「なあ、俺が死んだらどうする?」
寝乱れたシーツをかぶりながら、カラスは穏やかにそう尋ねた。声が幾分掠れているのは、昨晩の名残を引きずっているからだろう。
「……」
魅朧は首の後ろをかきながら、どう反応して良いのか些か困ってしまう。何か悩みがあるのか、それとも誰かに何かを吹き込まれたか。だがしかし、カラスの感情を読んでみても、さざ波一つ感じられなかった。
返事のない魅朧に焦れたのか、カラスは苦笑を零して質問を変える。
「じゃあ、生まれ変わってお前の前に現れたら、どうする?」
また、無理難題を言い出す。
黄金色の瞳を細めて、魅朧はカラスの髪をくしゃりとかきまわした。
「そうだな……」
影で色濃く見える灰色の髪を、長い指に絡ませて、魅朧は揺るぎなく。
「お前が死んだら、その魂ごと俺が喰らいつくしてやる」
―――だからお前は、生まれ変わることはねぇよ。今のお前を、俺が死んでも一緒に連れて行くからな。
低く、囁いた。
カラスの生きてきた国には、輪廻転生の思想があった。ひとは死んでも魂は生まれ変わって、また現世に戻ってくるらしい。礼拝をろくに聞きもしなかったので、詳しいことは覚えていないし、当時の自分は馬鹿らしい思想だとおもっていた。
人は生きて、死ぬときには消えて無くなるものだ。そう思っていた。
だが、身の先まで幸せを知ってしまうと、次の欲が沸いた。
どれだけ魔力が高く、龍族の恩恵を受けていようと、寿命だけは避けることができない。
カラスは確実に、魅朧より先に逝くだろう。
そのことに気が付いて、ふと、聞いてみたくなったのだ。
「俺が死んでもお前と一緒にいるのか」
突拍子もない事に思える。だが、魅朧なら実現しそうな、そんな気がする。嬉しくて、可笑しくて、カラスは口元を綻ばせた。
「当たり前だろうよ。俺はお前を手放す気なんて更々ねぇからな」
お前に、独りの哀しみをもう二度と味合わせることが無いように。
魂を喰らって、神も悪魔も手出し出来ぬように。そして自分はその躯の側で共に眠ろう。 決して口には出せないけれど、魅朧は淡い微笑を浮かべて、カラスを引き寄せた。
魅朧の御陰で、カラスは孤独に啼けない。良いことか、悪いことか、どっちなんだろう。
2005/8/4