襲撃

sep krimo [ SS ]

 ドアから出た直後のことだった。
  サブマシンガンかなにかで乱射される弾丸に、扉のガラスが吹き飛んだのを知る。ミストとサイファーは車の影に身体を滑り込ませた。標的を追って銃弾の軌跡がついてくる。あっという間に蜂の巣になっただろう車によしかかりながら、サイファーは葉巻を銜えて火を付けた。
「高かったんだぞこの外車」
「何呑気に言ってるんですか貴方は!」
  マフィアのメッカと呼ばれるこの地域でも中立地帯となっているギャロット区の、とあるビルから出てきたところでの襲撃だ。基本的に自己責任。この地区で起こった事について損害賠償は出ない。
「金の心配なんてどうでもいいですよ。それより、どうして私まで狙われなきゃいけないんですか…」
「俺の『女』だからじゃねぇ?」
「その呼称は却下します」
  アンタが必要以上に敵を作りすぎるんですよ、と怒鳴りつけたくなった。いつもとばっちりを食うのは自分なのだ。
  うんざりと天を見上げた。馬鹿馬鹿しくなるくらいに良い天気だった。
「女だろうが奴隷だろうがどっちも変わらん。俺の僕としてどうにかしてこいアイツらを」
  サングラスの向こうで光る鋭い瞳が、ミストを射抜いた。『命令』されては、従わないわけにはいかないだろう。
  腰のホルスターから二丁の拳銃を素早く引き抜いた。セイフティロックを解除し、ガシャガシャと器用に銃身を引いて、ハンマーを起こす。二丁拳銃を覚えたのはいつ頃だったか、舞うように戦うのが得意だった。
「踊らせろ、アルヴィティエル」
「ワルツって雰囲気じゃなさそうですね」
  軽口を叩いて車から躍り出た。目の前にあった壁を蹴り上げて昇り、空に身を投げ出す。敵の数は5人。近くにいることなどその気配で知っていた。
  空中から、二丁の銃が火を噴いた。銀髪が風に舞い、立て続けに薬莢が飛んだ。車のドアを打ち抜いてエンジンに当てる事も可能な、大口径のハンドガンだ。女のような細腕で軽々と扱うその姿は、驚異的だが優雅である。
  サブマシンガンからの乱射が一時的に収まった隙に着地し、そのまま駆け出す。5人の内三人は地に伏していた。後二人、建物の影にいる。
  路上駐車の屋根を跳ねるように飛び越えて、隠れた一人のこめかみにグリップの底を叩き付ける。
  残りは一人だ。
  気配を辿って振り返れば、車に乗って逃げるところだった。
  右手を挙げて狙いを定めたその時、一際大きな銃声が響いた。
  車に乗り込もうとしていた男が痙攣し、血と肉片をまき散らしながらゆっくりと崩れ落ちていく。一体誰の加勢かと振り返れば、3s弱は在ろうかというショットガンを拳銃のように片手で扱うサイファーが立っていた。

 ―――そんなもの何処に隠し持ってたんですか!

 ホルスターに銃を仕舞いながらミストは内心で突っ込んだ。フルボディが金属製のそれは、硬派なイメージと相まってサイファーに不思議と似合ってはいたのだが。
「保険効くかな。限定品なんだよあの車」
  銃身を肩たたき代わりにして、サイファーはうんざりと肩を落としたミストに返事を求めた。
  当然、返事は返ってこなかった。

  

サイファーの武器は現代ならモスバーグM500のクルーザーあたりだと個人的に萌え。
そして、ショットガンの有効射程は10m前後だけど、SFということで見なかったことに。
2004/09/27

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