腕枕

sep krimo [ SS ]

「…………?」
  自然と目が覚めて、重たい瞼を何度か閉じて開く。
  暖かい。
  ぬくぬくと肌に触れる毛羽だった毛布に顔の半分を埋め、枕に顔をすり付けた。
「…?」
  枕にしては、堅い。それに、体温に似た暖かさがある。訝しんで指を這わせてみたら、それは布の感触ではなかった。
  弾力有る肌の感触。
  なんでそんな感触があるのか。暫し考えて、一気に覚醒した。
「なっ……!」
  がば、と上半身を起こすと、横たわるサイファーが目に入った。厚い胸板、広い肩幅から伸びる腕。眠る必要などないのか、彼はしっかりと覚醒してミストの紫玉の瞳を凝視していた。唇の端が上がっている。
  その腕を枕に寝ていたのか、認識した途端に、複雑な感情がミストを襲う。
  これが夫婦や恋人、それでなくても好意有る同士が肌を重ねた後の光景なら解る。だが、自分と彼の立場はそんなに甘い物ではない。愛情などまったく知らぬ彼だ。知るはずがない、のだ。
  場違いだと、有るわけがないと解ってはいても、誤解したい。
「あんた……、何やってるんですか……?」
  恐る恐るミストが尋ねると、サイファーは投げ出していた腕を引き戻して、漆黒の髪を掻き上げた。
「お前が退かないからな」
「わ……たし、が…?」
  狼狽えながら聞き返すと、サイファーは鼻で笑った。
「そんなことも気が付かないくらいイってたのかお前。俺に縋り付いたまま寝やがって」
「………」
  嘘でしょう。と、突っぱねることができなかった。あまりの疲労に意識を手放すように眠ったことは確信しているが、どうやって寝に入ったのかは覚えていない。
  眉根を寄せながら、頬に熱が集まるのをどうやって散らそうかと悩んだ。照れるのは、場違いだと解っている。
  この想いは、決してさとられてはいけない。絶対に、告げない。卑怯な、この男には決して。
「傍らに天使を侍らすのはいい気分だな」
「………翼が黒くても?」
「おまけにイイ声で啼く」
  くくく、と笑って。未だ混乱の色を残すミストを指で呼んだ。
「お前が欲しい言葉を言ってやろうか?」
  両手でミストの頬を優しく覆って、サイファーはゆっくりと唇を開いた。
「ア―――――」
  だが、最期まで言い切る前に、ミストがその唇を塞いでしまった。次の瞬間にはそれを離して、怒りとも悲しみともとれる表情でサイファーを睨み付ける。
「やめて…ください」
  ぎり、と奥歯を噛みしめて。
「貴方が何を言おうと、何をしようと構いませんが、その嘘だけは赦せません」
  どれだけ汚されようと、甘受してきたが、その口で最大級の嘘を付くことだけは赦せなかった。
  憎悪ともとれる視線を真っ向から受けながら、サイファーは漆黒の瞳を閉じた。そしてそのまま、震える唇を貪った。

  

許せない言葉。 何でしょう。図らずもラブラブっぽくなってしまった二人を書こうとしていたら、何となく最期がシリアスになってら…。これ本編に被るんじゃ、とか脅えながら計画性のなさを知る。 ノイズフェラーが言おうとした言葉は、「あ」で始まって「る」で終わる5文字の言葉。
2004/05/03

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