ジビエとクトレトラ vol.3ジビエとキャプテン篇

Liwyathan the JET ""short story

「おう若造。そろそろ慣れたか」
「あ、キャプテン」
 がっくりと肩を落とした後ろ姿に、魅朧が陽気な声をかけた。萎んだ声の応えが心境を全て語っているようで面白い。
「でかい図体して泣きそうな面してんのな。それが姉貴の旦那の顎砕いた野郎の態度かよ」
「…それは、姉貴泣かしたからつい手が出ただけっすよ」
 いろいろな誤解というか夫婦喧嘩のとばっちりとでもいうのか、同じ船の船員を殴ってけっこうな怪我を負わせたジビエは、強制的に船から降ろされそうになっていた。面白がった魅朧がこっそり見に行けば、随分面白そうな逸材だった。だから拾ったのだ。
「なんだ、振られたのか?」
「………」
 魅朧がにやにやとからかえば、ジビエの肩がさらに落ちた。しょんぼりと身を縮める態度が、実際の図体と正反対でさらに笑いを誘う。けれど、弱々しそうには見えなかった。
「…別に、姉貴に対して変な感情は持ってないっす」
「そっちかよ。俺はてっきりクトレトラに引っかかれたのかと思ったんだが」
「…!!」
「当たりじゃねぇか」
 がば、と顔を上げたジビエがあまりに必死で、魅朧は吹き出すのを堪えるのが大変だった。若さというのは本当にいいものだ。
「そもそも何でクトレトラが気にいっちまったんだ?俺が言うのもなんだが、あいつは付き合い憎いぜ?」
「そんなことないっすよ!滅茶苦茶可愛いじゃないすか!」
「誰が」
「クトレトラ」
「………お前、あれか。雄のほうが好きなのか?」
 友人を可愛いと思った事がない魅朧は、ジビエの反応が友情由来のものであるかもしれないという発想は思い浮かびもしなかった。
「雌のが好きっすよ。けど、クトレトラはなんか、側に行きたいっつーか…、俺がついていきたい、っつーか…」
 だんだん尻つぼみになっていくジビエに、垂れ下がる耳と尾が見えたような気がした。
「犬っころみてぇなやつだな」
「……キャプテンもっすか」
「んー。何だ。クトレから何か言われたか」
「言われたわけじゃなくて、読めただけっす」
 へぇ、と魅朧は黄金の瞳を細めた。クトレトラは、同族相手にもあまり心を開かない。相手の感情を読まないし、自分の感情も明かさない。それは特に雄相手に顕著だった。そんな相手の感情を読んでしまうジビエは、やはり能力が高い。良い拾い物をした、と魅朧はほくそ笑む。
「クトレトラを喜ばせたいんすよ。俺は敵じゃないんだって、認めてほしいんだ」
「あいつはガード堅ぇぞ」
「頑張ります」
「おー。頑張れや。とりあえず、雌扱いさえしなきゃぶん殴られることはねぇよ。お前は頑丈そうだから殴られても平気かもしんねぇけど」
「殴られるより、撫でられたいっす。…って、なんでキャプテンが撫でるんすか」
 癖のある金髪をぐりぐりとなで回した魅朧は、やっぱりこいつは犬っぽいと笑った。反論する気はないのか、ジビエは大人しくしていた。

  

く〜ん く〜ん(U・ω・U)
2008/09/23  拍手小咄でした

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