***夕食***

***© 3a.m.AtomicBird/KISAICHI***

 

 店から出て、軽食を買ってこようと商店街に出た。その帰りに人通りの少ない裏道を通ったのがいけなかったのか、ジーベルスは路地裏でどこか素性の悪そうな三人の男に囲まれていた。

「最近酒場で謳ってる美女ってのはアンタだな?」
「…さぁね」

 薄汚れたターバンを背中に払いのけて、男の一人は近付いた。

「連れの男がいねぇようだし、今晩は俺達と遊ぼうぜ」
「なに、悪いようにゃさせねえよ」
「遠慮しとく。急いでるからどいてくれ」

 底冷えするような声で言うも、男の一人が背後に回ってジーベルスを羽交い締めにした。
 紙袋が落ちて、その中身がぐしゃりと音を立てた。

「俺のチェリーパイを……」

 小さく文句を言って、ジーベルスは男達を睨み付けた。

「威勢がいいねぇ、お嬢ちゃん。すぐそんな眼ぇ出来なくさせてやるさ」

 男の手がその服の隙間に伸びた瞬間、

「アルナルリデュカ」

 魔力の灯った声が響き、その路地裏の空気がざわりと振動した。

「何だ……?」

 訝しんだ男は、次の瞬間壁に叩き付けられていた。毛先が赤から黄色に染まっている、紫色の髪をした精悍な女性が、片手で男を放り投げた。
 動くたびに、その長い尾が揺れる。

「てめぇ、どっから来やがった!!」

 光り物を取りだした男が突進してくるが、嫌な音がして骨と共にナイフが砕け散った。

『お戻り下さい、マスター』
「うん。あとよろしく」
『また同じ事が有るかも知れません、護衛をお付けに』

 獣の耳を持ったその女性が、最後の男を地面に埋め込んだ。

「キャンシガスタ」

 ジーベルスが呼ぶと、するりとそれが実体化した。浅黒い肌に黒い髪。逞しい男だ。鱗の小手をはめている。

「アンリ、そいつら煮るなり食うなり捨てるなり好きにしていいよ。とりあえずこの街に戻れないようにしておいて」
『イエス、マスター』

 にこりと笑うと、アンリと呼ばれた獣人の女性は男達を抱えて跳躍した。そしてそのまま獅子の姿に変わって、風の早さで駆け抜ける。

「じゃ、キー、行こう」
『そちらは聖炎霊の元ではないかと……』
「俺の晩飯ぐちゃぐちゃなんだよ。悔しいけど買いに戻る」
『……御意に。しかし、炎王はご心配しましょう。隠しだても出来ないかと存じますが』
「…どうせ隠してたってすぐバレるんだから、帰ったらすぐ報告するよ。言わなかったらナニされるかわかったもんじゃねぇし」

 すこし崩れた洋服を直して、ジーベルスは元来た道を戻るのだった。
 その後ろにぴたりと付いたキャンシガスタは、主を護衛する任が解かれたら、アルナルリデュカの元へ行こうと決めていた。

 今日の晩ご飯は久しぶりに二本足が食べられそうだ。


ジーベルスは召喚士でもあります。アンリとキーはお気に入りの精霊です。ちなみに肉食。
話は逸れるが、ペルシャバルが私のキャラクターの中で一番性格が悪いと、身内ではもっぱら有名(笑)。

20031224