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Starved-Mortal""short story

「めりあどらすぅぅぅ〜〜〜〜」
 メフィストが聞けば、きっと鳥肌を立てそうな猫なで声。
 声の主はカグリエルマ。
「……………………………何だ」
 返答を返したメリアドラスは、しかし眼だけは笑っていない。
「そろそろ俺の剣返せよ」
 滅多に見せない極上の笑顔で。
「何故だ」
「エモノも無しにこの国歩くのは心許ないから」
「私がいるだろう」
「う。そうだけど。お前は俺の道具じゃないだろ。それに、普段から剣と弓矢常備してたのに、持ってないと違和感感じるんだよ」
 この国に来てから取り上げてしまった剣は、実は城の武器庫に転がしてあった。退魔用のそれであるため、下級の魔物には威嚇的だから。
「あまり名の知れた銘ではないだろう、あれは。私の方がよほど役に立つ」
「……傍にいるだけで印籠だよお前は」
 ぼそりと吐いたその暴言。だがしかし、事実なだけに吸血王は文句を言わなかった。
「護衛のためだろうと、恰好のためだろうと、あの剣ではあまり役に立たないと思うが」
「嫌なこと言うなお前。そりゃ、量産品だけどさ。丸腰よりいいと思うけどな…」
 ずばり言い当てられて、語尾が段々小さくなる。
 カグリエルマの主要武器は弓と矢。接近戦にもつれる前に勝負をつけていた。高等な魔物を相手にするには、どんな武器でも無理だったが、人間が倒せる魔物には十分有効だった。
 この国で最強である吸血王の加護下にいるので、ニュクスにいる分には攻撃されることなど決してないが、自分の故国に帰ったときそうだとは言い切れない。
「アグライアで買って持ってきても、取り上げるのか?」
「ごく普通の剣であれば文句は言わんが…何故そこまで拘る?」
 メリアドラスのごく真っ当な質問に、カグリエルマは何を今更と言った風に。
「体裁みたいなもんだよ。悪く言えば虚勢かな。剣の一つも使えないような奴に見られると、ハンター仲間ではまず最下位扱いだ。別に俺が虚勢張ってたわけじゃないけどな。あのソロモンとギルドマスターが師匠みたいなものだから」
「では、この国で持たなくてもいいのか?」
「そうかも知れないけど、持ってないと感覚忘れそうでさ。お前も何で俺に武器持たせたくないわけよ」
 何故、と聞かれて、吸血王は明確な答えを持ち合わせていなかった。庇護、保護の対象だからとは、口が裂けても言えない。
 黙ってしまったメリアドラスを見て、旗色が悪くなったと思ったカグリエルマは、再度猫なで声を出した。
「なぁなぁなぁ」
 思い切り甘える。頭の先からつま先まで、絶対に信頼した者にしか見せない仕草で。
 そして、少しだけ伸び上がって、頬に口付けた。
「駄目か?」
 その艶めいた瞳で尋ねられて、否と言えようか。

 その日、カグリエルマに与えられた剣は、銘ある剣でも鋼でもないが、武器よりも強大な絆に勝る鎖。
 射手の名手、魔人レラジエ。

  

メリアドラス…。キス一つで魔人を貸すな。首輪みたいな物だけどさ。
カグラの相性を考えたら、ビフロンズよりレラジエの方がいいかな、と吸血王も色々考えている。
2003/10/12

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