発情期

Liwyathan the JET SS

 最近、あたりの空気がピリピリしているように感じた。
 殺気立っているのとは違う。こんなに暖かくて、心地よい気候なのに何故だろう。

「なぁ、魅朧。なんか最近変じゃないか?」
「俺が?」
「………」
「待てや。そこで間空けたら俺がマジでどっかオカシイみたいだろ」
「…それは置いておいて、これと言って何が違うわけじゃないんだけど、船の雰囲気がどこかピリピリしてる気がする」
「……ああ、それか」
「それに…、」
「何だ」
「ノクラフが…」
「………あー、そうか。解るか」
「……何だよ」
「まぁ、人間の嗅覚じゃわからんと思うし、そういう習慣もねぇだろうからなぁ」
「だから、何」
「ん。ちょっと見てろ、特に鷲(チィオ)の野郎とか。面白いぞ」

 操舵室の一番奥、船長用の椅子にふんぞり返りながら、この船のキャプテンは生温い笑みを浮かべていた。横に立ってひそひそと話しかけたカラスは、人選を間違ったかと唇を引きつらせる。
 この船に乗ってからそれほど長い月日は立っていないが、船内の雰囲気がこれほど変わることは今までなかった。怖いわけではないが、ほんの少し不安である。
 船の操舵をしているのは、魅朧の幼なじみだという男だ。名前をエルギーという。魅朧の特権で縛り付けたい相手、または高位の力を持った龍に字をつけることができるため、エルギーは魅朧にだけ鷲(チィオ)と呼ばれていた。
 戦場に一番で飛び出していくような魅朧とはちがい、エルギーは冷静沈着で笑顔を見たことは余りないような人物だ。
 そのエルギーを背後から見つめたカラスは、滅多になく彼がそわそわとしていることに気が付いた。操舵よりも、何かに気を取られているような。
「病気、とか?」
「龍がそんなもんなるか」
 だよなぁ…。
 呟いてガリガリと後頭部を掻く。魅朧の椅子にもたれ掛かりながら、そういえば魅朧本人はあまり変わりないような気がした。他の男も、特に顕著なのが女だが、一様にそわそわしているのに。この操舵室に今は男しかいなくて、安心している自分がいる。
 此処最近のノクラフを、カラスは直視できずにいた。
 ノクラフという女性は、エルギーの妻である。どちらかと言えば友達の感覚で接していたから、彼女に『女性』という性的な投影をしたことは無かった。無かったのだが、最近の彼女をみていると、心と言うより身体が騒いだ。
 最初は風邪でもひいたのかと思って見ていた。ぼーっとしてたり、溜息を付いたり。熱でもあるのか、目元がほんのり紅く染まっていたりして。その辺で漸く、風邪ではなくて色気かと確信した。
 いつもハツラツとしていた彼女の変わり様は、それこそ病気かというほどだ。話しかけても、怠そうに答えるだけで、あまり男を寄りつかせることはしない。船内の女性が全て、こんな調子だと気が付くのに時間はかからなかった。
 それよりも、なぜかしつこく迫ってくる魅朧の方が問題といえば問題だった。
 ぼうっと操舵室を眺めていれば、ふらふらとした様子でノクラフが扉を開けた。途端室内に走る緊張に似た気配。何事かとエルギーを見れば、舵を握った手を滑らせていた。いきなり針路が変わることはないが、慌てて戻す様子が可笑しい。
「エル、ギィ……、いる…?」
 舌っ足らずな、婀娜っぽい顔をして。掠れた声で、頭痛でもするのかこめかみを細い指が這っている。
「…ノーラ」
 愛称を呼ぶ夫の声の後に、唾を飲み込む音が聞こえた。船室の男達は一歩も動かない。だがその視線だけはピタリとノクラフに合わされていた。
 ごしごしと目を擦りながら、ノクラフはエルギーの元まで辿り着いた。身動きのとれない男の背後から、ぺたりとくっつく。腰に腕を回して、彼女は満足そうに息を吐いた。その吐息のなんて色っぽいことか。
「…あーあ」
 鼻をひくつかせた魅朧は、呆れたように溜息を吐きだした。
 カラスは何も言わず、いつもとは全く別人のようなノクラフの様子を見つめていた。この二人は夫婦だから、くっついていようと何か問題があるわけではない。だが、人前で際限なくいちゃいちゃとするような夫婦ではなかった。それなのに今の状況はどうしたことだろうか。
 暫く固まっていたエルギーが、擦り寄ってくるノクラフの動きで我に返った。
 くるりと魅朧の方へ振り向いて、まるで助けを求めるような視線をむけてくる。他の船員達も、衝動を我慢するような、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……仕方ねぇなぁ」
 天上を仰いだ魅朧は、立ち上がって伸びをした。
「保たねぇんだろ、お前等。どうせあと小一時間だしな。場所ついたら船固定しといてやる。全船員配置解除、配置命令がでるまで全就業停止、5日以内の帰船拠点への飛行滞在許可、ただし同族じゃない場合は俺に許可を求めろ。以上、もう行っていいぜ」
 呆れたような、曖昧な笑顔で言うと、真っ先に飛び出したのはエルギーだった。その両腕でしっかりノクラフを抱いている。それに遅れて船員達も嬉々として操舵室を駆けだしていった。
「…………何事だ」
 カラスは呟くことしか出来なかった。
 つられたように笑う魅朧は、何故かカラスを直視することを避けた。

***

 誰もいなくなった操舵室で、舵を握るのは勿論魅朧しかいない。
 カラスは手持ちぶさたに魅朧専用の椅子の、手すりの部分に重心を乗せていた。手伝おうとは、思わなかった。この船の住人たちは自分の仕事に誇りをもっている。いくら自分が魅朧と仲がよくても、操舵を手伝うことは担当者達のプライドを傷付けるだろう。同じ理由で船長席に座る気もない。彼らを尊重しての行為だ。
「ひとりで大変そうだな」
「俺を誰だと思ってやがる。生まれた時からこの船にいるんだぜ?」
「ですよね」
 軽口にはしっかり返してくれるのだが、先程ノクラフが訪れてから魅朧の様子が何処か違っていた。エルギーのように顕著ではないが、それに近い。ピリピリと緊張している。
 一体、どうしたんだろうな。
 自分以外の船員達が何も言わずに全てを悟っていた。数人に聞いても空笑いとか、ごまかしたりとか、明確な答えをくれなかった。
 いつになったら教えてもらえるのかな。
 ひとり置いておかれてつまらないと、口にも態度にも出さないがカラスは拗ねていた。
 無意識で漏れた溜息は、しっかり魅朧に届いていたようで、
「カラス」
 振り返りもせずに、片手を上げて指の動きだけで呼んだ。
 漸く釈明が聞けるのかと、軽い足取りで近付いた瞬間。カラスが何か言う前に、その身体は魅朧に抱き寄せられていた。
「め………、ッあ!」
 舵を握ったままの魅朧に背後から抱きしめられ、抵抗する前に首から耳にかけてを舐められた。そのまま耳朶に噛み付かれて、縋り付く場所は舵しかない。
「知りたいか?」
 鼓膜へ直に吹き込まれるような低音で囁かれ、カラスは動きを止めた。
情事の最中みたいに、艶を帯びた掠れた声。舌が這う濡れた音とその低音に、心臓が急に早くなった。
「お前がいるからマシだったんだが、さっきのノクラフにあてられちまった」
「…な、に?」
 舵は片手で操ったまま、魅朧は空いた手をカラスの服の隙間につっこんだ。指で肌を辿り、邪魔なボタンは早々に外していく。
 カラスは豹変した魅朧の行動に付いていけず、施される愛撫に震えるしかない。小動物のように震える姿に舌なめずりをしながら、魅朧はカラスの首元へ頭を埋めて大きく息を吸って、満足そうに吐き出した。
「悦い匂い。我慢きかねぇかも」
 なにがなんだか、わからない。
 部屋には誰もいないが、こんな状況でどうして。
「此処離れるわけにいかねぇから、少し我慢してくれ」
 拒否権は無いのか。
 上着を殆どはだけさせられたカラスは、伝い上がってくる魅朧の指に耐えるように瞳を閉じた。ぎゅっと力が入ったせいで長い睫毛に涙が滲んでいる。果物を舐め取るような動きで、魅朧はカラスの目尻を舐った。
「なん…で、いきなり…っ」
「人間体でいる分には性欲も並なんだがな…。―――純血種を残す時は繁殖期しかない」
「…ふ、…ゃ…め」
「まず雌が発情期に入ると、俺達には匂いでわかる」
 カラスの唇の端へ口付け、魅朧は自分の腰を押しつけた。「ひっ」と小さな悲鳴を上げたカラスは、ビクリと身体を硬くする。
「雄は雌が子孫を残してくれるように、ただ本能だけで動いちまう」
 その指を二本一遍に銜えさせて、魅朧は喉で笑った。久しぶりに感じた飢餓感じみた欲求に苦笑がもれる。理性なんか微塵もなくて、ただ目の前の相手を孕ませたい衝動にかられている。
「雌の匂いで、雄はスイッチが切り替わる。愛情行為でしていたものが、自分の種を残したいって願望がでてくる。欲望より本能が勝るんだ」
 俺が今、どれだけお前が欲しいのか解るか?
 肉食動物のような唸りに、魅朧の激情を知った。自分と交わっても、子供を残すことなど出来はしない。それなのにその欲望が自分に向いていることが嬉しかったが、後ろめたくもあった。
 いつもより格段と余裕のない魅朧は、自分の様子をわかっているのかいないのか。滲み出る雰囲気に飲み込まれそうなほど、今の魅朧は酷く艶っぽかった。
「は…」
 引き抜かれた指はぬるりと唾液に滑っていた。カラスを舵におさえつけたまま、魅朧は一瞬だけ放した手でカラスのズボンを緩めて下肢を剥き出しにさせた。十分に濡れた指は迷い無く後ろへ回った。太股の内側を掠ると、カラスが息を詰める。
「んっ…、あ、あ、あ…ッ」
 堪えきれず断続的に漏れた声は、いきなり挿入された指の所為だ。本来の目的と違った場所へ施される愛撫に慣れ、どれほどの快楽が待っているのかを覚え込まされている。突き入れられた指がそこを解すと、快楽を引き出すために動いて、カラスは膝を震わせていた。
 立ったまま、縋る場所はこの船の舵とそれを支える魅朧の片腕。体内に指を含まされて立っているのが辛いのに、足に力を入れればきつく締め付けてしまう。殴ってでもとめればいいのにそうできない自分はオカシイとカラスは思った。
「暫く気ぃ散らそうと思ってたのに、お前が拗ねるから我慢できなくなったろうが」
「俺の…せ、じゃ……ないっ」
「お前しか抱けねぇんだよ、俺は」
 そう囁かれてしまえば、抵抗なんて出来なくなった。
 いつも飄々としている魅朧が、これ程欲望を全面に出すことはない。はふはふと荒い呼吸をくり返して、ただ愛撫を待つ自分はまるで獲物のようだ。
 性急ながらも出入りする指に身震いする。長い指は自分では到底届かない体内を這いずり、燻る熱を体中に行き渡らせた。
「う…ン、…はっ…ぁ、あッ」
 流されてると思っても、止められなかった。増やされた指が激しく注挿されるごとに、グチャグチャと濡れた音が耳に痛い。
「も、いいか」
 耳と首筋を舐めていた魅朧が、上擦った声で呟いた。いつもの余裕は何処に行ったのだと聞きたくなる。
「あ…ッ」
 ぬるりと熱い物が後孔に宛われ、擦り付けるように何度か上下する。は、と息を吐いた瞬間、腰を力強く掴まれて指より太いものが入り込んできた。
「ぃ…あ、ッ…」
「は………きーもち」
 壁に擦り付けるようなゆっくりとした動きで半分ほど埋めて、魅朧は感嘆した。心底気持ちがいいとカラスの首に頭を預けて、片腕を腰へ巻き付けてきた。
「ちょっと、我慢しろよ…?」
「……に?」
 何。
 言葉に為らずに振り返ろうとしたカラスは、次の瞬間甘い叫びを上げることになった。ぐっと腰を抱いた魅朧が、首筋に噛み付いて、一気に最奥まで突き上げてきた。そのまま何度か揺さぶられて、縋り付いた指が木の舵に爪を立てる。
「やぁッ…あ、…んぅ…」
 抜け出るギリギリまで引かれ、排泄感にぞくりと背を泡立たせれば、息を付く間もなく根本まで埋め込まれる。大きく張った部分が体内の敏感な部分を突き上げるたびに、自分では制御できない快絶が走り抜ける。
「…あー、すげぇ」
 首や肩にやたらと噛み付いていた魅朧は、挿入の合間に満足そうに呟いた。
 いつもなら慣れるまで待ってくれるのに、片時もじっとしていない。嵐に巻き込まれたような灼熱の快楽に、カラスはひたすら荒い呼吸をくり返して耐えた。
 耐えてはいるが、一方的な行為だとは思わない。動きこそ些か乱暴だが、甘えるように名前を呼んでぴたりと身体を擦り寄せてくる魅朧は、確かに愛しているのだと解る仕草でカラスを追い上げている。
 膝が震え、上体が下がると、自然と腰を付きだしたような卑猥な恰好になってしまう。今更のように沸き上がってきた羞恥心に、カラスは拳で唇を覆った。肉がぶつかり合う音がするほどに激しい動きで、涙に歪む視界がぶれる。
「カラスッ…」
「ん…、ン、…ッ…」
 魅朧の動きが、追い上げるようなそれに変わった。片手で腰を押さえつけて、立ったまま入り込めるぎりぎりまで熱を埋め込んでくる。律動の激しさに訳が分からなくなって、カラスは付いて行くのが精一杯だった。自分がどんな声を上げたかなんて覚えていられない。
 魅朧の剛直が深く突き込まれたまま腰を押さえつけられ、浅ましく勃ちあがりぽたぽたと先走りを垂らすカラスの中心を握り込まれる。
 剥き出しになった肌がぴたりと触れ合い、腰を回すように動く。掻き回される。いっぱいに埋め込まれて、恍惚とした溜息が漏れた。
 律動ではなく、密着したまま一番敏感な箇所をぐいぐいと揺さぶられ、限界まで大きく育った分身を擦り上げられれば、
「ひ、…あああああ!」
「……ッ」
 信じられないくらいの快感が全身を駆け抜けた。つま先に力が入り、余韻で神経という神経が敏感に反応する。ぎゅうぎゅうに締め付けてしまった魅朧の牡が小刻みに動いて熱を吐き出した。叩き付けられたような激しさに身震いする。一滴でも惜しいと注ぎ込んでくる律動に、カラスは火照った身体で応えた。

 ふ、と意識が浮上したとき、一瞬此処がどこだか解らなかった。
 ぼんやりと正面を見つめれば、この船の舵が固定されていることを知る。自分は何処に座っているのだろうと視線を戻せば、ベルベットの肘掛けが目に付く。
 これは、船長の椅子か…。
 思い浮かんで納得してから、自分が座るべき場所じゃないことに気が付いて、勢いよく立ち上がる。
「…あっ」
 足に力が入らなくて、かくんと膝が落ちた。ぺたりと床にしゃがみ込み、そうなった原因を一気に思い出して自分で意識できるほど顔に熱が集まってきた。
 なんて処で、なんて事を…。
 慌てて困惑する自分の整理がつかず、俯いてしまう。その原因を作った相手がこの場に居なくて心底良かったと安堵するのも束の間、操舵室の扉が音を立てた。
「大丈夫か?」
 愛おしそうに苦笑を浮かべたこの船の船長は、シャツをまくったそのままの腕で鬣のような髪を掻き上げる。その姿が様になっていて、カラスは惚けたように見つめた。
 椅子からずり落ちているカラスの前に膝を突いて、こめかみや額に口付ける魅朧は随分と機嫌が良さそうだった。
「飛んでたぞ。―――そんなに悦かったのか?」
 無理させて悪いな、と呟きながら喉の奥で笑っている。
 まともに顔を見ることができず、また何か言い返すこともできなくて、カラスはそっぽを向いていた。呼吸と一緒に微笑った魅朧は、そのまま顔を近づけてカラスの唇に噛み付いた。何度か啄み、ぬるりと舌を滑り込ませて口腔を舐めた。お互いの舌を絡めて、下唇を甘く噛んで唇を離すと、名残に唾液が伝った。
「部屋、戻るぞ」
 重さなど感じないような動作で抱え上げられて、カラスは自分が魅朧のコートにくるまれていることを知った。
「……船は?」
 直前まで舵を握っていた事を思い出して尋ねると、魅朧は船長室の扉を閉めながら苦笑した。
「アンカーは固定済み。この船は十日ばかり此処で停船だ。発情期だからな…。迂闊に他の部屋入るなよ?何処で乱交してるかわかんねぇから」
 揶揄するような口調とは裏腹に、爬虫類に似た瞳は真剣だった。
「……魅朧も、か?」
「まぁな」
 先程の情交といい、自分を抱える龍族の男は自分の魅力を全面に押し出したままだ。視線や仕草やその雰囲気全てをつかって誘いを掛けてくる。
 自分は同族の雌ではなく、まるで正反対な人間の男だが、何故だろう。この船の雰囲気がそうさせるのか、腰の奥に熱が燻っている。
「理性飛んでっから、ちょっとヤベェかもな」
 憮然そうに呟いても、抱える指先は酷く熱い。
 龍よりも嗅覚の弱い人間である自分も、どうやら呑まれているのだろうか。浮き足立つ心は押さえつけようがない。
 するりと首に腕を回して、噛み付かれた肩のお礼に、魅朧の喉にかじり付いた。

***

 呑まれているとは言え。
 どうして自分はこんな事をしているんだろう。

 いつもならば絶対に了承しない。
 カーテンも閉め切った室内は、卑猥な水音で溢れていた。冷静に考えると死んでしまいたくなる。だからカラスはあえて何も考えないようにひたすら舌を動かした。
「ン…ん、…ッふ」
 行為だけなら何度か行ったことはある。熱く育った魅朧自身を口に銜え、浮いた血管に沿って舐めたり吸い付いたりを繰り返す。
 いつもよりぎこちないのは、この体勢の所為。
「カラス、逃げんな」
「っ…」
 太股をがっちり押さえ込まれて、先端をぺろりと舐められた。お互いに相手の性器を舐め合う卑猥な体勢。カラスは魅朧の頭を跨ぐようにして覆い被さっている。
 身長差があるので、カラスが魅朧を愛撫すると、自身をわずかばかり引き倒されることになる。それが苦しいけれど、補って余りある快楽を魅朧が与えてくれる。
 元はと言えば魅朧のものを舐めるような事を言ったのは自分だ。冷静さを欠いて切羽詰まった魅朧にあてられた。我慢が出来ないことを隠しもしない。早くお前を喰わせてくれ、とその視線が雄弁に語っていた。
 むしり取られるように服を脱がされ、魅朧も素肌を晒せば、既に固さを保った物が見えて。自分も男であるからその辛さは十分わかる。だから先に鎮めてやろうと申し出れば、魅朧はただではそれを認めなかった。
「俺だけ気持ちいいのは駄目だ」
 そう言って笑いながら、気付けば魅朧の顔を跨いで、自分の顔の前には魅朧の性器がそそり立っていた。
 嫌だ止めろの抵抗は、突然舐められた事で動きを止めた。器用に動く舌が幹に絡み、熱い口腔に含まれて吸い上げられれば、立てた膝が震えた。涙目になりながら快楽に耐えていると、目の前にはいつも自分を翻弄する魅朧自身が硬く起立し、先端からは先走りが滲んでいた。
 羞恥心を一時忘れ、わずかばかり伸び上がってえらの張った部分に口付ける。ビクリと魅朧が動きを止めた。そのままぺろぺろと溢れ出た物を舐め取って銜えると、魅朧の腰が揺れた。
 そんなに余裕が無いのか。
 いつも自分が翻弄されている分、嬉しかった。そのまま暫く無心に奉仕していれば、口の動きはそのままで、魅朧の指がもっと奥へと辿った。
「魅朧っ…!」
「んー…」
 やわやわと入り口を揉まれる。滑りを帯びているのは、魅朧の唾液とカラスの先走りを塗りつけた所為だろう。
「やだッ…!やめ………っ!!」
 身をよじって止めさせようとしたその抵抗は、魅朧がカラスの先端をきつく吸い上げるだけで止められた。解放しそうなほどの快楽に目の裏がちかちかする。
「一気にいけそうだな」
 指の第一関節くらいまでを出し入れさせていた魅朧はそう判断して、一息に指の根本まで差し込んだ。いきなりの衝撃にカラスは声もなく喘ぐ。
「すげぇな、絡み付く」
「ぅあ、ぁ…ンッ…、…ん」
 楽しそうな声に笑いが混じって、羞恥を煽る。逃げるように腰を上げれば、体内に潜り込んだ指が曲げられ、震える性器を吸い上げられる。
 こんな体勢で施される痛いほどの快楽にカラスは泣きそうになった。
「カラス、カーラス。俺のも舐めて?」
 楽しそうに銜えながらしゃべられて、居たたまれない。二本に増やされた指がぐちゃぐちゃと掻き混ぜてくる。
 カラスは前後の快楽に震えながら、おずおずと必死に舌を這わせた。じゅ、くちゅ、と音を立て、口いっぱいに頬張る。喘いでしまうせいで、呼吸が苦しくて仕方ない。
「んんぅ…!」
 中のしこりを撫でられて、背が撓った。いきなりの快楽に歯を立てないようにするのが大変だった。
 ひくひくと締め付ける中の敏感さを楽しみながら、先程までもっと太い物を貪っていた後孔は柔らかく物欲しそうだった。
「さっき中で出したからな…。すげぇ、トロトロ」
 俺のが出てきて、やらしいな。
 下肢から聞こえてくる卑猥な科白に眩暈がする。いつの間にか魅朧は性器を舐めることを止め、受け入れる器官に変えられた秘部に舌を埋め込んでいた。最奥で放った欲望の残滓が指を掻き回すたびに溢れ、その様子が汚されたみたいで酷く卑猥だ。
 低く腰を落とす体勢が苦しくて、カラスの太股が震える。蠢く指と舌に翻弄され碌に口淫もできない。びくびくと揺れる身体の所為で、目の前にある熱棒に頬を擦り付けてしまった。
「…魅朧っ…、めいろ……も、や…」
「限界か?」
 こくこくと頷く姿は見えないが、ちゃんと解った。中を掻き混ぜていた指は三本に増え、すぐにでも受け入れられることを確信して一気に引き抜いた。根本を戒めていたため解放は免れたが、甘い悲鳴を上げたカラスの声に煽られた。
 素早く動けないカラスを気遣って体勢を変える。お互いに向き合って宥めるように口付ければ、カラスは拗ねたような顔をしていた。
「……まずい」
「癖になりそうだろ…?」
「…………変態」
 喉で笑って応えた内容に眉をしかめたカラスは、悪態を付きながら魅朧に口付けた。 

 ぎし、とベッドが軋む。
 何もない海原の真ん中で、漆黒に塗られた船内はひっそりと、だが確かな営みに満ちていた。
「ゆっくりでいい」
 顔中にキスを落とす魅朧が、掠れた声で囁いた。
 カラスは頬を朱色に染めながら、こくりと頷く。熱に浮かされたような潤んだ瞳で。ベッドの背もたれにクッションを敷いて体を預けている魅朧の腰に跨り、すっかり準備の整ったそれを震えそうになる指で固定する。
「っ…んッ――」
 泣きそうになるまで解された後孔に、丸みを帯びた先端を当ててゆっくりと腰を落とした。先走りの滑りをかりて、それは随分難なく潜り込んだ。張り出した部分を呑み込み、自分の出来る範囲内で沈めていく。結構な質量があるそれがだんだんと内部に入り込み、まるで離したくないと言うようにざわめく熟れた内壁が絡み付く。
 いつもの受動的な受け入れ方ではなく、自分から欲しているような恰好が酷く恥ずかしかった。
 ふるふると震える姿がいじらしくて、魅朧はうっそりと笑んだ。お互いに興奮して汗ばんだ肌が吸い付くように合わさる。
 両手で腰を掴んで、掠めるように口付けた。その瞬間――、
「あああ――――ッ!!」
「…っ」
 幾分強引に引き落とした。一気に最奥まで突き込まれたカラスは、短い悲鳴をあげて魅朧にしがみついた。
 首に腕を回してしがみつかれているので顔は見えないが、真っ赤になった耳が物語っていた。あやすように背を撫でてやり、魅朧は自分の腹に散った白濁を確認する。
「……全部入って、満足したのか?」
 からかう様な苦笑混じりの声で。
 前を触らずに後ろだけの衝撃でイってしまえるなんて、魅朧から見れば随分と可愛いのだが、カラスはただ羞恥で悶えていた。
「俺もな、我慢できねぇの」
 悪ぃ、気使ってやれねぇかも。と、耳朶を優しく噛みながら呟いて腰を揺する。絡み付く蠢動を味わうのも悦いが、今はもっと激しい動きが欲しい。突き上げて泣かせてぐちゃぐちゃにしたいなぁ、と物騒な事を考えていれば、カラスがおずおずと顔をあげた。
「……も、…いから」
 音として感知できるぎりぎりの声で。
 太股や脇腹に指を這わせれば、解放の余韻でびくびくと震える身体を擦り寄せてくる。頬に頬を寄せて擦り寄ってくる仕草が猫のよう。
 浅い呼吸を繰り返しながら体を揺らす。お互いにタイミングを合わせて動けば、ぬちゃぬちゃと粘着質な音が聞こえてきた。
「あ…ふっ、…ン……、ぁ…あ!」
「……いいぜ。上手だ」
 反り返った先端が内壁を擦りあげ、引いてはすぐに埋めて前立腺を押し上げる。自然と熱が集まる下肢をどうしようもなく持て余しながら、カラスはぎゅっと目を瞑った。
 激流に流されるような快楽が体中を駆け抜けて、つま先が反り返る。切れ切れの喘ぎを堪えきれなくて、耐えられないと啼いた。
 いつも手を抜くことなく、貪り尽くすような交合を求めてくる魅朧だが、今日ばかりは違っていた。気遣いは感じられるが、野蛮な気配がする。
 ノクラフに直接言える言葉ではないが、ここ数日の彼女は酷く男を誘っている雰囲気だった。それと同じように、今の魅朧も持てる魅力を全てさらけ出していた。口に出すより、その仕草の全てでカラスが欲しいと訴えかけ、肉食獣に似た飢えた欲望を隠しもしない。
 そんな魅朧に、きっとあてられてしまったのだ。
 こんなに欲しがられて、無下に出来るわけはない。
「やべ……オカシクなりそ」
 満足した声音で。
 抜けるぎりぎりまで引いて、お互いの肌がぶつかるほど乱暴に突き入れる。激しい挿入に言葉も出ないカラスの喉を舐め、鎖骨に歯を立てる。硬く立ち上がった胸の突起を吸い上げて、舌と歯で執拗に嬲れば、びくびくと搾り取るような締め付けになった。
「…無理ッ…、や…ぁ…あ……ア」
「んー?」
「魅ろ…っ…!」
 我慢できない、きもちいい、早く。
 流れ込んでくる感情が心地良い。
「溺れ…そ」
「…は、………上等」
 ぺろりと自分の唇を舐め、望むままに腰を振った。
一度中で放たれた物が掻き回され、淫猥な音を響かせている。それにすら煽られて、熱を持ち、お互いに交わった部分から溶けていきそうな錯覚を覚えた。
 腰を支える魅朧の腕に爪を立て、カラスは軽く仰け反って白い首を晒していた。無意識に自分の悦い処に当たるよう、腰を揺らしている。
 百戦錬磨の娼婦ですら敵わない、婀娜っぽい仕草。濡れて色濃くなった髪を張り付かせ、潤んで恍惚とした瞳は魅朧の視線と濃厚に交わった。
 ずるりと抉るように引き抜けば、逃さないというように熟れた肉が絡み付いてくる。爪を立てる勢いで尻肉を割り、潜り込める限界まで埋め込めば、入り口が締まり結構な重量を含まされた内壁がざわついた。
「ひ…んッ――!」
「…凄いな」
 満足そうな吐息を吐いて魅朧はカラスの腰を引き寄せた。貪るような激しさで唇に齧り付き、熱を解放するために律動を早めた。
 何も考えられなくなったカラスは、自ら動くことも出来なくなって揺さぶられるまま魅朧にしがみついた。
 体中が燃えそうに熱くて、頭の中は真っ白になる。深い口付けを受けながら、時折酸素を求めるように息を吸う。それすらも喘ぎ声に代わって、もう限界だと一瞬の快絶に身を委ねたその瞬間。
「ヤ…ぁ…、ッん――――!!」
「……っ、キツ」
 打ち込まれた楔が膨れ上がり、内壁にじわりと熱が放たれた。
 奥の奥に感じる熱さ。残り無く注ぎ込もうとする動きに、解放したばかりの敏感な粘膜がひくひくと反応を返す。
 はふはふと荒い息を繰り返し、お互いの唾液を舐め取るようなキスを繰り返している合間、カラスは「熱い」と呟いた。 
「生きてるか?」
「………なん、とか」
 喘ぎ疲れて掠れた声でカラスは魅朧の肩に頭を乗せた。
「どーにかなるかと思ったな」
 魅朧の声も、厭らしいほど掠れている。
 整わない呼吸を首筋に感じて、魅朧はくすぐったさに肩を竦めた。

 十日後の有様は、語るに及ばず。

  

1.立ちバック
2.69
3.対面座位ですりすり
アンケートのトップ3でした(笑)
2005/11/08

copyright(C)2003-2008 3a.m.AtomicBird/KISAICHI All Rights Reserved.