは、虚ろな瞳で目の前の男を見やった。
「…うわーお」
 しかし、当の魅朧は怒りどころか妙なリアクションで顔を逸らす。柵に身体を預け珍しく耳を赤く染め、脱力するようにカラスからの視線を避ける姿は、海賊王と謳われた最強さなど欠片も無い。
「魅朧?」
 常に無い反応で、どうしていいのかわからないカラスは、ほんの少しだけ近寄った。ふと、いい匂いに気が付いた。風上は魅朧だから、そちらから何か香ってくる。
「……あー、もー、スゲェな、それ」
 若干視線を戻した魅朧が、長嘆交じりにカラスを見下ろす。
「何?」
「目が、やべぇ」
 カラスは匂いに夢中で、あまり魅朧の言葉を聴いていない。子犬のように鼻を頼りに近寄るカラスは、纏う剣呑な雰囲気と相まって、魅朧にとってかなり過激なものだった。
「犯してくれ、って目に出てる」
「は!?」
 一歩後退ったカラスは、信じられないものを見る目で魅朧を睨みつける。
「俺のこと欲しくて身体が疼くんだろ。お前の我慢が限界来る前に、俺の忍耐が焼ききれそうだ」
 いつも飄々としている魅朧がばつ悪そうに頭をかく姿を目の当たりにして、それでもカラスは信じられなかった。確実に辛いのは自分なのに、何故魅朧も辛いのだろう。言葉を発せ無いカラスに、龍王は金色の瞳を欲に染めて流し目を送る。
「『お願い』したら、聞いてくれねぇか?」
「…何、を」
「これ以上我慢したら、俺がまいる」
「だ、だから…」
 魅朧は近寄ってこない。けれど、抗い難い衝動がカラスを揺さぶっていた。曰く、目の前の男に、身を任せてしまいたい、衝動。
「お前のこと、滅茶苦茶に抱かせて?」
 お互いの視線が噛み合った。いつもなら鼻で笑うか照れるか、どちらにせよその場では突っぱねる誘い文句だが、今のカラスにとっては魅惑的にしか聞こえない。唾を嚥下する音が聞こえないか心配になるほどだ。
「ノーは聞かねぇ。いい加減覚悟を決めて、俺に犯されな」
 急に伸びてきた魅朧の腕が、カラスを引き寄せる。抱きこまれて、さっき香ったいい匂いがいっぱいに広がった。ああ、これは魅朧の匂いだ。無意識に、カラスの両腕が魅朧の首に巻きつけられる。触れられた所為で、心拍が跳ね上がった。
「カラス。答えろ」
 性急な声は、艶が混じっている。カラスは否を告げられなかった。今まで我慢してきたことが無駄になるが、そんな些細なことなど、その瞬間に忘れた。
「早く、…――」

***

 

 あれは、ヤバかった。

 ベッドの上、既にお互い身体を繋げた状態で、魅朧は深く唸った。腕の中で震える瑞々しい身体が、どうしようもなく厭らしい。
 脱いだときには既に立ち上がっていた起立を舐め、咥え、吸い上げてやれば、薬の所為かあっけなく欲が放たれた。管に残るものまで全て吸い出してやれば、カラスが擦れた悲鳴を上げる。
 後孔を解し、興奮に堅くなった怒張をカラスに咥えさせ、入れることを宣言しただけで、魅朧は根元まで一気に貫いた。衝撃に僅かな開放した精液を擦りあげれば、柔らかく中が締め付けられる。
「ふ…、ぁ…ンっ、んん」
 小刻みに揺すり上げられ、カラスが気持ちよさそうに喘いでいる。声を隠すことにすら、思考が回らないらしい。
 魅朧にとっては、堪らない状況。
 甲板で最後に聞いた誘い文句が常のカラスから見れば随分淫らで、あの場で致さなかった自分は偉い。

『早く、…滅茶苦茶に抱いてくれ』

 勿論、魅朧に否は無い。この数日触れてさえいなかった。その分を補って余るほど、愛を注いでやりたい。
「そんな必死に絡みつけなくても、俺は出ていかないぜ?」
 根元まで埋め込んでの律動に、纏わり付く軟肉が収縮を繰り返している。離すまいとするような淫猥な動きは、魅朧の欲を根こそぎ持っていくに十分だった。
「ん!…ぅ、あ…ッ」
 ぐ、と腰を押し付けて密着した魅朧は、そのままカラスの唇を奪う。赤く尖って快楽を主張する胸の突起を押しつぶすように摘んでやれば、くぐもった悲鳴と共に魅朧をきつく締め付けた。
「っ…、やーべ…。堪んね」
 口付けの合間に呟いて、魅朧は何度か同じ事を繰り返す。その度に反応するカラスが、いちいち可愛い。
 いつものようにカラスの感情が流れ込んでこないのが違和感ではあるが、目の前で慄く痴態を堪能するのも一興だ。汗でしっとりとしたカラスの髪を掻き分け、仄赤く染まった耳を舐める。それから吐息を吹き込むように囁いた。
「どんな感じだ?」
 普段なら口を使わなくてもわかること。
「メイ…ロ…、ッ」
「どうなってる?言えよ。言わないとこのままだ」
 動きを止めた魅朧は、厭らしさを隠しもせずにうろたえるカラスを覗き込んだ。
 魅朧の腕にしがみ付き、子供のように危うげな視線で意味を吟味するカラスは、意味を理解して赤面した。首を横に振る。
「俺しか聞いてねぇだろ?読めねぇから、直接知りたいんだ。なぁ、カラス。教えろよ」
 身悶える姿を見ていればわからないはずは無いのだが、滅茶苦茶にしてもいいと許可が下りた手前、やれることは何でもやってみたい。薬が効いているこういうときでなければ、カラスの羞恥は消えないだろうし。
 顔中に啄ばむようなキスを落として宥めてやれば、焦点の定まらない視線を彷徨わせながら、カラスが口を開いた。
「……ん、ない」
「何?」
「…わかんない。いっぱいで…、気持ち、い…」
 微かな声だけれど、十分だった。
「ひ、ァ…!…な、急に…ッ、でかく、…!」
 背を逸らせて跳ねたカラスの肩に魅朧は顔を埋めて堪えた。攻めてやろうと思えば逆にやりかえされた気分だ。
 舌足らずな口調に、潤んだ瞳。さっき欲望を舐めさせた赤い舌がちらりと覗く。滅多にそんなことを吐露しないから、魅朧に与える衝撃はでかい。顕著に身体が反応してしまったようだ。
「あー、もう。お前ホント最高だ」
 唸った魅朧は一度思い切り深い口付けを与え、抱きしめたカラスを器用に反転させた。
「…!……んん!」
 深く抉り込まれた衝撃に、カラスは堪えきれずに性を放つ。肩で息をして、薄っすらと瞼を開けて後悔した。
「すっげ、やーらし」
「…なっ、あ、…!」
 寝そべった魅朧の腰を跨いだカラスは、その中心を深く身の内に収めていた。いつもより深い所まで犯されているように感じる。
「な、動いて?」
 魅朧からの提案はひどく優しい口調で行われた。けれど、その貌は捕食者のそれだ。嬲ることを知る、雄の表情。
「んなの、無理」
「無理じゃねぇって。手伝ってやるから、何処が気持ちいいか、教えてくれよ」
 ふるふると首を振るカラスは、庇護欲を誘う。けれど魅朧はそれで絆されるほど無欲な男ではなかった。
「何処突き上げてやれば、気持ちいい?…なぁ、見せろよ」
 本当は聞かなくても既に覚えている。けれど、何を考えているか全く読めない魅朧は、足りない部分を口で補わせることが楽しくて仕方が無い。同衾する相手に卑猥な事を話させる、それがこれほどまでに支配欲と被虐心を煽るとは思わなかった。
 震えるカラスの指先を取り、ぺろりと舐める。たったそれだけの刺激に肩を揺らしたカラスの青磁色の瞳は、動揺に揺れていた。
「愛してるぜ、カラス」
 恥を捨てさせる免罪符ではなく、紛れも無い本心。
 カラスの腰を掴んで引き寄せる。これ以上入り込む余地は無いが、もっと深くまで潜りたいと暗に伝える。
「…ゃ、そ、…んな奥…、無…理ッ」
「だーから。無理じゃねぇって。薬の所為で辛いんだろ?どうして欲しいか、見せてみな」
 くつくつと喉で笑いながら見上げれば、カラスは荒い呼吸の合間に口を閉じて嚥下する。魅朧はその喉の動きにさえ煽られそうだった。
「薬の、せい?」
「そ。だからどんだけ乱れても大丈夫」
 むしろ乱れてくれたほうが俺は嬉しい。
 呟いた魅朧は、一度強烈に突き上げる。唐突な衝撃に背を逸らせたカラスは、息を落ち着けると堪えきれない涙を零した。その光景のあまりの厭らしさに、魅朧は無茶苦茶に突き上げて壊したい衝動を何とか抑える。
「ん、…く。…ァ、あ…」
 ゆる、とカラスの腰が動き、埋められた熱が途中まで引き抜かれる。そしてまた、ゆっくりとその身に収めていく。何度かそれを繰り返し、重心を変えて律動を早める。魅朧の猛る先端をある一箇所に擦り付け、その度にカラスは甘く啼いて、快楽に身をよじった。
 魅朧は自分の上で繰り広げられる淫靡な姿を、余すところ無く目に焼き付けようと息を潜めて見守っていた。
 時折閉じられる瞳は涙で潤み、赤く濡れた唇からは誘うように舌が覗く。首筋にかかる灰色の髪は汗で張り付き、綺麗に鎖骨の浮いた胸がせわしなく上下している。齧りつきたくなるほど充血した突起。鬱血の花弁を散らせた脇腹や臍。全てのパーツが堪らなく厭らしい。
 大きく開かせた足の間では天を向いた雄が蜜を垂らして伝い落ちている。更に奥では、血管すら浮いて見えそうな怒張が濡れて上下に飲み込まれて見えた。出し入れされる度に、湿った音が響く。
「…く、…っ…う、ごけ…よ!」
 切羽詰ったカラスの声は、欲情に艶めいていた。
「…こんなエロい光景、焼付けとかねぇと勿体無い」
「この…、馬鹿野郎…ッ!」
 罵るけれど、腰の動きは止まらない。
「お前がッ、しろって…っン!」
「そりゃ、そうだ。…逃げんなよ?」
「え…?や、あ、あッ!!」
 にやりと笑った魅朧は、カラスの腰に手をかけた。筋力と持久力を見せ付けるような激しい突き上げを繰り返す。逃げ腰になるカラスを押さえつけ、乱暴とも取れる動きで挿入する。
 体奥を滅茶苦茶に掻き回され、カラスが身を捩って暴れた。強烈な刺激に喘ぐ声は殆ど悲鳴に近い。
「や、…あッ、あ!…止め…ッ!」
「すげ。止めて…、いいのか?気持ちいいんだろ?」
「い、…けど、…激しッ…、…ンん!」
「激しいのが、いいのか?」
「…ちがッ、ぅあ…、ァ、あ、あああ―――…!」
 否定を告げようとした唇はその形のまま叫びになる。
「…ッ、く」
 深い角度で抽挿を繰り返していた怒張が、カラスの前立腺を抉るようにして奥まで突き上げた。乱暴に犯される刺激にカラスの目の前が真っ白になる。我慢することなど忘れ、一気に快感が全身を覆いつくした。勢いよく開放された白濁が、魅朧の腹に飛んだ。
 開放は殆ど同時だった。引き絞る肉の動きに、食い千切られるような錯覚を覚え、殆ど本能のままにカラスの腰を掴んで最も奥へ性を放った。余りに強く指に力が入ったので、後で指の跡が付いてしまいそうだった。
 むずがるカラスを逃がさずに、纏わり付く熱い肉を堪能しながら、ゆるゆると何度か腰を押し付けて最後の一滴も逃すことなく注ぎ込む。
 言葉は無かった。ただ荒い吐息だけ。
 息を整える途中、ふいに流れ込んできた感情。効果が切れたのかと思う前に、魅朧はその感情の意味を処理できずにうろたえた。
 燻る熱など全て吹っ飛んで、魅朧はカラスを見上げた。顔を伏せて表情を窺わせないようにしている。ぽたりと、腹に落ちた雫。
「カラス?」
 魅朧が感じた感情の色は、悲しみ。何故、と場違いに思ってしまう。
 ぐる、と唸って魅朧は起き上がった。カラスの腰を抱えて、最初の体制に戻る。
「ちょ、や…!!」
 交合したままの箇所からぐちゃりと濡れた音が聞こえたのが、生々しかった。
 顔を隠そうとするカラスを許さず、額に手の平を乗せて髪をかき上げる。赤く染まった目の端から、流れ落ちる涙。
「あー、わりぃ。そんな嫌だったとは思わなかった。すまん」
 泣かすつもりは無かったのだ、と弁解のような言葉は飲み込んで、魅朧は謝罪を述べた。目尻に口付け、それでも離すまいと腕で囲い込む。
「カラス、悪かった」
 感情を読む能力はカラスには無いから、今魅朧が何を思っているかわからない。ただカラスにわかることは、魅朧が後悔しているということ。
 自分を散々好きにしておいて後悔するとは、失礼ではないか。
「ちがう。嫌とか、そうじゃなくて。そういう薬使わないと楽しくないのか、と思ったらなんか、急に…」
 隠そうとすることも言葉になってしまう。正直にそこまで話したくはないのに、薬の作用が何かしら残っているのだろうか。無意識に柳眉が下がってしまった。
 目の前でカラスの表情を凝視し、繋がり合うことでより正確に心情を読んだ魅朧は、力尽きたように突っ伏した。顕著に、下肢が反応してしまう。
「ぅあ…ッ!ちょ、なんで…!?」
 切羽詰ったカラスの抗議は、しかし肩に顔を埋めた魅朧の溜息で遮られた。
「今のはお前が悪い。なんだよもう、俺の理性を試すなよ…」
「何言って、…ん!」
「泣くは拗ねるわ、あんまり可愛いと喰っちまうぞ?」
 暴れるカラスの首筋を舐めたり甘噛みしたりじゃれつく魅朧は、硬化した分身を緩く擦り付けながら喉で笑っていた。
「薬があろうが無かろうが、俺はお前にヤラシイ事をさせようと必死なんだぜ?」
「…は?」
「お前が感情読めなくて良かったよなぁ。もしお前が俺の心読んだら、どん引くぞ」
 どう反応を返していいかわからないカラスは、魅朧の背に腕を回したまま仕方なく黙った。
「何もしてなくてもお前はエロいけど、何かしたくなるのは俺のサガだ。どうしようもないヤツが相手だと妥協してくれ」
 そうだ。魅朧は普通に求めることが殆どだが、たまに信じられない要求をしてくる事がある。
「飽きたり、とか」
「するか、アホ。…なんだよ疑り深いな。そんなに心配ならマグロで居ろ。俺がどれだけお前を嬲りたかったか分らせてやるよ」
 ぐるりと唸った魅朧は、ぐっと腰を引いた。呆然とするカラスを押さえ付け、同じ速度で突き入れる。角度を考慮した、手加減の無い律動。
 軋むベッドと、甘い悲鳴。
 世界最強の海賊船、その船長室は今晩も淫らな空気を漂わせたまま過ぎるようだ。

  

すんばらしい魅朧イラストを描いてくださるkio様へ捧げます!いつもありがとうございます!!
2007/07/02

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