目が覚めた。
起きあがる前にあくびを一つして、そのまま腕を伸ばして伸びをする。
上半身を起こして、何か着る物がないかと辺りを見回した。すぐ側にある物はメリアドラスのシャツだけだった。
俺の服一式は一体どこにいったんだ。
考えても、その場に出てくるはずもなく。カウチにはメリアドラスのスーツの上着が掛けてあるが、ズボンは見あたらない。どうやら当人がはいているらしい。
「……腹減ったな」
まだ半分覚醒しきれていない頭で呟いて、まっさらなシャツを羽織る。
腕の長さが幾分余るのが気にくわない。
どうせ着替えるために脱ぐのだから、ボタンは適当に留めた。手櫛で髪を梳いて、ゆるく橙色の髪を三編む。
なんとなく怠い腰を気にしつつ立ち上がって。とりあえず服を探さなくてはと、室内をうろついた。
この部屋の主は一体どこに行ったのだろう。
この城に唯一ある鏡(カグリエルマが持ってきた)の前を通りかかって、自分の姿をちらりと見た。ボタンの留められてない胸元に、幾つか鬱血の跡が残っている。
「あの野郎…」
短く悪態を付いても、本人がいないのでただ部屋に響いただけだった。
胸元だけではなく、跡は首筋にもあった。それに交じるように二つの歯形が付いている。実に久しぶりに、血を吸われた。
吸血の跡は、その傷口が甘く響く。触れるたびに甘く疼くのが、どうも慣れなかった。
足下が涼しい。
ズボンもはかずに歩き回ることなど滅多にないから、どことなく心許ない。シャツは太股の半ばまで隠してくれるから、下半身をさらけ出していないだけマシだが。本当に服は何処に行った。
自分の部屋に取りに行くにしても、この恰好で城内をうろつくわけにはいかないだろう。
眉間にしわを寄せながら、裸足で絨毯を踏んでいると、かちゃりと食器が擦れる音が聞こえた。
「……メリー?」
「なんだ、早いな…」
片手に朝食を、もう片手には洋服を持った吸血王は、寝室に入ってカグリエルマの恰好を見た途端動きを止めた。
「メリアドラス?」
首を傾げて問う。
「………狙っているのか、お前は」
「は?」
「わざとなのか?私を試しているのだったら、私が忍耐強くないことを証明するだけに終わるぞ」
「何言ってんだよお前」
朝食の乗った銀トレイをテーブルに、洋服をカウチの上に置いて、メリアドラスは長い指で己の顎を軽くつまんで、カグリエルマをつま先からてっぺんまでまじまじと見つめた。
カグリエルマはいまいちピンと来ないのか、訝しげに見つめ返した。
自分を抱いた男のシャツを、緩く羽織るように着て。はだけた胸元が視床下部に強烈な色香を漂わす。白いシャツから伸びる足。素肌の上にはそれだけしか身につけていない。
メリアドラスが昨晩食い荒らした成果がそこにある。
「男の浪漫だ」
「ああ!?」
ある意味、全裸より凶悪に色っぽい。
「随分新手の誘い方だな」
「何訳わかんねぇこと言ってんだ!つうか、こっち来るな!!」
身の危険を感じたカグリエルマは、じりじりと近付いてくるメリアドラスから後ずさった。
朝食は、きっと冷めても旨いはず。
裸Yシャツは萌え(笑)。できれば男のではなく女のが見たいですね。開いた胸元から見える谷間とか谷間とか谷間とか!
吸血鬼にもこの浪漫が解るのかどうか別として、メリアドラスの琴線を掻き鳴らしたらしい(笑)。
2003/12/12