眼鏡

Starved-Mortal""short story

「アッ…、っ…んぅ…!」
 ぐ、と突き上げられて、抑えきれない声が漏れた。
 忙しない息継ぎの合間に飲み込めない唾液が、口に這わされた指を伝っていく様が酷く卑猥だった。声を抑えようにも、指を噛んでしまいそうでそれもできない。
「……?」
 は、は、と息を吐いて、カグリエルマはうっすらと瞳を開けた。後ろから容赦なく突き上げていたメリアドラスが、ピタリとその動きを止めていた。先を急かすようで気恥ずかしいのだが、どくどくと体奥で燻る熱を処理仕切れなくて、振り返って見てしまう。
 深紅の瞳を情欲に濡らしたまま、メリアドラスはうっすらとひらいた唇を舐めた。それが堪らなくイヤらしくてそそられる。
 二人とも衣服は殆どそのままの状態で絡み合っていた。ほどかれた髪を掻き上げ、首筋からこめかみに指を這わされる。
 何も言わず黙ったままの熱を銜え込んだ後孔がひくりと疼く様子がやけにリアルで、カグリエルマの灰銀色をした瞳が涙に潤む。
 カタ。
 涙を見られるのが嫌で伏せようとした顔から普段聞き慣れない音を耳が捉えた。それは、激しい律動ですっかりズレ落ちてしまった眼鏡だ。久々に帰ってきた故郷で、変装より軽い気持ちでかけた伊達眼鏡。この顔は些か派手なので、せめて特徴を変えてしまおうという策の筈だったのだが、眼鏡で横に立てばメリアドラスに押し倒されて今に至る。
「は……ふ」
 中途半端に投げ出された熱に気が狂いそうだった。
 メリアドラスの指は耳を擽り、吐き出された吐息の合間にカグリエルマの眼鏡を奪い去った。
 度が入っているわけではないから本来必要ないのだが、一体何をするのかと振り返って息をのんだ。おまけのようにきつく締め付けてしまい、耳まで赤くなる。
 にやりと愉悦に歪んだメリアドラスの、この楽しそうな顔。驚いたのは、彼が奪った眼鏡をしていたからだ。
 いつもは鋭く光る瞳の周りを飾る細いフレーム。理知的に見えるその姿と、今の状況の差があまりにかけ離れていて。倒錯的でたまならい。眼鏡たった一つでメリアドラスがストイックに見えてしまった。色事など何も知らぬという、そんな風に見えてしまうのが不思議でしょうがない。お互いの触れ合った部分はこんなに熱いと言うのに。
 カグリエルマはじっとメリアドラスを見つめたまま、こくりと喉を鳴らした。
「ぁ、ヤ……何…!」
 足下に蟠っていたズボンから足を引き抜かれて、片方だけ抱えられる。体位が変わって、内部を擦る箇所も微妙な位置にずれる。
 やっぱり眼鏡を掛けたメリアドラスが何処か違って見えて、潤みきった瞳をピタリと合わせた途端、
「んッ―――あ、…ゃ…アっ、あ…!」
 先端まで引き抜かれて、同じくらいの強引さで打ち込まれた。それでも不満を述べよとは思わない。揺さぶられる視界で眼鏡を睨み付けながら、もっと、と思う。抑えることの出来ない声の代わりに、体を支えるように着いた腕に爪を立てた。

 ちょっとした小道具で変貌したメリアドラスの気持ちが、迂闊にも理解できてしまったそんなある晩。

  

一言フォームのお答えより。萌小道具。
2005/8/8

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