焔 水

***聖霊奇譚***© 3a.m.AtomicBird/KISAICHI***

 

 

 迂闊だった。
 俺としたことが実に迂闊だ。
 占い師用の服装を整えるのに、一度の買い物ですべての荷物を持ち帰れるわけないじゃないか。しかも、仮にも今は女の格好。男の格好ならまだしも、怪力の淑女ではあまりにも人目を引きすぎる。

「お客様、お荷物をお持ちいたしましょうか?」

 布屋という業種には珍しく、男性の店員が話しかけてきた。
 黒のタイトドレスに服飾品、占具に利用する水晶の器……。これに今買った黒のレース一巻き――今は店員が抱えている――では、さすがに両手に有り余ってしまう。
 まぁ、せっかくの好意だ。自分でもってくより楽だから、頼んでしまえ。

「じゃあ……」

 言いかけたそのとき、確かになれた気配を感じた。あまりの不意打ちに驚き、だが迷いなくこちらに近づいてくるこの気配に思わず顔が綻んでしまった。

「お…お客様?」

 店員が上擦った調子で尋ねてくる。顔のほとんどを薄布で覆うこの民族衣装では瞳しか見えていないとはいえ、絶世の美女とも通じるジーベルスの微笑みを見て揺るがない男はいない。

「いいえ、そのお気持ちだけいただきますわ」

 丁寧に断りを入れた俺にさらに何か言いかけた店員の口は、新しい客の来店を告げるベルの音によって一度閉じられた。

「いらっしゃいませ」

 女主人の挨拶を投げかけられた客は、いっそこの場には不似合いな雰囲気を持っていた。彼――ペルシャバルは迷わずジーベルスの元へ来て、開口一番にこう言った。

「子供ではないんですから、見当をつけて買い物をしてください」

 台詞は十分に憎まれ口なのだが、その口元には優しげな笑みが浮かんでいた。

「うん」

 珍しく素直に返事を返して、極上の笑みで見つめ返す。

「行きましょう」

 店員から反物を受け取り、その他にもう一つ、一番重そうな包みを抱えて出口へと歩いてゆく。

「どうもありがとう」

 気を使ってくれた店員に礼を述べて、俺も後に続いた。




 客の去った布屋の店内。

「フラレちゃったわね」
「……そうッスね……」

 残念そうに労る女主人と傷心の店員の会話。




 昼下がりの雑踏の中を二人無言で歩いている。向かうは仕事場兼住居。
 お互いの気持ちなど解り得ないが、ジーベルスの心は早っていた。
 ほんの些細なことがこんなに嬉しいことだとは思わなくて、確かに初めての感覚でかなり舞い上がってもいた。

「なぁ…なんで迎えに来てくれたんだ?あんたの気配をたどれば、居場所なんてわかんのに」

 普段の口調で、だが期待が入り交じった思いで聞く。この緊張を悟られないように、極力注意しながら。

「あなたが迷子になるなんて思ってませんよ。事前に何が必要なのか聞いてましたからね、一度に持ち帰れなさそうな量なのに、なかなか帰ってこないんで心配したんです」

「……へへ」

 嬉しくて照れる。やばいなぁ、俺、我慢すんのきらいなんだよな。

「なんですか?ジル」

「いやー、別にー」

 適当に言葉を濁したジーベルスをそれ以上問いつめず、笑みを含んだ小さなため息をついた。
 自分の横を歩く相手が少しだけ擦り寄ってきたとか、いつもよりしおらしく思ったとか、言ったらどつかれそうだが……可愛かったとか。ため息の理由はそんなとこだ。

「なー…、店、今日から開けんの?」

「ええ、夕方から」

「それ、中止な」

「は!?理由は何ですか」

「……俺の先読みィー」

「嘘おっしゃい。自分と自分に服属するものの先読みはできないでしょう」

「理由は、店に着きゃあ解ると思うぜ」

 いくら俺でも公衆の面前で言える言葉と言えない言葉があるんです。

*****


 家に着くとすぐに、ジーベルスは顔を覆う薄布を取り去った。そして、荷物を置くのもそこそこにペルシャバルの背後に近づいて、彼のターバンを引っ張る。ペルシャバルの髪も瞳もこの世のものにはあり得ない色をしている。カーマ人と似ていなくもないが彼らの主体は赤闇色で、ペルシャバルは燃えるような朱色。炎の化身にふさわしい紅。この砂漠地帯では考えもしない色なので、ターバンで目元まで覆っている。

「!?…何するんですか?」

 急なことに驚いて振り向いたペルシャバルの胸を押して、背後にある机に座らせる。赤く長い髪は机に乱れ、燃え立つ右目がジーベルスを見つめる。すらりと長い両足の間に体を滑り込ませ、両手を机について覗き込むように上目遣いで妖艶な笑みを浮かべた。
 さらに体を寄せて頬に口付けし、そのまま耳元に口唇を寄せて囁く。

「……やらしいこと」

 どこか舌足らずな申し出は、多少の幼さと熟女の魅力を含んでいた。
 最初はただ触れるだけ、そんなキスから始まり、何度か戯れに啄んだ後にペルシャバルが薄く開いた唇に誘われたようにジーベルスが舌を差し入れた。そのまま深くなる口付けは、欲望を煽るには十分な熱さだった。
 キスに答えながらペルシャバルは、いつもより強引なジーベルスの献身的な態度で、体の奥に火が着くのを感じる。

「……はっ……、ん……」

 いつの間にか政権交代されたキスに啼き、離されたお互いの口唇を名残惜しげに唾液が糸を引いて切れた。
 潤んだ目元を朱に染めて清らかに微笑むと、その頭をペルシャバルの肩口へ埋めて何度か唇で触れた後にきつく吸い上げる。

(先読み、ね。確かに今日は閉店確実ですよ)

 ジーベルスの指は器用にペルシャバルの服の留め金をはずして、開いた隙間に口唇を落としてゆく。肌を伝う指はひどく熱い。
 肉体関係を持ってそれほど時は経っていないが、彼から誘ってくることはあれど、行為自体は常にペルシャバルが実権を握っていた。それに物足りなさを感じたことは微塵もないが、今日を境にいろいろ教え込もうとかなり自分勝手な決意をする。

「………?」

 いつの間にやらジーベルスは床に膝をついて、ペルシャバルのズボンに手をかけていた。が、途中でその行為が止まる。

「……ジーベルス?」

 どこか迷うような躊躇しているような気配に名を呼んでみたものの、当人は何事もなかったように緩めたズボンからペルシャバル自身を取り出し、舌を這わせた。片手を太股において、もう一方の手の華奢な指が軽く添えられ、熱い舌が根本から幹を這うように動く。 うっすらと頬を染め、長い睫毛を震わせながら懸命に尽くすその姿に激しい欲望を感じた。男なら誰しもが抱く征服欲。そして、気位の高い彼が自分のものに奉仕しているという優越感。

「……んっ……ふ……っ…」

 ウンディーナとは、かくもしたたかな生き物だ。
 ねじ曲げられた伝承によりほとんどの人々は清楚な存在だと信じているが、その笑みは男を惑わせ、その仕草は征服欲を駆り立たせ、その技巧は男を狂わせる。まるで手のひらで踊らせるように男を虜にする、淫乱な生き物。それが本来のウンディーナだ。
 そして、傲慢でプライドが高い故、本当に愛した者にしか心も体も許さない実に頑なな献身さを持ってもいる。ウンディーナの持ち合わせた魅力はすべて、愛する男ただ一人のために捧げられるのだ。
 それはジーベルスでも例外はない。が、技術を持っていても伴わないものがあった。彼は女ではなく男だという点……まあ、これは本来いっこうに障害にはならないが。彼を作った『母親』の記憶を受け継いでいないため、実際にはどう接していいものか戸惑っていたのだ。その気にさせることはできる、だが、いざ自分から行動を起こすとなると、本当に自分でできるのか極端に臆病になる。幸い今までの性交はペルシャバルに翻弄されていたが、先ほどの布屋でのちょっとした彼の優しさに一気に本能に火が着いてしまった。
 ズボンに手をかけて一瞬戸惑ったのは、本当に自分にできるのかという恐怖。だが、最愛の相手に名を呼ばれ、それは決意に替わった。

「………っ!」

 不意の刺激にペルシャが呻く。
 確実に質量を増した男根に舌を這わせる行為をやめ、亀頭を咥え込んだのだ。先端を舌で弄び、先走りを絡め取る。濡れた指を根本に添えて、深く咥え込んだ。喉に当たるくらいまで咥えているのに、それでも全てではない。口腔いっぱいに占めるものに、今更ながら体格差を思い知った。

「……う…ンっ……」

 苦しさに呻きながら何度も往復して、追い上げようと巧みに技巧を凝らす。鈴口をきつく吸い上げると、ペルシャバルに頭を押さえつけられた。

「いきますよ……ジーベルス」

 掠れた低音でそう告げられて、小さなうなずきを返した。途端に突き上げられて、その苦しさに涙が頬を伝った。

「………んっ、…んんっ!!」

 ひときわ深く突き入れられたとき、喉に熱いものが広がるのを感じて、口内に注がれた欲望を何度かに分けて飲み下し、やっと口唇を離した。一度達したにもかかわらず、ペルシャバルはまだ力を失ってはいない。

「いい子ですね……」

 見上げたペルシャバルと目があって、さすがに頬を染める。唾液と精液で汚れた口元を拭い、その指をジーベルスに咥えさせると、彼は瞳を閉じて甘んじてそれを受け入れた。
 満足そうに微笑んでペルシャはその指を引き抜くと、そのままジーベルスを抱え上げて、自分の下半身を跨ぐようにして机の上に膝で立たせた。
 今のジーベルスには最初の手慣れた妖艶さはなかったが、水気を含んだ瞳に涙さえ浮かべる様はひどく情欲を煽った。

「今度は、あなたの番です」

 そう微笑んで、薄く開いた唇を塞ぐ。貪るように口腔を犯しながら、下半身を覆う布に手のひらを差し入れる。幸い今日は女服。体に巻く布の下は直に肌だ。太股を撫で上げて下着に手をかける。この体勢では脱がせるのがやや困難なので、力任せに引き裂くことにした。
 布の破ける音にジーベルスが肩を竦ませる。その行為に鼻で笑い、口付けから解放すると、彼はくったりと身体を預けてきた。

「……ぁっ……!」

 双丘を割って侵入した指は容易にジーベルスの秘所を探り当てて、その蕾を軽くつつくとびくりと肩を揺らして小さな悲鳴を上げた。そこを潤す小道具は何もない。片手はそのまま蕾を弄り、もう一方の手ですでに堅くなったジーベルスを握り込んだ。

「…あ、……っやぁ……」

 まるで子供のように肩を震わせてペルシャバルの肩に置かれた指に力がこもる。その一挙一動にそそられて、熱心にジーベルスを弄ぶ。先端から先走りの密を引き出すのにそうそう時間はかからなかった。
 すくい取っては蕾に擦りつける。その行為を何度か繰り返すうちに、いつの間にか蕾はほぐれて、ペルシャバルの長い指を易々と受け入れるまでになった。

「ひぅっ……!」

 指の長さ限界まで埋め込んで思うさまかきまわすと、途端に悲鳴が漏れるが、それはむしろどちらかといえば嬌声に近かった。

「どういう心境の変化ですか?」

 耳を舐りながら聞く。

「あなたがこんなに情熱的でいやらしいなんて、ねえ?」

 二本に増やした指でしっかりとそこを犯しながら、わざと卑猥に問いただす。時折粘着質な音を響かせて。
 口唇は耳元を離れて首筋をつたい、片手で器用に片方の肩から上着をはだけさせた。徐々に下に下がってゆく口唇は、上気した肌に赤い痕跡を点々と残していく。

「私にとっては、嬉しい誤算です……」

 胸の突起に舌が触れたとき、ジーベルスがびくりと肩を揺らして、咥え込んだ指をきつく締め付ける。その素直な反応にくつくつと笑いながら、思う様舌で堅くしこった突起を嬲る。
 体内で蠢く指の愛撫は丹念で、我を忘れさせるには十分な働きをした。

「ん……、あっ……ぁ……ペル……シャぁっ」

 胸元を弄ばれての不自然な姿勢のために、力の入らない身体を預けることもできない。腰に添えられた手のひらの熱さにも快楽を感じて、神経が溶けそうになる。ふるえる膝の振動をうけてか、ジーベルスの先走りがぽたぽたとペルシャバルの腹に水滴を落とした。 限界が近い。
 屈んだ体勢から上目遣いにジーベルスを見上げると、かすかに震える両手でペルシャバルの顔を包み込む。熱に浮かされたような表情と、潤んだ瞳、薄く開いた唇から覗く赤い舌は、淫らとしか表現のしようがなかった。

「あれだけプライドの高いあなたの変わり様に……ぞくぞくしますよ」

 真紅の瞳を原始的な欲望に染めて低く告げる。その視線に何を感じ取ったか、ジーベルスの指が、左目を覆う眼帯に伸びた。

「!?…お止めなさいっ!!」

 本気で制止の声を上げるが、まるで聞こえなかったかのように眼帯を取り去ってしまった。そのまま二人の視線が交錯する。
 眼帯で隠す左目は邪眼。先祖から受け継いだ、あまりにも強烈な魔力の固まり。その色は真紅ではなく灰色で、黒い瞳孔は深淵の闇のように底がない。一介の人間なら、正視しただけで精神を狂わせる。防魔の眼帯で、少しでもその瘴気を体外に出さぬようにしていたため、いくら聖霊の前といえどもそれを取ったことはなかった。
 ジーベルスに変化はない。無垢な瞳で見つめ返し、その邪眼にキスを落とした。

「……ペルシャ……バル…」

 そして、先を急かすように名を呼んだ。
 その甘い声に、一瞬我を忘れかけて、快楽に蠢く蕾を押し広げて自身をあてがった。そして、そのまま一気に腰を引き寄せる。

「っ……、ああああぁっ!!」

 いきなりの刺激にあられもなく嬌声を上げる。
 いくら十分に慣らされていたとはいえ、手加減のない乱暴な挿入で身体が強張ってしまう。仕掛けた当のペルシャバルでさえ、熱くきつい締め付けに苦痛さえ感じた。

「……ぁ……はっ……」

 荒く、しかし甘い呼吸を繰り返しながら縋り付いてくるその様は、ペルシャバルの堅固な理性を揺るがせる。
 ジーベルスが落ち着く間もないまま、二、三度軽く突き上げると、明らかに艶を増した嬌声が室内に響いた。

「この部屋に、防音の魔法がかかっていて、助かりましたね」

 中に埋め込んだまま揺すると、まるで吸い付くようにペルシャバルに絡みつく。

「…ひぅっ……ん、……な…に……?」

「まさか、こんな声を外に聞かせるつもりですか?……ああ、でも、鍵はかけてないから、誰か来たら見られてしまいますね……」

 わざと大袈裟に告げると快楽に染まった水の瞳でにらみ返されたが、それも一瞬のことで、ペルシャバルの激しい突き上げに瞳が閉じられる。文句を言おうと開いた唇も、断続的な嬌声にとって変えられ、その締め付けはジーベルスの反応を嫌でもペルシャバルに快楽として伝えた。

「あっ、……あ……ペルシャっ……!」

 卷恋の思いに身を任せ、呼ばれるままに応え、見慣れた高見を目指す。
 縋り付くジーベルスの腕に力がこもり、力が抜けた。解放した余韻でビクつく蕾に、ペルシャバルも性を吐き出す。
 両者とも息は荒い。つなげた躰を一度離そうと身動きしたペルシャバルに、ジーベルスが拒否の返事を返す。

「……まだ…辛っ……」

 掠れた声で告げた本人を見て後悔した。中途半端にはだけた服から覗く、朱に染まった肩と足。
 忌々しげに舌打ちをして、ペルシャバルはジーベルスの腰を抱いたまま机から腰を上げ、今度は逆にジーベルスを仰向けに机に横たわらせた。

「ちょっ……おいっ!……ペルシャ!?」

 押しのけようと上げられた腕を右手でひとまとめにして、頭上で机に縫いつける。少しでも抵抗しようと身を動かすが、腕を拘束され中心に男を咥えたままでは、子供の使いに等しい。

「あなたが悪いんですよ……?」

 嗜虐的に笑った口元とは裏腹に、二色の瞳は凶悪なほど真剣だった。

「なんで俺のっ………やぁっ……!」

 苦情はいつのまにか熱を持ち返した男の動きによって中断させられた。手加減なしで乱暴に揺さぶっていく。

「ぁっ……あっ、…ぁ……んんっ……!!」

 余った左手は、胸元を辿り、鳩尾を通り、下腹部で彷徨う。先ほど放たれた性液をわざと音を立てるようになで回し、その手のひらを太股へと滑らす。そのまま太股を抱え込んで机に手をついた。より深くなった結合を確かめるように鈴口まで抜くと、一気に突き上げる。体内に一度放たれたものが、擦り上げられて卑猥な音を立てた。途端にあがるその声に瞳を細める。

「乱暴にされた方が……いいんですか?」

 容赦ない律動と言葉での攻めに、潤んだ瞳でにらみ返したが、「逆効果ですよ」と一蹴され、さらに激しく突き上げられた。否応なく反応を返してしまう自分の躰がひどく恨めしい。

「…ん……はっ……こ、の……サディ…ス…トっ……!」

 途切れがちの訴えにも堪えた風はなく、むしろ飄々と言ってのける。

「それはありがとう……それにしても、まだ余裕があるんですね」

 乱暴だろうと激しかろうと、ウンディーナにとってはさしたる問題ではない。真名を告げた伴侶にどう扱われようと快楽に切り替わってしまう。とても因果な生き物だ、とジーベルスは本心から思った。心と体は別でありたいと思うのだが、ペルシャバルになら何をされてもいいとほんの一瞬流されそうになった自分を、呆れるのを通り越して可愛くさえ思ってしまった。俺ってカワイソー、夢うつつな精神状態で本気で嘆きそうになる。

「………っや、……っ……んっ……ああっ……!」

 机のきしむ音がやけに耳につく。眼下にさらされた肌に口唇を寄せながらちらりと見上げると、ジーベルスは拘束された自らの腕に縋り付くように顔を背けていた。

「……ジーベルス」

 低く呻いて彼の唇を塞ぐ。下肢を犯すのと同じぐらいの激しさでその口腔を貪る。必然的に抱え上げた足をさらに開く格好になり、最奥まで楔を打ち込んだ。
 深いキスに何とか応えていたジーベルスだが、そんな余裕もなくなり、願うは解放されることだけになる。息継ぎの合間、懇願混じりに喘いだ。

「……も…、…限……か………」

 残滓で濡れたそこは貪欲に蠢きペルシャバルを圧迫する。

「…ジーベルス…っ」

 揺する動きに合わせるように軋んでいた机が一際大きな音を立て、ペルシャバルはジーベルスの中に三度目の性を注ぎ込んだ。

「…ペル……シャっ……あああぁっ!!」

 その熱さを体内に感じで、つられるようにジーベルスも自身を解放する。 
 過ぎやらぬ快楽に身を任せながら、両手首を解放し、繋がったままで耳元に囁いた。

「愛してますよ………」

*****


 その夜。情事の後の睦言とは遠いところで、ジーベルスは針仕事に勤しんでいた。昼間買ったレースが、見事なショールに仕上がっていく。

「ベットに針なんて落とさないでくださいね」

 器用に動く彼の指を眺めながらペルシャバルがつぶやく。

「俺様はそんなことしない。っつーか、誰のせいでこんな所で針仕事してるとおもってんだよ!?」

「昼間から誘ってきたのはあなたでしょう」

「ぐ。だからって…あれは」

「まあ、すまないとは思ってますけどね。あなたを抱いていると、十代に戻ったような気がするんですよ」

「嘘つけ!!まるっきりオヤジだったじゃねーか!」

 がばっと勢いよく振り向いてオヤジ発言をかましたジーベルスを、嗜虐的に見つめ返す。

「千年以上生きてるものは経験者と言いなさい。ですが、もしあなたが望むなら『オヤジ』というのがどんなものか、身をもって教えてあげますよ」

「エ、エンリョしときます……」

 眼光の鋭さに一抹の恐怖を感じて素直に謝る。

「それにしても、この目が怖くないんですか?」

 投げかけられた問いに、じっと見つめたまま答える。今も眼帯はつけてはいない。先ほどの熱さなどまるで無縁というような無垢な瞳に、理不尽にも苛立って思う。

「ウンディーナには免疫があるんだよ」

「免疫?どうして」

「さあ?初代のお陰じゃねえの?なんかその辺は記憶があやふやでよくわからんけど」

 得られる言葉もなく会話はそこで途切れた。ペルシャが立ち上がって、ベットの隙間に腰を下ろすと、一人用のそれはかすかな悲鳴を上げる。

「器用ですね」

 できあがりつつあるショールを見つめながら呟いた。ペルシャバルにとって、男の針仕事など初めて見たので、非常に奇妙に写る。

「俺たちの種族にできない主婦業はない」

「主婦業……」

 炊事洗濯などの家事から、育児、性交渉に至るまでの技術は、種族の共有する記憶のひとつにすぎない。

「それであんなこともできたんですね」

 暗に何をとは言わずに納得する。

「だっ誰が躊躇しなかったと思う!?」

 必要以上のオーバーリアクションで睨み返して、次の瞬間本心をさらけ出したことに気付いて赤面する。

「……………」

 何となく嫌な沈黙を最初に破ったのはペルシャバルだった。

「……以外と可愛いですね」

「可愛い言うな!!」

 明らかに照れた即答。



 砂漠の夜は今日も長い。


 


 

  

 

出会ってから1ヶ月弱のバカップル(笑)。
ペルシャこの当時1500歳弱。ジーベルス70〜90歳くらい。
「初代」というのは、最初の聖霊のことです。生まれ変わり……もっと複雑なんだけど…前のオリジナルのこと。
いや、彼らがコピーってわけじゃないけど。ちなみにペルシャは二代目。ジーは四代目。