レイニーレポート

Starved-Mortal "SS"

その1

 私はレイン・ニュウ。通称レイニー。自分で言うのもなんだが、メイドの女王だと思っている。メイドとして生きていくために人間を止めたくらいだから、筋金入りのメイド好きに違いない。メイドとして働き、メイドとして生きることに歓びを感じている。
  今のお仕事先は、驚いたことに私達魔物の王が座する城だ。部屋の数を数えただけで、今まで居た爵位持ちの魔物の屋敷から比べて、心臓が破裂しそうになった。まあ、心臓は動いていないけど。
  この城の主は、全ての魔物を統べる王、ニュクス唯一の魔族である吸血王様。御名前は恐ろしくて呼べない。闇色の御髪と、血色の瞳。大凡どんな人間にも有り得ない美貌を持った、白皙の美男子。王様が美形ってのは、メイドにとっていいことだ。それだけでやる気が出るってもんよ。
  城には私の様なメイドが何人か居る。広さのわりに人数は少ないけれど、立ち入り禁止区画の方が多いから少人数でも問題ない。私には残念だけれど、主要区画は形状保持の魔術がかけられているらしくて、掃除しなくても元に戻ってしまうの。まあ、銀食器なんかは磨かせてくれるからいいけど。
  高位の魔物になれば、衣類の汚れまで自分で消し去ってしまうからつまらない。スーツの手入れをさせてくれる魔物は、私にとっていいお客だわ。
  そうそう、この間から王に愛人が出来たらしいの。上層区画は立ち入りが禁止されているんだけれど、公爵様直々にリネンの洗濯を頼まれたり、衣類のアイロンがけも頼まれたわ。これは絶対、人間が来たに違いない。
  確信したのは、メフィスト様と一緒にお料理の下ごしらえをした時ね。吸血鬼は人間と同じ食事はしないもの。その場で追求できるほど私の位は高くないから、どんな人間が来たのかこっそり調査を始めたわ。
  気配を感じてから暫く出てこなかったのだけれど、少ししてから城の中層へちょくちょく降りて来始めた。
  黙って立っている姿は、どこかの王子様みたいだった。ほら、子供の頃に絵本で読んだお姫様じゃなくても恋に落ちそうな綺麗な王子様。あれよ。ちなみに我が王も王子様っぽいけれど、なんていうか、あれは怖くて無理ね。触った瞬間氷漬けにされそうな畏怖を感じる。だから近寄りたくないんだけど、この人間は違ったわ。
  運良く自己紹介なんかする機会があって、洗い物でも掃除でもなんでも言ってくださいって言ったら、召使いが何人も居そうな外見なのに、ものすごく恐縮してたわ。好きでやってるから仕事を取られたら困るんですよとお願いしたら、苦笑しながらありがとうって。
  可愛いわ、あの子。
  オレンジ色の髪に、灰色の瞳。細い首と腰と、バランスの取れた長身。細いのに綺麗。女の美人はいくらでも居るけれど、男の美人はそんなに居ない。私はこの世界に来て、こんなに綺麗な男を見たのは初めて。
  メイドの何が良いって、綺麗な物を沢山見られることだわ。
  ああ、そうだ。私の王子様は王の愛人で、勿論床を共にしているようだけれど、王がご自分の部屋に閉じこめてしまうので覗き見ができないのが不満だわ。
  早く私達メイドの活動区画に降りて来てくれないかしら。あんな綺麗な男が、どんな風に可愛がられているのか知りたいじゃない。しかも王が直々にお相手しているんだもの。素知らぬ顔でうっかり部屋に入って羞恥プレイの一環に手を貸したりなんか、喜んでするわね。その後でわざわざ王子様とすれ違って、気にしないでくださいね、とか可愛らしく言ってあげるってもんよ。
  だから早く、中層部の部屋をお試しに来てくださいね、吸血王様。

  

2009/07/21 適時追加

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