UNICORN - 4 -

sep krimo [ TheAnger ]

「ちょっと、放してください!」
  暴れるミストをものともせずに抱え上げて、サイファーは部屋の扉を開けた。
  近くで触れれば、サイファーからは香水の残り香がする。レストランに連れてきていた女達の物だろうか。首筋にうっすらと口紅が付いているのを発見して、不快感が甦る。
「お生憎だ」
  いつの間にか笑みすらはげ落ちた端正な顔は、ぶっきらぼうに呟いた。足で蹴り開けた扉は、目に見えない力で閉められる。二間続きになっている部屋の寝室に足を運び、サイファーはベッドの上にミストを放り投げた。
「いいか、獲物に逃げられて俺は機嫌が悪い。それでなくてもお前の態度に苛々する。あまり怒らせるな」
「それならまた違う人間を誑かせば良いことでしょう。今の貴方に触れられるのは、はっきり言って不快以外の何物でもありません」
  いつも協力的ではないが、今回は輪をかけて酷い。
「どうしてそこまで拒絶する?」
「解らないなら結構。退いて下さい」
  此処まで来ればお互い意地である。
「……いい加減に、しろよ?」
  本気で、頭に来たサイファーはミストに馬乗りになった。それでも藻掻こうとする彼の両手を掴み、引き抜いたネクタイで縛り上げた。
  力では適わないのは解っている。それでも。
  サイファーは上着を脱いで、適当に放り投げた。どんな抵抗をされても、初志は貫徹するつもりだった。ボタンを外すなんて面倒くさいことはしない。ミストのネクタイを指にひっかけて乱暴にむしり取って、シャツの前を掴んで一思いに破った。ボタンが飛んで、辺りに落ちた。
  露わになった肌に舌を這わせて舐め上げる。相当頭に血が上って居たのか、首筋に牙を突き立てた。吸血の趣味は無かった筈だが、血を見なければ済まなかった。皮膚を食い破るときに一度、ひくりと身体が反応した他は罵る言葉すら聞こえなかった。
  天使の血は甘い。あまりの甘さに少し苦いと感じるほどに。
  天使達は例外なく、魔族に捕まれば喰われる運命にある。その甘美な血肉一遍残さずに。それだからこそ、天使達は魔を憎むのだ。
  だが、甘さに隠された苦みは遅効性の毒である。それに気が付いたときには既に手遅れである魔族も、また数多い。
  幸いにか、サイファーはその毒に冒される事はなかったが。血の臭いに些か気分が落ち着いて、顔を上げてみた。首筋から流れ出るそれを指で堰き止める。これぐらいの傷ならすぐに塞がってしまうだろう。
「………なんなんだよ、おい」
  唇を紅く濡らしたまま、あきれ果てた長嘆が漏れた。
  見下ろしたミストは、枕に頬を押しつけたまま宙を見ていた。瞬きの隙に涙が光ったのを見つけて、サイファーは脱力しかけた。
「もういい、そんなに嫌か」
  啼かせること自体は嫌いではなかったが、こういうのは好きではない。
「私の代わりなど、幾らでもいるでしょう」
  やはりサイファーを見つめもせずに。
「……そんなもん居るわけねぇだろ」
「………自分の行いを振り返ってください」
「いちいち俺を試してるのか、お前は。天使から悪魔に格上げしてやろうか?」
  チンピラのような言いぐさに、ミストは漸く視線を戻した。いつも表情の表れる瞳が、今は暗く翳っている。
「人間の女の匂いをそれだけ濃く残しておきながら、よく私に触れようと思いますね。『誰でも同じ』なら、他を当たって下さい。
  ――私は貴方に下りましたが、貴方の乱交を手伝うために天を棄てたわけではない」
  首筋に残っている薄ピンクのルージュを睨み付けると、サイファーが何事かと自分の親指でそこを拭う。指に付いた微かなピンクに、めんどくさそうな顔をした。
  ふい、とかぶりを振れば、不思議なことに残り香も口紅も消えていた。
「確かに」
  漸く思い当たったのか、剣呑とした雰囲気で指に残った血を舐めた。
「お前でないのならば、誰だろうと同じだろう」
  人は高々餌に過ぎない。それを幾ら食おうと、唯一人には適わない。餌を喰らうのは本能だ。男でも女でも、目に留まれば犯せばいい。そうやって精気を奪いながら、その魂を喰らう。
「餌の取り方が気にくわないのか?それなら最初からそう言えばいい。セックスを楽しむのではなく、ただの作業にしてやるよ」
  悔しさに、ミストは縛られた腕でも枕の端を握りしめた。
「真剣に楽しむのは、お前だけで良い…」
「……え……?」
「何ぼけた顔してやがる。これ以上俺に何も言わせるなよ。お前が信用しないのならば、俺が何を言っても無駄だ」
  楽しむと言っておきながら、作業じみている指が脇腹をなぞった。
「いい加減意地を張るのは止めにしようぜ」
  釈然としないまま、ミストは身体の力を抜いた。

***

 彼はいつも不真面目だったが、基本的に嘘を付く生き物ではない。

「私の…二十年を、一瞬で無かったことに…する気、ですかっ」
「知るか」
  滅多に使われることのないベッドが、今はその用途を過重で使用されていた。きちんと整えられていたシーツは乱れに乱れ、これからはもっとぐちゃぐちゃになることだろう。
  縛りつけられた腕の所為で、上着は前がはだけられているだけだった。それでも、汚れなど知らぬような肌に点々と印を残す。
  散々高ぶらせて、解放はさせなかった。無理矢理足を開かせて、露わになった秘部に差し入れた指をゆっくりと焦らすように動かした。
「ッん…、………く…、」
  忘れようとしていたのに、身体は覚えていた。忌々しいと思いながらも、まるでスイッチを押されたみたいに記憶が甦ってきて、この指と舌でどれだけ狂わされるかを思い起こす。内部を探る、指の数だって解る。
  ちゅく、と濡れた音がするたびに羞恥の所為で体温が一度ずつ上昇するような錯覚を覚え、ミストは身体をよじって枕に顔を押しつけた。さらりと絹糸のような髪が音を立てる。
  ああ、眼鏡が邪魔だなんて頭の片隅で思いながら、くくられた腕ではそれを取ることも億劫で。
  探るような動きではなくて、どこが良いかなど全て熟知した動きだった。煽るような焦れったさで、出すまいと思っても声が出てしまう。小さな円を描くように回されて、それから一点を執拗に嬲られた。
  ざわりと快絶が走って、思わず背が撓った。
「…ゃ、…あ…ッ…そ…、止めッ…」
「お前が抱けないなら、『誰でも同じ』だぜ?変な勘違いすんじゃねぇよ…」
「…ッ…!」
  そうだとしても、許せないと思ってしまう。彼がどんな生き物であるかを知っているのに、それでもその指も瞳も全て自分に向いてくれないかと一縷の願いを望んでしまう。
  だが、牙を突き立てられて、思う様嬲られる。そんなことが出来るのは確かに自分だけであることも確かで。
  必死に快楽に抗おうとしているミストを、穏やかに鼻だけで笑って、
「お前の血は、どんな酒より効くな…」
  物騒な台詞と供に太股の内側を舐められた。
「ゃっ…、あんたの…息子じゃ在るまいし、…何い……ッ…!」
  好き勝手に粘膜を擦り上げていた指が、唐突に引き抜かれた。物欲しそうにしているのが、自分でも解ってぎゅっと瞼を閉じる。
  傾いた身体を正面になおして、閉じたがる両足を許さずに広げた。荒い呼吸で上下する胸をちらりと見れば、舐め忘れたらしい血痕が目に付いた。旨そうだった。
「ァ…ッ……――――!」
  熱が押しつけられ、ゆっくりと侵入してきた。
  先端の引っかかりも軟らかい肉が包み込んで、奥へと誘い込んでくるようだった。久しぶりに体感させられた圧迫感に、ミストは苦痛だけではなく切なげに眉を寄せその腕に顔を押しつける。頭上で不自由な手の平は、震えながら枕を握りしめていた。
「ん、ンっ…ぅ…!」
  ことさら緩慢に中程まで埋めて、サイファーはニヤリと笑った。そして残りを腰の動きで一気に穿つ。
「――っ…ッ!!」
  久々の挿入にしては荒々しかったそれに、ミストは瞬間意識を飛ばしかける。弾みで解放してしまった欲が、ぱたりと肌に飛んだ。涙を浮かべて羞恥に歯を食いしばる姿が、やたらと扇情的で。
「…おい」
  強張って締め付けた内部で落ち着くまで動きを止めたサイファーは、胸に跳ねた白濁を舐めてから半ば乾きかけている血痕を吸い取る。歯を立てそうなほど強く吸えば、血の代わりに赤い跡が残った。
「……足りねぇ、だろ」
  くつくつと喉の奥で笑い、律動と言うよりは抜き差しをせずに身体を揺らすと、押さえきれなかったのか掠れた喘ぎが耳に心地よかった。慣れてはいるが、初々しさを未だ忘れることのない躯。狭いその内部は熱く、心地よいきつさで絡み付いてくる。だから、こいつを手放すことなんざ永遠に出来ないだろう、と胸中で呟いて。
  その顔を眺めてやろうとして気が付いた。
「眼鏡ってのもそそるんだが、こういうときは邪魔だな」
  肌に引っかからないように少しずれた眼鏡をとって、適当に放り投げる。遮る物は何もなくなったことを確認して、ぺろりと唇を舐めた。深くはない、触れるような柔らかいキスを繰り返す。母音の囁きを掬い取り、時折その真名を囁いてやれば。
  焦れったくなったのか、ミストがうっすらと瞳を開けた。明らかに欲情に濡れた蒼は、今は深く夜空のような色をしている。
「…ノイ…ズっ…」
  ノイズフェラー、と。ミストしか知らないサイファーの名を紡いで。縛られたままの腕を首へ巻き付けた。
  それが合図になったかのように、サイファーは貪ることを開始した。食い付く勢いで唇をこじ開けて、舌を絡め取って呼吸すらも吸い取った。
  しっかりと埋めていた熱は、柔らかい粘膜を抉るように上下に動き、特有の器官を押し上げられては、ミストがきつく締め付けた。どちらとも言えぬ体液が混ざり、随分滑りのよくなったそこからは耳を塞ぎたくなるような厭らしい音が聞こえる。
  それでも与えられる快感があまりに強くて、ミストは無意識に腰を揺らしていた。
「ぁ、…は…、……ッふ…、ぁ、あ、…!」
  不安定に彷徨っていた足は、いつの間にかサイファーの腰に絡み付いて。与えられる口付けの合間に必死で縋り付いた。
  飢餓感が伴うような欲情をこれほどまでに感じたことはない。体内を散々陵辱するそれを待ち望んでいたのだとは思いたくない。
  壊されそうになる恐怖を甘受しながら、今まで誰とも触れてなかった隙間を埋められているような錯覚を覚え。同時に、どんなに憎み怒り嫌悪しようとも、彼の指先一つで諦めてしまえる自分が確かに存在することを知る。
「反動が、くるだろう…?」
  ぎしぎしと躯ごとぶつける動きで犯しながら尋ねる。
「覚悟……、しとけよ」
「…っや…ぁ…、あ――――……!」
  ぎりぎりまで引き抜いて、狙った動きで一気に突き立てた。
  堪えきれずにミストが躯を強張らせて欲を放ち、搾り取るような淫猥な動きに合わせてサイファーが腰を打ち付ける。律動と供に吐き出された熱を躯の奥で確かに感じて、ミストは余韻に甘く啼いた。

***

 朝――と言っても昼に近い時間帯だが――サイファーはその部屋の扉を閉めた。
  シーツにくるまり疲れ果てたミストは、それには全く気が付かなかった。もっとも、身支度を整え終わって、サイファーがほんの出来心で唇を舐めて、ほっそりとした指先に口付けたことにも気が付いていなかったが。まるで愛しい者にするような仕草であり彼にしては随分珍しい行為であったのだが、誰一人としてそれを見ていなかった。
  ダブルのスーツの内にはベストを着込み、暗い色のネクタイをしめている。すらりと長い足には高そうな革ブーツ。闇色のコートからは長めのマフラーが引っ掛けられていた。
  階段を下りて昨晩女と話した扉を開けた。
「そろそろランチの時間だわ。今ならまだブランチが残っているかも、だけど。――――あら、困っちゃうくらい似合ってるわね」
  パムレードが書類から目を上げて笑いかけた。
「ミストは?」
「今日一日使い物にならねぇだろうな」
  ふ、と愉悦が滲み出た笑いを浮かべ、懐からサングラスをとりだす。モダンを齧り、パムレードをじっくりと眺めた。
  サイファーと同じ配色だった。ミストは、暗にそれを望んでいたのかどうか本人に確かめなくては解らないが。短い髪に、勝ち気そうな瞳。だが少女の面影など微塵もなくて、彼女には女王の風格があった。
「俺がここにいちゃ、お前が面倒なんじゃねぇか?」
「大いに面倒よ。トラフィカンテから厭らしいメールが一通、プルチネッラとレクシズからは直通電話があったわ」
「ふむ。このまま消える事も出来無くないが、暫くあいつを放っておく気はねぇしな」
  企んだ顔のまま、サングラスをかけた。
「今晩コミッションを開くのだろう?ミストも連れて行け。無理矢理にでも」
  そう言って彼は忽然と消えた。
  パムレードは真っ黒な瞳を大きく開いて、どっと椅子にもたれ掛かった。

 ギャロット地区例の高層ビルの一角で。
  警戒のためか通路には各ファミリーのボディーガードやら構成員達が集まっている。街の住人達はあえてそこに近付くようなことはしなかった。
  情報は一晩で嫌味なほど素早く行き交っていた。
  トラフィカンテのレストランに男が現れ、それがグライアイに連れて行かれたことも。何やら、グライアイのコンシリエーレ、アルヴィト・ミストと関わり合いがあるらしいことも。蚊帳の外に出た他ファミリーは憤慨した。
  翌日『例の男』が姿を現したのはプルチネッラとレクシズ、ダリカンドロ地区とブラク地区の境目で、そこで男は狙撃されたのだった。昼過ぎの出来事だ。
「ギャロット9を使わせて貰ったぞ。お宅のコンシリエーレと連絡も取れなかったのでな」
  レクシズ老がパイプを吹かし、煙の向こうから三人のボスを睨め付けた。今更隠す気もなかった。
「本来の使い方と違うと言いたいんだろ、ミス・アレクト」
  眉を寄せたパムレードに、プルチネッラが笑い声を立てる。彼はレクシズと組んでいた。
  ギャロット9は本来要人暗殺等に使われることが多い。組織としての本部はないが、少数精鋭のスナイパーが集まっている。最終判断はたいてい冷徹なコンシリエーレが決めていた。
  それが今たった一人の男を殺した。
「……死体の確認は?」
  トラフィカンテのどこか呑気な声に、レクシズは無表情になりプルチネッラは嫌そうな顔をした。
「脳二発、心臓、重要関節への焦点射撃。暗殺にしちゃ私怨が入ってるのは横に置いて置いても、これだけ喰らえばどんなサイボーグでも動けないわけだが」
  今回関与しなかったトラフィカンテが、まるで見てきたように情報を並べ立てた。ドラウレドナで行われた暗殺に司法機関は動かない。死体の引き上げぐらいが精々だが。今回は掃除屋の出番も無かったらしい。
  死体は、何故だか見つからなかった。
「見つからないものはどうしようもない。ところでミスト、説明はあるかな?」
  室内の目が全て、パムレードの背後に控えていたミストにそそがれた。一見して疲労が抜けきっていないような様子だった。襟の高いシャツで肌を隠し、伏せられた瞳が何故か扇情的だった。
「……私の、古い知り合いでした」
「ハッ!それだけが何でドラウレドナで殺人事件を引き起こす」
  野次はプルチネッラだ。
「それは彼に聞いていただければ良いと思いますが、確認していただきたい事が一つあります。彼は何処 のファミリーにも所属していません。私の旧知であるというだけで、グライアイの仕事をさせるつもりもありませんし、恐らくどのファミリーに所属することも、力を貸すこともないと思います」
「あの男は死んでいるんだが、進行形で表現する理由が解らないな。とりあえず一般人だったと言いたいのか?」
「ええ。我々ファミリーとも、遺憾ですが私に関わることだとしても、ドラウレドナとは全く関わり合いのない人物であることを理解していただきたい」
  一般人に手を出さないのが流儀であるが、今回はファミリーの一部にそうするつもりではなかったとしても噛み付いた。問題はそこであるのだが、それについては既に手打ちは済んでいる。
「……私だって、迷惑しているんですよ」
  溜息と供に吐き出された言葉に、不思議とその場の男達は惹き付けられた。情事を連想させるような色香があった。何処か濡れたような瞳で強請られたら、どんな問題でも全て頷いてしまいそうな。
「誰が迷惑しているだと?」
  声が室内に響いた。
  パムレードはうんざりした顔で、トラフィカンテは興味深そうに。他の二人は年月が見せる差こそあれ、動揺は隠し切れていないようだった。
「昼間は鉛玉をどうも」
  それは影から姿を現した。重油のような黒い物体が一瞬で人の形を取る。ミストは溜息を付いた。どうして彼はこう派手なことが好きなのだろうか。
  男は昼間銃殺されたときと全く同じ恰好をしていた。その衣服の何処にも銃痕はなく、全く傷一つなかったが。
  驚いたのはギャロット9を行使した二人だった。
「おい、何のトリックだ」
「信じられんか?模範的な態度で嬉しいな」
  ミストの背後にいた男が、一瞬にしてプルチネッラの耳元で囁いた。
「面白い特技をお持ちですな。ミスター、何とおっしゃるのでしたか」
「サイファーだ。『例の男』でも何でもいいが」
  今度はレクシズ老の背後からだった。
「それで、貴男が殺して回ってくれた御陰でこちらは良い迷惑を被ったわけだが、いい加減聞きたくも無いんだが、一応言うだけ言ってくれないか。理由を」
  頬杖をついたパムレードは、ものすごくやる気が無さそうだ。そんな彼女をやはりトラフィカンテは楽しそうに眺めている。
「銀髪を一人ずつ潰していけば、いつか何処かで本物を引き当てるだろう?」
  こともなげに。ぐるりとテーブルを一周したサイファーがミストの元に戻ってきた。
「……こういう人なんですよ、ホントに」
  うんざりした長嘆と供に。サイファーは鼻で笑った。それの何処が悪いとでもいいそうな態度だった。
「在る意味お前の所為なんだがな…」
「そんなこと頼んだ覚えは――ちょ、何してるんですかっ!」
  ミストの細腰に腕を回し、閉じこめるような体勢で抱きしめる。まるで恋人にするような仕草で、紅く染まった耳に口付けた。
「貴方を許したわけじゃッ…っ…!」
  噛まれた。
「言ってろよ。」
  以前ミストに手を出されて痛いしっぺ返しを食った、プルチネッラの長男があんぐりと口を開けていた。
  あのミスターストイックが軽くあしらわれてるな、とトラフィカンテが胸中で感嘆していたが賢くも口に出すことはなかった。
  緩い抵抗をものともせず、サイファーがミストの背後からゆっくりとテーブルの四人を見つめた。人を狂わすような深淵の瞳をむける。全身が凍り付きそうな恐怖を孕んだ視線を受け、四人は逃げ出せる物ならそうしたいと心から願った。
「殺し足り無い奴は言え。遊んでやろう」
  絶対的な畏怖を持って、彼は囁いた。冗談でも言葉を返す者は誰一人居なかった。唯一人ミストだけは平然としていたが。
  闇の硬直から真っ先に正気に戻ったパムレードが、どっと疲れたように背もたれに身を預けた。紙煙草に火を付けて、短い髪をかく。
「人狩りをしないなら、好きにしてちょうだい」
  貴方達の間に割って入ったりしたくはない、とその目が語っていた。
  背後の男がこうやって触れてくるのが自分にだけだと何となく気が付いてしまって、ミストは天を仰いだ。

 この日から、ギャレット地区に人外が住み着いた。

  

…個人的にノイズフェラーの行いは許せませんが(笑)。セックスと殺戮が食事という人なので…。ノイズ的理屈でいくと、ミストがアホにしか思えませんが私も同意見です(ぇ)。いい加減頑固だと思いますミスト。銃撃戦とかいろいろ入るところだったのですが、思いのほかながーくなってしまったので色々割愛。
パムがミストを起こしに行って、ぐったりしてた指さして笑う(誇張)とか、サイファー銃撃される瞬間とかその辺もばっさり。ポイッ

<どうでもいい話>
ジアンカーナ・トラフィカンテ
全身サイボーグです。暗殺されてから脳以外を義体化しました。精子は冷凍保存。えーと。ルイ・ローゼンヴォルトが言っていた幼なじみは彼でして、ノイズが破天荒な出現の仕方をしていたり殺されても驚きもしなかったのは、人外仲間のルイに電話して聞いてたためです。ほんとーにどうでもいいですが…
トラフィカンテとパムレードは後々結婚します。女2男2の子沢山。

どうしようもなく使えなかったネタ>ミスト眼鏡だった…!
お読みいただき有難うございましたお疲れさまでしたw
2004/09/12

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