Do whatever you want.

Starved-Mortal""short story

「…ン」
 ぎし。
 ベッドが軋む音にカグリエルマは目を覚ました。日は沈んだのに、まだどこか明るく感じる夕方の終わり頃。
 寝起きの気怠い表情のまま首を巡らせば、足下から黒い人影が覆い被さろうとしている所だった。
「メリアドラス…?」
「おはよう」
「…ん。…はよ」
 シーツからはみ出した素足をなぞり上げられ、カグリエルマは息を詰めた。
 メリアドラスは獲物を前にした獣のような目をして、薄く笑みを浮かべている。緩慢な動作であるのだが、はっきりとした欲を隠しもしない。
「…?」
 覚醒直後の緩慢な思考に食い込んでくるわずかな恐怖。暗い深紅の瞳で見上げられて、背筋がぞくぞくとした。
 シーツを剥ぐこともせず、適当にしか留めていない釦をぽつりぽつりと外していくメリアドラスを見つめながら、漸く気がついた。
 セックスの誘いではない。似ているし、そのままなだれ込む可能性も十分あるが、取り敢えず今メリアドラスが何を望んでいるのか解った。
「喰いたい…?」
「そうだ」
 さらけ出した胸元に鼻を擦り付けてくる姿が大型犬のようだった。そのまま唇で肌を擽り、時々甘噛みをしながら首筋に辿り着いた。やらしい犬だ。
 こういう時のメリアドラスは決まって機嫌が良い。
 合意で血液を奪う時、彼らは獲物から差し出すよう仕組む。漂う雰囲気にすら快楽を混ぜ、時に甘え、強請り、誘う。力と魔力で従えさせられるくせに、わざわざそんな手間を掛ける。
 このまま流されてしまうのかとぼんやり考えていたカグリエルマは、ふいにメリアドラスを困らせてみたくなった。首筋に顔を埋めるメリアドラスの肩を押して身体を放せば、黒髪の隙間から訝しげな瞳が覗いていた。
「おあずけ」
「…な」
 そんなことを言われるなど全く予想していなかったメリアドラスは、ぽかんとしたまま固まった。
 滅多に見られないその表情にカグリエルマは満足だった。小さく声を立てて笑えば、メリアドラスが嫌そうに拗ねる。それすらも楽しくて仕方ないが、深紅の瞳に一瞬だけ灯った残虐性を見つけてからかうのは止めることにした。
 自ら無防備に首筋を晒し、愉悦を含んだ笑みを浮かべて誘ってやる。
「...Don't you wanna taste me? But,don't make me feel too good.Honey.」
「…難しいな」
 最近仕入れた知識での誘い文句にメリアドラスは苦笑して返す。血管の上をなぞる様に舐めて唇を開いた。カグリエルマはただ喉で笑い続ける。
「…ッ…」
 鋭い犬歯を皮膚に突き立てられ、カグリエルマが息を飲んだ。
 吸い上げるような音と喉を鳴らす音が聞こえる。
 吸血には痛みなど無くて、身を焦がすような快絶だけが指先まで駆けめぐった。己が喰われているというのに、どうしてこれほど悦びを感じるのだろう。メリアドラスに触れられている部分が熱くておかしくなりそうだ。
「あ…ァ、ん…っ…」
 本能的な畏怖に揺さぶられながら、それを上回る快楽に息を乱し、無抵抗で喘ぐ姿を見るのはメリアドラスにとって堪らない瞬間だった。シーツを握りしめ、膝を立てて擦り寄ってくる。
 余り長い時間行うとカグリエルマの生死に関わるから、喉が潤い空腹が満たされれば直ぐに唇を離した。溢れ出す血液を止めるため、傷口をぺろりと舐め取る。獲物に死なれては困るから、止血を促すような作用を唾液に含ませて。
「大丈夫か」
 愉悦に揺れる灰銀の瞳を潤ませて喘いでいたカグリエルマの顔を覗き込めば、落ち着いたのかゆっくりと瞼を閉じた。乾いた唇を舐める仕草が卑猥だ。
「…イき、そ」
「………」
 ただでさえ悩ましげな恰好をしているというのに、血臭の中煽るような言葉を呟くのは確信犯なのか天然なのか。どちらにせよ、イかせてやる事は吝かではない。メリアドラスは満たされた空腹に代わって顔を出した性欲に唇を舐めた。
 思考がまとまらないカグリエルマはメリアドラスがシーツを剥がしている事まで気がまわらなかった。確かな意図を持って触れてくる指先を肌に感じて、ああやっぱり、と息を吐く。
「嫌か?」
 人の胸元を舐めながら見上げてくるのは狡い。カグリエルマはメリアドラスの黒髪を引っ張って枕に頭を埋めた。
「…好きなようにして」

  

俺のこと食べたくない?でもあんま感じさせんなよ。(訳)
2006/5/7

copyright(C)2003-2008 3a.m.AtomicBird/KISAICHI All Rights Reserved.