入り口で

Liwyathan the JET ""short story

 魅朧と別行動を取っていたカラスは、魅朧が仲間達と酒を飲んでいるというバーに向かった。裏路地のさらに奥まで進み、突き当たりの壁に随分頑丈そうな扉を見つける。用心棒らしき男が一人立っているのが見える。
 看板を確認してその扉を開こうとした。すると、横も縦も幅広い用心棒が通行を妨害した。
「ああぁ?何でこんなトコに人間が混ざってンだよ」
 葉巻の煙を長く吐き出して、ドアに張り付く用心棒が胡乱な目を向けた。
 カラスは薄闇の中ちらりと用心棒を見上げて、微かに眉を寄せる。
「人間は人間の群に混じって酒でも飲みな。場違いなんだよ」
「まぁまぁ…。身体検査でもして、危険じゃなかったら入れてやってもいいんじゃねえか?」
 喧騒を背にしながら、もう一人男が現れた。爬虫類のような瞳をしているので、この男も龍族らしい。
 その男を見上げたカラスは黒装束に黒瑪瑙のバングル。髪は灰色だが、名の知れた海賊の船員達と同じような恰好をしているのに、この男はどこか厭らしい目つきでカラスを見下げている。
「俺達の満足行く結果がでれば、中に入れてやってもいいかもなぁ?」
 にやにやと笑いながら、用心棒はカラスの腰に腕を回した。眉間のしわを深くしたカラスは、乱暴にその腕を払う。
「野郎…」
 色めき立った男達は、力尽くでもカラスを押さえ込もうとそれぞれ身構えた。
 龍にとって人間は下等であると言う見方が強い。敬意を払うなどとは以ての外だ。喧嘩を売られたのならきちんと買う。食料として人間を食う龍もいる。同じ種族としての性交ならともかく、人間に対してのそれに礼儀など殆ど無い。
 魅朧と一緒に生活を共にするようになって、カラスはそれを身をもって知った。魅朧にとって、カラスはあくまでも特別なのだ。
「知り合いに会いに来ただけだ」
 怒りを込めて、低く囁く。
「嘘つくんじゃねぇ。人間が俺達と対等だと思うなよ」
「思ってないけどな」
 そんなこと微塵も思ってないが、対等に扱ってくれる奴らを知っている。
「二度と朝日を拝めねぇ体にされたくなかったら、大人しく俺等についてこいや」
「拒否する」
 きっぱりと。冷静に座った瞳で言い放った。
 カラスの返答に口を引きつらせて襲いかかろうとした瞬間、用心棒の一人が壁に押しつけられた。
 ごっ、と鈍い音がした。手の平で男の頭を壁にぶつけたのは、店内から出てきた魅朧だった。ぶつけられた男は命に別状は無いだろうが、白目をむいてずるずると床に崩れ落ちていく。
「ひとの物に手ぇ出してんじゃねぇよ阿呆が」
「っわあ!族長!?」
 無事だった男が、顔を引きつらせて叫んだ。
「ドラゴンの風上にもおけねえ奴だな。コイツの腕見りゃ俺の物だって解るじゃねぇか。その眼は節穴か?」
 ぐい、とカラスの腕を引き寄せて、その手首にはめられたバングルを見せる。
「二度と俺の物に触るんじゃねぇぞ。次間違えたら、噛み殺してやるって仲間にも伝えとけ」
 ふんと鼻を鳴らして、魅朧とカラスは脅えた用心棒を入り口に置き去りにして、店の中に消えていった。

  

没ネタ。発展しなさそうだから小咄に降格〜。ドラゴンにも強い弱いがある。龍族と言っても割とピンきり。海賊船に乗るような龍はわりと強い。
2004/2/3

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