青く鈍く光る、その剣の切っ先が皮膚を裂いた。
夜闇にも鮮やかに煌めく金色の瞳が驚愕に見開かれる。
爬虫類のようなその瞳孔に、剣士は虚を突かれた。そしてそのまま逃げ出した。薄暗いその姿は容易に影に溶け、すぐに見えなくなる。
斬りつけられた男は、首の動きだけで前髪を払って、鮮血滴る頬に指を這わせた。
自らの血をぺろりと舐めて、その黄金の瞳に喜色が浮かんだ。
***
それから、約半年後―――――
青年は追われていた。
神聖ミネディエンスの首都、巨大漁港でもあるミネディア。
追跡者の姿は見えないが、確かに、迷わずに追ってくる。
青年は割と小柄だった。体力の限界がすぐそこに見えていた。跳躍力や、素早さを魔術で上げて、その姿でさえ朧気にしているというのに、逃げ切ることが出来ない。
半ば泣きそうになりながらも、追跡される恐怖と戦っていた。
いつもとは逆なのだ。あまり表には立てない仕事だが、青年は暗殺を仕事にしている。ここ、ミネディアに本部のある四聖騎士団が、秘密裏に動かしている暗殺部隊。反乱分子や異端分子、その他貴族制の敵になるような輩を排除するのが仕事である。
青年は、純粋なミネディエンス人でもなければ、戸籍も持っていなかった。しかし、他の人間が持っていないような能力を備えている。
一般に補助系統と分類される魔術。透視・盗聴などの隠密と、飛行魔術、姿と気配を消す防視、その他諸々の補助魔術に類い希な能力を発揮した。
その青年の能力を持ってしても、追跡者からは逃げることができない。
むしろ、追跡されたことすら無いのだ。逃げ方の勝手が分からなかった。
だが、持てる力を持ってがむしゃらに逃げた。
あまりに夢中だったため、追跡者の気配が一瞬途切れたことを感知できなかった。
目の前に人がいると気付いて、とっさに全ての魔術を打ち消す。それでも運動速度は止まらずに、その人物と一緒に地面に倒れ込む。
一般人かと思い、謝ろうとしたのだが、体力の消耗があまりに激しくて、息付く暇さえなかった。
「手間ぁかけさせんなよ」
鷹揚な言葉と共に、その人物は青年の腕をしっかりと掴んだ。
「………っ!!」
青年の青磁色の瞳が恐怖に見開かれた。
「探したぜ、お前を」
がっしりと腕を掴む人物は、爬虫類のような瞳孔を持った、あの忘れることの出来ない黄金色をした瞳の男だった。それに加えてたてがみのような金髪が風になびいている。
「忘れたとは言わせねぇよ、この傷」
肉食獣のような笑みを浮かべ、右の頬を指でなぞる。そこには、頬を横切るような一条の切り傷が残されていた。
「あ…………!!」
瞬時に半年前のことを思い出した青年は、死を覚悟した。
あの時感じた恐怖を、確かに今も感じている。目の前の男は、姿形は人間に見えるのに、その気配はもっと強大な何かに感じた。
暗殺しろ。
理由も告げずに繰り返される命令に、答えることが出来なかった相手だ。絶対の自信を持って近付いたのに、逆に殺されそうになった。咄嗟に突きだした剣が小さな傷を負わせた隙をついて、ただ逃げるしか出来なかった相手だ。
命令違反の責を問われてその後しばらく辛い生活を送った。
思い出したくもない人物が今目の前にいる。
死を与える側だった自分が、初めて感じる死への恐怖に、制御できない震えが走る。
獲物を見るような金色の瞳が、愉悦に光る。動かない青年をいいことに、男はそのまま後ろ手で縛り上げた。
「暴れなきゃ、悪いようにゃしねぇよ」
軽薄なその科白と裏腹に、男は喉の奥で笑った。
中型の船に乗せられて、青年はミネディエンスから離れた。
その船にはあの男の他にも数人乗っていて、貴金属の音や食料の匂いが充満している。青年は目隠しをされて、何一つ見ることができなかったが、話し声を耳ざとく聞いていた。
「その坊主っすか?キャプテンに傷負わせたのは」
「そんな細っこい腕じゃあ、水夫にゃなれんな」
「あんたも物好きだよ、そんな餓鬼一人捕まえるのに陸の上に上がるなんざね」
「ウォルク、ネヴァル、ノクラフ、俺はコイツを船乗りにしたくて連れてきたんじゃねぇよ」
キャプテンと呼ばれた男は、金髪を掻き上げてにやりと笑った。
「おっかないねぇ。海龍の笑みだよ」
笑う女の名前はノクラフという。けたけたというその声が耳に付いた。
しばらく会話を聞いていたが、これから自分がどうなるのか知りうる手がかりは何一つ無かった。
大人しくしていると、転がされた床の上から起き上げられて、目隠しを外された。目の前に広がった巨大な船に、青年は息を呑む。
漆黒の巨体と帆。全てが黒く染め抜かれたその外見の一番目立つ帆に、角と爪のある龍が金色で描かれていた。エメラルドグリーンの海の上で、それはただ圧倒的に美しかった。
声もなく惚ける青年を横目で見ながら、金色の男は誇らしげに笑んだ。
「漆黒の鱗(スケイリー・ジェット)」
呟かれた言葉に青年ははっとする。
その船の名は、海洋民族最強と謳われる、海賊船の名前だった。
***
拘束は解けず、荷物のように担ぎ上げられて、青年は海賊船に積み上げられた。
荷物を積み上げる船員達は、口々に男へ敬礼を返す。この男は、この船で一番偉いのだ。青年は無言で、力を貯めた。使いすぎた体力が少しは戻ってきている。虚を突けば逃げだせるかもしれない、と淡い期待を持った。
すると、男はくすりと笑った。
「見渡す限り島一つない海の上で逃げられると思ってるのか?」
「なっ……!!」
男は正確に心の内を読んでいた。
男は船の中へ入り、一度階段を下りてから違う階段を上った。鋼で縁取りされてある扉を開けると、その部屋は船室とは思えないほど華麗に彩られていた。
「ようこそ、船長室へ」
言いざま、青年はスプリングの効いたベッドの上に落とされた。
「俺は魅朧(メイロン)。スケイリー・ジェットのキャプテン魅朧。知らないわけはないだろう?」
もちろん知っていた。
魅朧と言う名前の海賊を知らない者などいない。陸での略奪は一切しない。だから、片田舎で日夜話題に上る程ではないが、少なくても漁港のある街でその名を聞いたことがない者などいなかった。
何百年、それこそ何千年を越す昔から、スケイリー・ジェット号とキャプテン魅朧の名は語り継がれている。
だが、実際に見た事は無かった。名前の割にその姿を知る者は殆どいなかったのだ。
「お前が…魅朧か」
青年は呟いた。
半年前の暗殺命令はとても曖昧だった。『国家の仇を成す海賊を殺せ。金髪金眼の男だ』ただそれだけの命令だ。男の名前は書かれていなかったが、かわりに上陸時間と場所が克明に記されていたのを覚えている。
まさかそれが、あのキャプテン魅朧だとは。
「お前の名前は?」
魅朧は青年を見下ろした。暗闇に紛れてよく窺えなかった青年は、みすぼらしく見えていた。煌々とともされたランプの下で見ると、青年の青磁の瞳が濃くも薄くも見える。カットされた宝石のように色を変えた。小作りで整った顔はなかなか美しい。個性的な美貌だった。縁取るようなくすんだ灰色の髪が、珍しかった。
黙る青年をじっと見つめて、魅朧が口を開く。
「人種が入り交じってるな。原種が何だかさえ判らない。灰色の髪ってのは珍しい。初めて見たぜ」
「……何故、判る……?」
自分の人種が判別不能なほどごちゃ混ぜであることを当てられて、青年は困惑した。普通、混血を混血であると当てるのは難しいことではないが、青年の場合は例外だった。
「俺の眼は人間より良い。それより、名前は何だ。言っておいた方が後々の為だ」
「…………………カラス」
青年は、暫し黙った後に答えた。
魅朧は満足げに微笑んで、カラスの顎をつかんだ。混血ゆえの美しさというものがある。民族特有の特徴がアンバランスにならずに、まるで作られたような端正さが奇蹟みたいな確率で生まれていた。じっと見つめてから、魅朧は感嘆を漏らす。
「悪くない…」
その呟きは低い唸り声に似ていた。
金色の瞳と髪以外、身につける服は全て漆黒。長身に見合った丈の長いコートを乱暴に脱ぎ捨てて、魅朧はベッドに膝をついた。重みでぎしりと軋む。
「俺は、所有欲が強くてな」
爬虫類に似た瞳孔が細められた。
「欲しい物は力ずくで奪う」
実に海賊らしい科白を吐いて、魅朧はカラスの上にのしかかった。
ここで初めて、カラスは自分の身の上を知った。殺すより先に、暴行を受けるのだろう。
「傷を付けたことが憎いなら、さっさと殺せよ」
喉の奥から絞り出したような、辛うじて震えを抑えた言葉に、魅朧が笑う。
「殺す?誰が。俺がか?俺がお前を捜していたのは殺すためなんかじゃねぇよ」
「………………」
「俺の物にしようと思ったのさ」
カラスは青磁色の瞳を見開いた。
今日何度と驚愕と恐怖を感じたが、今ほど混乱する言葉は初めてだった。
支配階級の最下層に入ることも出来ず、ただ日々の生活のために汚い仕事をこなしてゆく。誰一人としてカラスを相手にしようとしなかった。欲望のはけ口にするために相手をしようとした男達が何人かいたが、やられるまえに殺してしまった。それからは、人前に出るときはなるべく顔を隠そうとした。
辱められるくらいなら、死を選ぶ。
「……やめろ」
選択権など殆ど無かった生活で、死ぬ権利だけは自分の物だ、と。
カラスは縛られた腕で何とか抵抗を試みた。
「あんまり無茶すんなよ。俺は強姦しようとしてるんじゃねぇんだぜ」
「誰が合意などするかっ!」
「ま、今すぐ合意しろっつったって無理だろうが、協力した方が身のためだと思うけどな。俺はお前を守るために、俺の物にするんだぜ?」
あまりに理不尽でちぐはぐな言葉を、カラスは理解できなかった。
一瞬止まった抵抗の隙をついて、魅朧はカラスの服を器用に剥いでいく。すこし冷えた外気に、日に焼けることのない肌が泡立つ。
「……なんでっ……!!」
生まれてから、気付けば最低の生活を送って。生きるために殺して。追われて、捕まえられて、何故いつもこうなのだろう。
逃げるための抵抗も、易々かわされてしまう。
「逃げないなら、外してやる」
腕を縛る縄を掴んで、魅朧が聞いた。
それに一縷の望みを抱き、カラスは頷く。両手が自由なら、幾らでも逃げることが出来る。隠し武器に手が届く。
「………隠し武器?」
片眉を上げた魅朧は、馬乗りの姿勢のまま動きを止めた。自分の思考を口に出されたカラスは、ようやくおかしいと気付いた。
「なんで、俺の…」
「思っていることが読めるのか、だろ?」
面白そうに言葉を継げて、魅朧はカラスの体を調べ始めた。
「俺は人間より優れている」
服の上からあらかた調べた結果、小刀が出てきた。手の届かないところへ、とりあえず放り投げる。
他に武器が無いことを確かめて、ようやく魅朧は縄をほどいた。すかさず、カラスは魔術を唱える。
「おっかねぇなぁ。でもな、無駄だぜ」
魔術は発動すらしなかった。失敗ではない。魔力を引き出すことすらできなかったのだ。
「俺の縄張りの中じゃ、許しもなくどんな魔導ですら使えんよ。まして、外来の聖霊魔法なんか使わせねぇさ」
吐き捨てて、金色の瞳がきらりと光った。そして、肉食獣のようなしなやかさで、魅朧はゆっくりとはだけさせた胸元に唇を寄せる。
「……っ……!!」
這い上がってくる舌が、捕食者のそれに酷似していた。
鎖骨を軽く噛まれて、カラスはきつく瞳を瞑った。逃げようにも、その長身で動きを封じられてはどうしようもない。少しでも隙を見つけるために、歯を食いしばって耐えた。
「そんなに嫌かね。安心しろよ。酷くする気は毛頭ない」
やはり心の中を察知しながら、魅朧はカラスに口付けた。指に少し力を入れて、閉じようとする唇をこじ開ける。その隙間から舌を差し入れて、丹念にだが強引に口腔を犯す。
呻きとも喘ぎともとれない声を漏らしながら、カラスは必死に抵抗した。舌を捕らえられて、淫らな動きで絡められ、カラスは思わず流されそうになる。
「……っ…」
その瞬間、魅朧は顔を上げた。形良い眉を寄せ、口の端に付いた自分の血を舐め取る。
「…………やってくれるじゃねぇか」
舌を噛んでやろうとしたカラスだが、惜しいと言うべきか幸いと言うべきか、魅朧の唇の端を切っただけで終わった。
口内に残る血の味に違和感を感じる。人のそれより十二分に濃い。
「俺に血を流させたのは、これで二度目だな。ことごとく俺の隙をついてくれる」
堪えたふうでもなく、にやりと笑った。
「信用しろ。俺はお前の恐怖にならない」
嘘だ、という言葉が、喉元まででかかった。俺はこんなにも怖い、と。
すると、魅朧が困ったように笑い、ほんの少しだけ気配を緩めた。とても乱暴とは表現できない、壊れ物を扱うような優しさで触れてくる。
警戒心は消えないまま、嫌悪感を感じていない自分に、カラスは愕然とした。他人に利用される駒であることは甘受してきたが、征服されることは良しとしていないはずなのに。
指と舌での愛撫は止まることが無く、執拗に精神を追いつめる。
たてがみのような金髪が肌に触れ、カラスは肩をすくめた。水平線に上りかけた朝日と、室内を照らすランプの所為で、自分が何をされているか視覚で捉えることができる。それが何より嫌で、どうしても瞳を開けられない。
「……ぁっ…!」
無意識に漏れてしまった声に、自分の弱さを感じた。悔しくて、屈辱的で、情けなくて、カラスの頬を一条の涙が伝う。
それに気付かない魅朧ではなかったが、慰める変わりに新たな愛撫を施した。
ぴく、とカラスの肩が揺れる。
中心にいきなり与えられた刺激に、背筋がざわりと騒ぐ。器用な舌は、すぐに敏感な皮膚をさらけ出させ、そこばかりを重点的に攻めた。理性に反して立ち上がったそれに繰り返される舌の動きの所為で、堤を切ったような涙を堪えることが出来なかった。
「ふ…、……ぁ…くっ……、…んっ…」
他人に初めて与えられる快楽は、この恐怖に追い打ちをかける。
「随分、不慣れなんだな」
下肢から聞こえる囁き声に、カラスは頬に朱を走らせた。
「大丈夫だ。信用しろ。俺が守ってやる」
科白の内容と、その行為のあまりの違いを、やはりカラスは理解できなかった。それより、解放が間近に感じて、ぞくぞくとした震えが走る。
しかし魅朧は解放を許さなかった。それ以上の愛撫はしないで、既に抵抗を忘れてしまったカラスをベッドに置いて、チェストの中から小さな瓶をとってきた。ふたを開けると、微かに甘い匂いがする。
「……………な、に…?」
舌足らずな、きっと無意識に発せられた甘い音程を、魅朧は愉悦混じりに聞いた。その金色の瞳で横たわる肢体を眺める。傷一つない、日に焼けることさえない、今は幾分朱に染まった体。腕の中程まで下ろされた服が、図らずも動きを封じていた。
カラスはその視線に耐えられずに、逃げるように顔を背ける。体の芯まで見透かすような視線が、やはり怖かった。目には見えない素子のようなもので、検知されている気分だ。
「髪一本、渡さねぇよ。…俺の物だからな」
そう一人ごちて、魅朧は瓶に指を浸らせた。粘り気のある硬質な液体を十分に絡ませて、無骨だが整ったその指を、カラスの双丘へと滑り込ませた。
いきなりの異物感に、カラスは強張った。冷たい、だが潤沢な指が、遠慮なく侵入してくる。
「…ぅ、……あ……、はっ…」
痛みは感じないけれど、圧迫感が気持ち悪い。
カラスの不快感を感じ取った魅朧は、すぐに動きを変えた。そろそろと、這うようなゆっくりとした動きで。何かを探すような。
「…んっ…!!」
びく、とカラスが反応を返した。にやりと笑った魅朧は、途端にそこばかりを攻め出す。断続的に声が漏れて、カラスは困惑した。自分で抑えることが出来ない。一度止まっていた涙が、再度頬を伝った。
「嫌だ…、やっ……ぁ…!」
気持ちよくて、そう感じる自分がすごく嫌だ。その感覚をやり過ごそうと何度も試みるが、逆にさらに奥まで引き込んでしまう。
自分は、こんなに涙もろく、弱かったのだろうか。
体奥を指で乱しながら、魅朧は困惑するカラスの頬に口付けた。涙の後を舌で伝い、目尻に唇を寄せる。
まるで、愛する者にするような仕草で。それがさらにカラスの混乱を煽るのだが。
「お前が欲しくて、探してたんだぜ」
腰に響くような低音が粘着音の合間に聞こえた。
どれくらいそうされていたか。気付かない間に指が増やされ、その所為で柔らかく溶かされた。放って置かれた熱の中心は、解放を待つかのように、ぱたぱたと先走りで濡れている。
もう無理だ。これ以上は。
カラスが、投げ出すように全てを諦めかけた瞬間を見計らって、魅朧が埋め込んだ指を引き抜いた。
ズボンのベルトを幾つか外し、既に堅くなった自身を変わりに宛がった。両足を開かせて。そして、そのまま、ゆっくりと。
「…ぁっ――――……!!」
声にすらならない、嗚咽のような悲鳴を聞きながら、穿つ。
指とは比較にならない異物に、カラスは身を竦めた。体内に侵入してくるそれが、あまりに熱い。少しずつ、だが止まることはなく、全部埋めてしまってから、魅朧は両手でカラスの足をさらに広げさせる。
「…ゃっ…!」
潤んだ瞳が、深い海の底のような色で光った。攻めるようなその視線で見つめられても、魅朧は動きを止めなかった。
指で何度も弄られたその部分を、熱く大きな物で擦り上げられる。あの液体の所為で、必要以上に粘着質な音が聞こえ、カラスは耳を塞ぎたくなった。まとわりつく服の所為でそれも叶わない。
解放前で止められたカラスの根本を、魅朧はぎゅっと握りしめた。その刺激で体内の物を締め付けてしまい、カラスは罵りの言葉を吐く。逆に魅朧は、絡み付くような粘膜の締め付けに、自身をさらに堅くした。
「く…、…んっ……、……ぁ……あっ!」
揺さぶられて、体奥の性感帯を嬲られると、止めようのない喘ぎが漏れる。抵抗がないことをしっかり確認した魅朧は、そのまま律動を激しく変えていった。
脱ぎ捨てられた黒いコートと同じように、シャツもズボンも全てが漆黒だった。まるでこの船と同じだ。全身が黒いお陰で、その金髪と金眼が余計に映える。適度に日に焼けた肌と、引き締まった体では、カラスなど及ばない。これでは捕まってしまうのも頷けるが、それでもカラスは常人には考えられないほどの早さと時間を逃げていた。
密着した体ごと揺さぶられて、カラスはただ喘ぐしか出来ない。良いように翻弄され、動ける範囲内で腕を伸ばして、傍にあった魅朧の腕に爪を立てた。無意識の行為だったが、魅朧にとってその刺激は痛みより心地良い物として感知した。ほんの小さな痛みなど、彼にとっては羽に触れられたものと変わりがない。
「ゃ……、や…だ…っ……」
譫言のように、与えられる快楽を払拭したくて、それさえも叶わなくて。
止められない涙を、そのまま魅朧がすくい取って、一番奥まで体を進める。恐怖より快楽が増した感情を読みとって、魅朧はにやりと笑った。カラスの感情と、紡がれる喘ぎがサラウンドで聞こえた。そりゃ卑怯だぜ、と胸中で呟いて、仕返しのように、幾分乱暴に突き上げた。
「いいぜ……。上等だ…」
粘着質の音を伴った摩擦音の間隔が次第に早まるにつれて、お互いの呼吸も荒くなる。カラスにはもう、抵抗という言葉さえ浮かんでこなかった。ただひたすら、受け入れるしかない。
「あ、ぁ…っ……やぁっ……!!」
「もう……逃がさねぇよ」
ベッドのスプリングが不協和音を奏で、それが止む頃には既に太陽が昇っていた。
第一話からエロでした。。一風変わった海賊もの、開幕です。まったりとお付き合いくださいませ。
2003/10/20