悪趣味

Starved-Mortal""short story

 一瞬強張った身体から力を抜いて、カグリエルマは浅い呼吸を繰り返した。忘我に委ねるままに、相手の背に回した腕がぱたりと落ちた。
「はッ…、…ぁ…」
 今まで散々内壁を蹂躙していた物が抜かれて、無意識の声とともに首が反らされる。
 メリアドラスは音もなく笑い、汗で張り付いた髪を耳にかけた。露わになった首に口付け、ちゅ、と舐め上げる。
「…っ…ん」
 達したばかりで敏感な肌への刺激で、肩を竦めた。抵抗する気力はまだない。それでようやく瞳を開けた。灰銀の瞳が揺れている。
「……正気か?」
 焦点の合わない、放心したようなその瞳を見て、メリアドラスが苦笑を浮かべる。少々度を超しすぎたか、と。
 スーツのパンツを履くついでに、小卓の水差しに口を付けた。その水差しは温くなることを知らぬもので、中の水は変わらぬ冷たさを残している。
 喉を潤してから、そのままカグリエルマの顎を捉えた。深い口付けも兼ねて、冷水を流し込んでやる。零さないで飲み込んだことを確かめて、また閉じられた目許にキスをした。
「風呂…はいりて…ぇ…」
 掠れてはいるが、どこか甘い声で。カグリエルマは漸く正気に戻ったらしかった。
「一緒に入るか?」
「……こんだけ好き勝手しといて、どの口が言うんだよ」
 身体を覆うためにシーツを手繰り寄せながら悪態を付いた。何を言われようと睦言にしか聞こえない状況だと思い、メリアドラスはカグリエルマの指を取って自らの唇に当てる。
 指先をぺろりと舐めて、
「この口だが…?」
 低音で囁いた。壮絶な男の色香を滲ませた紅玉の瞳がカグリエルマを黙らせてしまった。
 抱き合った後は、何処か逆らいがたい。馬鹿になるような甘い時間を共有していることが、恥ずかしくもあるのだが勿体なくも感じる。
 気怠い身体のまま眠ってしまえたらいいのに…。快楽を追いすぎた身体は休息を求めている。だがしかし、あまり上品ではない物に汚れてしまったのを放っておくのは嫌だった。
 長嘆をひとつ。のそのそと身体を動かして起き上がろうとした。
「辛くないか」
「まあ、そこそこね」
 軽口で答えてやれば、メリアドラスは何を思ったかカグリエルマを羽交い締めにした。シーツごと抱き込んでしまう。
「いやあの、動けないんだけどさ」
「私が、してやろうと思ってな」
 くつくつと喉で笑いながら。カグリエルマが何か反論しようとする前に、その膝を立てさせて器用な指を足の間に這わせた。
「っ…おい!何考えて…!」
 腕を押さえ、焦りを見せるカグリエルマが振り返った。閉じようとする膝を許さず、メリアドラスは素早く双丘を割って指を滑り込ませる。散々嬲られたそこは未だ柔らかかった。
「…ぅ…んッ…」
 遠慮なく飲み込まされた物に、きつく瞳を閉じる。メリアドラスの放った物で随分と潤っていて、苦痛は一つも感じなかった。その代わり耐え難い快楽が苛む。余韻を引きずった身体の奥でその反応を楽しみながら、、メリアドラスは器用に二本目を埋め込んだ。
「お前が自分で処理しているのかと考えたら、なかなかに倒錯的でそそられるのだが。たまには私がするのもいいだろう…?」
「そ…なの、しなくて…いいっ!」
 ゆっくりと掻き出すように何度も指を出入りさせて、内壁をなぞるようにして動いている。官能を呼び出そうとしている動きとは幾分異なるが、それでも感じない筈はなくて。
「…っ…、……」
 歯を食いしばって必死に耐えた。作業だと、思え。
 息を乱しながらも賢明に無視を決め込んだカグリエルマの耳にじゃれついて、メリアドラスはにやりと笑った。
 とろとろと指を伝うのは、行き過ぎた行為の名残である。健気にも零さず飲み込ませた物を、見せつけるように指に絡めて。最中のような粘着質の音をさせながら、ぐ、と指を奥に潜り込ませて、こり、とその部分をひっかいた。
「ひぁッ…や…っ!」
 ひくりと身体が揺れて、二本の指を締め付けた。当然と言えば当然の反応だが、メリアドラスはほくそ笑まずにはいられなかった。
「締めるな。それでは意味がない」
 舌で舐りながら耳に唇を付けて囁いた言葉に、カグリエルマが震えた。
 緩急を付けて内壁を擦り熱く熟れた肉を愛撫する。
「メリィ…やだ、…ヤっ……ぁ…!」
「力を抜け。…もう少し奥に残っているだろう…?」
 身体に回していた腕に必死にしがみついて、カグリエルマは首を横に振った。縋り付いてくるような仕草が気に入り、耐えようと食いしばる唇を指でなぞった。内部でうごめくそれを合わせるようにして歯列を割って舌を捉える。
「…ふ…っ…」
 上下への指の刺激に加え、執拗に首筋と耳を舐られて。困惑するカグリエルマを余所に、メリアドラスは大変満足していた。
 最初の意図からはぐるりとかけ離れ、既に愛撫を施すことに変えられた指が意地悪く快楽を引出している。
 口腔内を存分に嬲った指は唇をなぞり、濡れたまま肌を彷徨って胸元でその突起をつまみ上げた。
「っ…あ、…!」
 収縮を繰り返す内部を十分に楽しみながら、メリアドラスは残酷にも囁いた。

「さて、どうしようか…?」

  

メリアドラスはデフォルトで変態です(それもどうかと)
2004/09/27

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