寝言

Starved-Mortal""short story

 風邪を引きました。

 壁が押し迫ってくるような息苦しさに連動するような呼吸の荒さと、熱の所為で潤む視界。節々が熱を持ったみたいで、布が触れただけで刺激になる。
 ただひたすら寒くて、それなのに熱い。
 あまりの苦しさに、死んでしまうのではないか、と。
 心細くて、辛くて、泣きそうなりながらぐるぐると回る思考の海に沈んで、ぷつりと意識が溶けた。
 次に目を開けると、そこには心配そうに眉を寄せたメリアドラスがいた。
「…気が付いたか」
「……………あ……れ……?」
「昨日頭痛がすると言っていただろう。あれから熱が出たんだ。覚えているか?」
 俺が目覚めたことに安心したのか、ひどく優しい声音で聞いてくる。
「風邪、だったん…だ……あの…頭痛……」
 喉が渇いて上手くしゃべれない。俺のその様子をすぐに察知して、メリアドラスは水差しから甘い匂いのする液体をグラスについだ。
「ウィラメットが煎じて、メフィストが煎れたハーブティだ。起きられそうか?」
 頷いて起きあがろうとしたが、思いのほか時間がかかる。小さく呻いてそれでもがんばったが上手くいかなかった。
 そのままでいいと身振りで示し、メリアドラスの温かい手が頭を撫でる。ぼんやり眺めていると、グラスの中身を含んだままキスをされた。
「……んっ……」
 ディープキスの要領で流し込まれたそれを、俺は大人しく受け入れた。抵抗しようとさえ思わなかったし、それよりも水分補給の方が必要だった。
 適度に冷たいハーブティが灼けた喉を滑り落ちてゆく。
「う…つる…よ」
 喉が潤っても潤沢にならない舌の所為で、子供のような口調になってしまう。
「私のことより自分の心配をした方がいい。第一、吸血鬼が風邪を引くことはない、安心しろ」
「…そ…か…」
「ジョウサイアス伯が診察していったが、大人しく寝ていれば大丈夫だ」
「…ん」
「もう少し眠れ」
 何度も優しく撫でる手のひらが、安心と睡魔を呼び寄せる。
「そ…こ、に」
「ずっといる。お前が次に目覚めるまでずっとだ」
 よかった。
 目を閉じると、さっきより呼吸が楽だった。夢も見ずに眠れそうだな、と眠りに落ちるときに、メリアドラスの声を聞いた気がしたが、言葉の内容を理解する前に意識が途切れた。

「お前を人間ではない物にしてしまいたくなるな……」

 

***

 

 べたつく身体と反比例する体内の乾きで目が覚めた。
 一体どれくらい眠っていたのか。
「腹減った……」
「起き抜けにそれなら大丈夫だな」
 大きな乾いた手が、俺の手を握りしめた。
「シャワー浴びたい」
 大きく息を吸って吐き出した。
「それではまたぶり返さないか?」
「もう平気。熱出たから汗かいたんだよ。身体べたべたする。湯冷めする前に寝るから」
「私が入れてやろうか?」
 いたわりある口調で問われたが、メリアドラスの深紅の瞳には下心があるようで。
「………………………………やだ」
 思い切り断る。するとメリアドラスは、あからさまに、がっくりと肩を落とした。わ、わかりやすい。
「眠っていたときはあれだけ可愛かったのに、つれないものだな」
「はぁ!?」
 がばっ、と起きあがって俺はメリアドラスに詰め寄った。
「随分と、健気な子供時代を送ったようだな。それを占領したソレイモルンが恨めしい」
「な……な、何聞いたー!!」
「虐められて泣いた過去があるのか」
「!!」
 い、一体何時の話だ!!
「ああ、安心しろ。可愛い娘を育てよう」
「はぁ!??」
 盛大に顔をしかめて、俺は唖然とメリアドラスを見返した。
「その前に子作りに励まねばならんな」
 かなり真剣に考え込んだ吸血王にむけて、俺は枕を力一杯投げつけた。

  

どうゆう寝言を言ったんでしょうね。この話、普通にSSにしようと書いてたんですが、話が進まなくなったのでギャグで落としてみたです。うまく落ちてない感じが没作品(笑)。
2003/09/27

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