仲直り

Liwyathan the JET ""short story

 喧嘩を、した。
 人前でじゃれるな、とかそんな下らない理由で。
 別に、抱きつかれたりされることが嫌な訳じゃないけれど、そういうのを素直に喜べる性格はしていない。
 あいつには、きっと俺が本気で嫌がっていないと解っているだろうけど。
 だからって…。
 だから…。
 ああ、イライラする……!!
 力任せに投げつけたナイフが、的のど真ん中に深く刺さった。

 怒られた。
 毛逆立てた猫みたいに、威嚇気味な姿勢で怒鳴りつけられた。
 口での罵詈雑言。どんなことを言われたって、中身が全部否定していることを知っている。ただ、恥ずかしいだけ。そういう素直じゃないところが堪らない。
 どうやって機嫌をとろうか。
 お互いに折れる頃合いを計っている。
 俺が高圧的に出ると、あいつは途端に狼狽える。
 それが可愛いなんて、本人には言えないけれど。

「あ」
「お」

 同時に発した声色は、前者があまりに焦っていた。後者はどこか余裕で、その声が聞けることをあらかじめ知っていたような。
 でかい船とはいえ、通路は狭い。迷路みたいなそこで偶然出合う確率は意外と高い。意図的に遠回りでもしない限り、使用する道は限られるのだ。
 二人は暫し見つめ合った。
 いつもの黒コートを肩に羽織った魅朧は金色の瞳になんの表情も乗せずに、頭一個分下にある青磁色の瞳を射抜いた。
 何とか見つめ返す視線は思いのほか弱い。意地っ張りで頑固で素直じゃないから、きっとカラスはこのまま折れることは出来ないんだろうな。なんて、胸中で盛大に吹きだしながら。
 ポケットに突っ込んでいた手を抜いて、魅朧はゆっくりとした動作でカラスの肩を壁に押しつけた。眉間にしわを寄せたカラスだが、無表情の相手に暴言すら吐けずにされるがままになっている。
 灰色の髪がさらりと指に触れ、思わず抱きしめてしまいたい衝動に駆られながら、肘まで壁につけて。

「!!」

 瞳は開けたままで、唇を奪った。
 半ばパニックになっている心中を読みとりながら、魅朧は上機嫌で。
 無理矢理舌を差し入れて、強引なくらいが丁度良い。
 暫く見つめ合っていたものの、濡れた音に耐えきれなくなったのかカラスが苦しそうに瞳を閉じた。

 これで、陥落。

  

らーぶ!らーぶ!
2004/4/28

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