Liwyathan the Jet 2 RISE - 6 -

Liwyathan the Jet 2 RISE

 魅朧を急かして脱衣所から先に送り出したカラスは、洗い立ての衣服に肌を通しながら瞳を閉じた。魔力を身体に貯めた状態で、四方を壁で囲むイメージを思い浮かべる。そのまま意識を固定した。イメージは何でもいい。遮蔽を張るための補助なだけで、皆同じ事をしているわけではない。
 無事『遮蔽』を張り終えたカラスは、まだ乾ききっていない髪をざっと拭いて、洗濯籠の中にタオルを投げ入れた。後で服と一緒に洗濯室行きだ。
 あまり時間をかけるのも変に勘ぐられそうなので、ポーカーフェイスができるか鏡でちらりと確認して脱衣所から部屋に戻った。
 室内を見渡せば、カラスの出現に会話が止まったような状態だった。
 冷酷とさえ映る冷えた瞳でカウチにふんぞり返る魅朧と、隙無く肘掛け椅子に身を埋める無表情のエルギー、謙遜の色も見せず偉そうに食卓椅子に座ったパヴォネ。
 三者三様、本体のフォルムを思わせるような華美で優美な特徴を備えた海龍のトップスリーは、それぞれの持つ爬虫類に似た黄金の瞳でカラスを見つめた。
 正直居心地の良い物ではないと、カラスは口には出さずに眉を顰めるに止める。出来る物なら逃げ出してしまいたいような重苦しい空気を感じた。
「……美人にゃ違いねぇが、餓鬼すぎねぇか」
 最初に口を開いたのは、三匹の龍の中で妖しいまでの美貌を備えたパヴォネだった。回復が早いのは種族特徴だが、あれだけ魅朧に暴行されていたにもかかわらず、その片鱗を窺うことはもうできない。
 その餓鬼の姿を保つためにどれだけ苦労してると思ってやがる。側にあった燭台を投げつけてやりたいとカラスは胸中で殺意を覚えた。遮蔽を張っている今、何を思おうと知られることは無い。
 だが、カラスが燭台を投げつけない代わりにパヴォネの後頭部を酒瓶が襲った。
「…っぶねぇな!」
 首をずらすことで投げつけられた障害物を避けたパヴォネは、殻になったラム酒のボトルを投げつけた魅朧に怒鳴った。
「魅朧がショタコンで、エルギーがロリコンだっつったら、目も当てられねぇ。真っ当な恋愛してんの俺だけなん―――待て、暴力は止めろ!それまだ中身入ってるぜエルギー!」
 コルクの抜いていない葡萄酒を掲げ持ったエルギーが、眉一つ動かさずに振り落とす。両手で挟むように止めたパヴォネは唇を引きつらせた。
 冗談で流せないというのは、案外気にしてるんじゃないだろうかコイツ等。凝りもせずパヴォネはそんなことを考えていた。
「お前が真っ当な恋愛なんぞをしてるなら、今回の事件は起きなかっただろうが。言っとくが、俺は許しちゃいねぇからな」
 腕を組んだ魅朧が冷たく言い放つ。
 さっきあれだけ人のことを貪っておいて、もう機嫌が悪いのかとカラスは呆れた。だが、もしかしたらそういうスタンスを取っておく必要性があるのかと考え直す。
 カラスが魅朧が座るカウチの側まで行くと、無言で側へ座れと指示された。大人しく従えば、魅朧に引き寄せられる。
「…魅朧」
 二人きりの時にされるのなら文句は言わないが。冷めた目でカラスが見つめれば、魅朧は何食わぬ顔をしていた。
「安定剤、安定剤」
「そのまま側にいておやりなさい。魅朧に此処で暴れられたらかなわない」
「どうせ風呂場でヤってきてんだろうが。傷心の俺の前でいちゃつくか普通」
 いつも文句を言いそうなエルギーが魅朧を擁護していることに驚きながら、パヴォネはやはり期待を裏切らない男だと確信した。
 カラスはいちいち答えるのも面倒臭くて、転がる酒瓶からそのまま直に口を付けて一口飲むと、視線はどこにもやらないまま三人に向けて呆れた声をかけた。
「俺には構うな。不備はあとで魅朧に埋めて貰うから、会話を戻してそのまま続けてくれ」
 美青年の突き放すような言動に、パヴォネは口笛を吹き、エルギーは瞳を細めた。すぐそばにいる魅朧はカラスのこめかみに親愛を込めてキスを贈る。
「では、魅朧、錬金術師が具体的に何をしていたのか、そこから教えてください」
 話を戻したのはエルギーだった。各自適当に酒と煙草をやりながら。
「あの野郎はカナリーナを『造って』いた」
「……見てないだろう、お前は」
 パヴォネが乾いた声で。
「目で見る必要は無い。何で俺が魅朧だと思う?お前等の力量も生き死にもどんな距離だろうと、それが龍の理に反するような物だったら、『読む』ことなんぞ造作ない」
「待て、魅朧。造ったとは、どういうことです」
「以前、ノクラフの腕を『造った』ことがあるだろう」
「ああ。…貴方には申し訳ないが、その件については感謝していることは否めない」
  魅朧は両足を投げ出し、天を仰ぐ。
「この馬鹿野郎共が…。俺だって同じ事してぇから、面倒臭い後始末に回ってんじゃねぇか」
「なら今回も見逃せ、魅朧。第一俺はあの錬金術師の存在を他に読ませてはいねぇし、カナリーナが死ぬ前に船を抜けたから、ここにいる俺達と錬金術師以外はカナリーナの死を誰も知らない」
 そう。
 パヴォネの最愛の女は、既に死んでいるのだ。
「腕ならいい、足ならいい、本来そういう問題じゃねぇのは解ってるだろうが、そうだったらまだ良かったな。まさかカナリーナそのものを造らせるとは予測がつかなかった。手前ぇの日頃の行いが悪い所為だぜ?」
 流石に龍族の人妻には手をださなかったが、気に入れば好きに攫って犯してきたパヴォネはあまり評判がよろしくない。まさか女のために自分の命を投げ出すような行為をするとは思っても見なかった。例え伴侶を決めれば絶対に裏切らないとは言え、落ち着くまでの龍達にモラルはあまり無い。そもそもの個体数が少ないから、力の強い龍の子孫を残せる事は雌にとっても喜ばしいことだった。
「俺達は死んだら塵と消えて世界に混ざる。転生はしない。『何故』はねぇ。そういう理の上に存在しているんだ。お前の所為でどれだけ海が荒れると思う?お前のその性格で秘密を隠し通していけんのか?俺は無理だと思うんだがな。
 辛うじての救いは、お前の地位が未だに3位である事だ。もし降格でもしてみろ、メナートが言いふらして一発でカナリーナの存在がばれて終わりだ。こんな裏技じみたこと、お前以外でも求めてこられたらたまったもんじゃねぇ。そんな自体になったら、海龍は破滅だ」
「俺は賭けで負けたことはねぇ」
「手前ぇの運の良さと一族を天秤に掛けられちゃ、たまったもんじゃねぇんだよ。
 いいか、あの男は存在の半分を悪魔に塗り替えた男だ。アイツが関わって造られた物は割合がどうであれ異界の影響を受けている。
 この世界で最強であるという事は、異界の影響は一切排除しなきゃいけないと同義だ。異界の要素が一滴も混ざっていないからこそ、ヒエラルキーの頂点に君臨していられる。人間共や他の生き物共は、この世界で生きているにもかかわらず、なんらかの属性として異界の要素を内包している。
 だから、『この世界』では純度の高い俺達が強大なんだ」
「じゃあ…、ノクラフは純血とは言え、すでに龍としては欠陥品なんですか?」
「いいや、アレは寸ででセーフだ。手首くっつけただけだからな。新しい物を造って結合させた場合とは違う」
 あからさまにほっとしたエルギーに対し、パヴォネが舌打ちをした。顔を顰めて紙煙草を齧る。
「孔雀」
「あぁ?」
 魅朧の呼びかけに、不機嫌な声が応えた。
「お前、カナリーナを造るのに『条件付け』をしただろう?お前は自分の力を削っただけではなく、悪魔と契約までしたな?」
「……」
「黙るな。全部吐け」
 淡々とした口調ではあったが、威圧するには十分な気配が漂っていた。
「…俺が死んだら、カナリーナも死ぬように、あの錬金術師に設定させた」
 確信犯のような笑みに、パヴォネ以外の者達は顔を顰めた。
 在る意味究極の願いだ。そして、とてつもなく傲慢だ。しかも、一度死んだ者に対しての行いでいえば、倫理的に最低だと言って過言でない。
「俺が生きているのに、カナリーナが側にいないなんて許さねぇ。俺が死んだ後に、カナリーナが独りで生きるのも認めねぇ。アイツが生きて俺の側にいることが、俺の糧だ。
 一度アイツにも聞かせたことがあるが、カナリーナはただ笑ってた。応も否も答えてないが、アイツの意志など知った事か。俺の横にカナリーナが居ないというだけで、心臓を握られてるみてぇなんだ。気が狂いそうになる」
 魅朧が舌打ちする。
「もともと俺の力を削って素材に使ってんだ。それくらいワケねぇ。龍の呪が使えない分、あの錬金術師に設定してもらう以外ねぇ」
 くゆらせた煙草は、大半が灰になっていた。パヴォネの瞳には目の前の光景ではなく、一人の女が映っている。
「契約代償は?」
「………龍の雄の情報」
 言い淀んだのは一瞬だった。エルギーが驚愕に身を乗り出し、魅朧は一気に沸点を超えてまた手か足がでそうになる。実行に移さなかったのは、カラスが必死に腕を押さえたからだ。
「……全船長呼び出してお前殺して食ったら、力の強化するのにいいんじゃねぇかな」
「んなマジな目ぇして怖ぇこと言うなよ、魅朧」
「なぁ、鷲。孔雀を生かしておく価値って何だ?」
「ちょ、…」
「私が覚えている限りで、パヴォネがやっかい事以外を持ち込んだという記憶はありませんね」
「だって!魅朧はあの錬金術師に呪をかけてんじゃねぇか!だったらバレる問題はねぇだろ!?」
「……そういう問題じゃねぇだろ。頭痛ぇな、マジで」
 パヴォネは在る意味一番海賊らしいと言える男だ。自分のやりたいようにやる。法則や規則などクソ喰らえだと思っているし、好き勝手暴れることの出来る力もある。出会った船が海賊船だろうと商船だろうと客船だろうと、容赦はしない。奪う、荒らす、駆逐する。
 自分の望みに近づく為だったら、一族の掟すら彼の前には塵も同じなのだろう。
 魅朧などはまだ穏和な方だと知らされたカラスは、三人を観察していた。
 カラスはあの錬金術師の地下室で、人型になろうとしている物を見た。あれが魅朧の言う所のカナリーナだとするならば、なんて事だろうと絶望に似た感情を味わう。人を造る、など。自分が人間だからなのか、それは酷く禁忌の匂いがしてならない。
 龍はその命を終えると霞むように消えてゆく。骨も残らない。故に龍に墓は無い。パヴォネはカナリーナが命を終えるぎりぎりまで待っていた。消えてしまえば造ることはできなくなるから。そして命の灯が消える瞬間、その躯を錬金術師の手に委ねた。
 一欠片も狂い無く龍族の遺伝子を内包し、しかし魔の影響を受けて生まれた躯。海龍で言えば亜種。巧妙に隠しても、きっと違和感はぬぐえない。
「そもそも、それでカナリーナの魂はどうなると思う」
「……」
 うんざりとした魅朧の問いかけに、パヴォネは黙るしかなかった。
 魂を見る事ができない生き物にとって、それが何処に存在し、何処へむかうのかなんて解るものではない。確かに、あの錬金術師の家の地下で生まれつつあるカナリーナは、遺伝情報でいえばカナリーナその物と言える。
 しかし、以前と同じ魂が宿るかどうかなどは、わからなかった。むしろ魂その物が宿る可能性さえ未知数なのだ。
 三匹の龍は、呼吸すらひそめて沈黙した。
 全ては、結果が出なければ解らない。
「落とし前は、着けてもらうからな」
 静寂を破ったのは、魅朧だった。
「まあ、出来る事ならやってやるぜ」
「…カナリーナの正体がバレたら、それを肯定する前に、俺の元へ来い」
 金色の瞳が、炎の様に揺らめいた。魅朧は有無を言わせず、パヴォネを射抜いている。金縛りにあったように、パヴォネは指先すら動かせない。
「お前を消滅させてやろう」
 エルギーとカラスは息を飲んだ。
「受諾しろ。『孔雀(コンチュエ)』」
 その命令には、絶対的な響きが含まれていた。空気が静かに凪いだ。
 魅朧は冗談で言ったのではない。カナリーナが作り替えられた生き物だと龍族に知られた時点で、パヴォネに死ねと命令したのだ。
 龍族は基本的に自殺が出来ない。だから、族長の責任を持って、魅朧がその命を消してやろうと言うことだった。
 否、とは主張すら出来ない。その命令は一方的な物だった。パヴォネの魂その物に縛り付ける、龍族の、その頂点に君臨する魅朧が行使する呪。
「…御意のままに」
 かさかさに乾涸らびた声が、パヴォネの喉から吐き出された。苦痛を伴う呪に、頭を抱えて蹲る。
 その姿に、微かな苦痛を滲ませた魅朧が、普段通りの声色で言葉をかけた。
「寿命まで生きたいなら、眠るときでも気は抜くな」
「……わかってるよ」
「一時でもカナリーナと長く居たいなら、それこそ死ぬ気でやれんだろ」 
 カラスは後にそれが呪という契約を行う行為だと知ることになるのだが、たった今行われた事で何かひとつの決着をみたのだろうと肌で感じた。
「カナリーナの件は、とりあえずのカタがついたとして…」
 エルギーは閉まっていた紙片を取りだして、テーブルに放った。
「カーマに潜伏しているピピストレッロから、情報が入った」
 甲板で魅朧に渡されたものだ。それを見た直後、しこたま蹴り飛ばされたパヴォネは、しかめ面を浮かべて紙片を覗き込む。文章を目が追って、段々と顔を引きつらせた。
「あー…、マジかよ…」
 その反応は、隠していた秘密がばれた時のような、悪さが露呈してしまったというような、後悔や諦めや開き直りが混じったものだった。
「洗いざらい、全部吐きなさい。魅朧と私がお前を喰い殺す前に」
 エルギーの凍てつく言葉を聞いたパヴォネの背中に冷や汗が伝った。カラスでさえこんなエルギーは初めてだと、怖ろしい物を見るような目を向ける。魅朧は黙って応えを待っていた。
 パヴォネは先程かけられた呪の影響が残っているのか、衝撃で反論する気力すらなかった。
「……詳しい原理ってのは錬金術師に聞いてもらわんと俺にもわかんねぇんだけど、カナリーナを作る前のテストとして、形だけでも一度作ってみる必要があるっつうから、他の誰を巻き込むわけにもいかねぇし、俺を作らせてみた」
 視線を誰とも合わせないように語るパヴォネは、逃げ道が何処かに無いだろうかと必死に模索していた。きっと何処にも逃げ場は無いんだろうと解っていながら。
「それで?」
「俺の力の欠片で作ってるから思いのほか上手く出来てたもんで、カナリーナを作ってる間、俺の代わりに船においとこうかなーなんて思ってな」
 だんだん、言い訳が見苦しくなってきた。
 詰問する龍族の上二位の視線は、軽蔑の色すら滲んでいる。間に割って入ろうとは思えないカラスは、薄々読めてきた話の先に胸中で呆れかえる。
「ほんと、俺そっくりなんだぜ。ちょっと何考えてるかわかんねぇけど。カナリーナが居なくて意気消沈してるって感じで、替え玉になると思ったんだよ…」
「完成したなら、さっさと殺せ。殺して喰って元に戻せばいいものを」
「理由も言わないで黙って船空けてるより、部屋から出てこなくても船に居るって方が怪しまれねぇかなーって」
 乾いた笑い声は、虚しく響いて消えた。
「それが逃げてカーマに流れ着いたのか」
 こめかみをさすりながら、エルギーは唸った。こいつは救いようのない馬鹿だな、とその顔に書いてある。
 魅朧は軽く抵抗を返してくるカラスを抱きしめて鼻先を押しつけながら、その会話を聞いていた。お気に入りで、絶対に手放したくない人形を握りしめた幼子の行動に似ている。カラスは人形では決して無いが、それに触れていれば癒されるという点では同じだった。
「対カーマ通商条項」
 ぼそりと呟いた言葉は初めて聞くものだった。
「だって、仕方ねぇじゃん。あんな口約束をあの試作品が知ってるとは思えねぇし。そもそも何で逃げたのかわかんねぇし」
 パヴォネは必死で弁解する。あまり効果的とは言えないが。
「倉庫で埃被ってますけど、一応契約書くらい交わしたんですがね」
「通行料払うからカーマ船籍の船だけは見逃せってやつだろ?」
 口伝で伝えられるその条約は、かなり古い昔に取り決められた物だった。当時の龍族はまだ力だけは強かったがあまりに数が少なく、自衛を兼ねて片っ端から海賊行為を行っていたのだ。攻撃は最大の防御とばかりに容赦のない行為に、当時一番被害の多かったカーマ王国が提案してきたものである。
 一応脈々と伝えられては来ているものの、船を丸ごと大破させてそしらぬ顔で略奪を行う龍族が居ないわけではない。…例えば、パヴォネのように。
「海原でやる分には俺達が有利だが、カーマ本土で喧嘩売れば俺達が不利だろうよ。人様の庭先で人妻を犯すみたいな事しやがって…」
 魅朧の品のない悪態に、カラスは半眼になった。とりあえず、カーマに行く目的というものがうっすら解ったカラスは、どんどん規模が大きくなる話を前にうんざりした。
 魅朧に出会う前は政敵を屠る暗殺者として育てられていたため、あまりまともな道徳意識は無いカラスだが、浮上する問題がどんどんややこしくなって、全部忘れて不貞寝でも決め込みたくなる。
「海賊が陸地で殺し。海龍の風上にもおけねぇな。模造品には本能すらねぇのか」
 窓の外を眺めた魅朧は、この船が最速で目的地へ駆けている事を確かめた。二日もあれば錨を降ろして居るだろう。
「……カーマ軍が動く前に、消しに行く」
「俺がか?」
「阿呆。お前ぇが行ったらややこしくなるだけだろうが。面割れてんだから暫く海底にでも潜っとけ」
 原因である癖に随分楽しそうなパヴォネは、魅朧の視線に顔を顰めた。昔からそんな態度であるのから今更口で言うのも馬鹿馬鹿しい。そのかわりすぐに殴りたくなった魅朧は、それでも必死で自分を抑えていた。
「お前の船にディアマンテロッソのネックレスがあっただろ」
「カナリーナの為に作らせたやつか。あんまり好きじゃないって返されたから箱ごと倉庫に転がってんじゃねえかな」
「それ、違約金代わりに持ってってやるから、さっさと取りに行け」
 金で解決させるのは好きじゃあないんだけどな、と魅朧は胸中でごちた。あくまでも優勢な態度は崩さないつもりだが、今のカーマにはひとつきになる事がある。そこにまで発展するのは、なるべく避けたいのだ。
「ちょ、魅朧。あれ幾らすると思っ――」
「黙れ。お前の文句なんぞ聞く気はねぇ。首が胴体とさよならしたくねぇなら、俺の命令を聞け」
 魅朧の髪が一瞬ざわりと揺らめいた。
 息が詰まりそうな殺気に、カラスは息を飲み、エルギーは眉間に皺を寄せた。
 族長の怒りは、未だ収まらない。

  

う、うーん?
2007.1.13

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