VSeI - 01 Positive Discipline - 1 -

Vir-Stellaerrans Interface

 眼下に広がる黒い海。緑の無くなりかけた茶色の森。焼け果て、汚染され色の失った大地。灰色の空。不気味なプラズマを放つ雲。人工物ばかり、やたらと埋め尽くされている。
  かつて宝石の様だと讃えられた姿は、醜く朽ちかけていた。
「ここまで来てさえ、お前は再生を拒むと言うのか」
  その声は苛立ちと憎しみに満ちていた。
「強慾な白蟻は己の住処を食い潰す。滅びの道を辿る事を知っていながら。愚かにも程がある」
「…それでも彼らは、生きているんだよ」
「吐く息は毒に冒され、穢れしか生まず、星を蝕んで、何が生か」
「だからこそ、必死に生きている」
  穏やかに宥めるもう一つの声の主は、愁いに沈んだ瞳で眼下を見つめていた。
「私は彼らが愛おしいよ」
  この広大な星の海で、かつて蒼く美しかったその球体を瞼の裏に思い浮かべる。現実は凄惨だ。けれど背けることはしない。
  己が望んでここまで来たのだ。
  幾度とない討論の答えは、いつも妥協によって先伸ばされていた。限界まで待たせ、それでも最終的に彼はいつも優しかった。
「『維持』は選択を放棄した。奴は先に眠ってしまった」
「そう、だね。彼女は私に呆れているだろう」
  彼らはいつも三体揃ってひとつだった。全てのバランスが平等であったから保たれていた小さな世界。それが今、岐路に立たされている。
「傍観すれば、お前を喰って星は僅か存える。ほんの僅かだ」
「それで甦る活路があるのならば、私は喜んで贄にな――」
「お前はッ!」
  激昂が遮った。最後まで聞くことなど耐えられないと言うように。
「…本当に反吐が出る。お前の選択の何処に希望があるというのだ!」
  彼らは三体揃ってひとつだ。ひとりでは属性も主張も何一つ合うことはない。この場にいる二人は、それぞれ一番対極に存在していた。
「俺が望めば、世界を再生させることが確実だというのに!」
「君の指先一つで、彼らの大半は死滅する。病はそこで進行を止め、癒えた星は最初から始まり直すだろう」
「そうすれば、お前が消えることは無い。蝕まれた躯は、星と共に癒せばいい」
「彼らを大勢殺し、文明を壊し、最初からやり直して、私が生き存えるなど…。私が眠って、何が創造される?」
「現に星を見てみろッ!お前が望んで好き勝手創造させた結果がこれだろう!」
  彼らはいつも三体揃ってひとつだった。
  両極端の二人を宥め、妥協策を見いだす者はこの場に居なかった。平行線は何処までいけど、交わらない。
「それでも…、私は彼らが愛おしいよ」
「俺は心底お前が憎い」
  苛立ちと憎しみの声は、もどかしさと歯痒さを混ぜた叫びに変わっていた。
「奴等の世界の為に、お前を失えと言うのか。お前は優しすぎる」
「…君も。全ての破壊を司っているのに」
「お前は残酷だ」
  そしてその慟哭は、やがてひとつの結末を選択した。

 

***

 

「おい…、おいっ!」
  横向きで眠りに就いていたルイの肩を、アレクシスは揺さぶった。
  AUGAFFセントラルスフィアにやって来てから一週間が過ぎようとしている、それは基地内時間の明け方の事だった。
「…っ…う」
  いつもの時間になっても寝室から出てくる気配が伺えず勝手に扉を開けてみれば、この部屋の主であるルイはどうやら魘されているようで。居眠り姿を見ても、近付けば気配で目を覚ますいつもとは違う。寝姿を見ても許される程親しくはなっていないが、アレクシスは仕方がないと腹を括って彼を起こす事に決めたのだ。
「そろそろ起きてくれないか」
「……?」
  溜め息混じりに呟けば、白銀の睫毛が震える。ゆっくり瞼が開かれて、紅色の瞳が空を見つめていた。焦点が合っていない。
「あんた、寝穢いのか」
「…アレクシス?」
「ああ。クイーン女史じゃなくて残念だったな」
「お前、…無事だったのか」
  次第に重なるルイの視線は、驚きや困惑ではなく安堵の色合いが強かった。
  何処にも怪我を負う要因がなかったアレクシスは柳眉を寄せる。寝ぼけてやがる。
「筋肉痛程度で怪我人にするなよ」
「は?……あー、ああ、すまん。忘れてくれ」
  若干ばつが悪そうに長髪を掻き上げたルイは、上半身を起こした。本人の嗜好か計りかねるが、素肌のままだ。緊急招集でもかかったらどうするのだろう。
「モーニングは?」
  既に身支度を調えているアレクシスは、朝食の有無を尋ねた。
  ルイの将官用の部屋には、簡易キッチンもついている。さらに言えば、朝食を運ばせるような特権すら持っていた。だが彼は主に士官用食堂を使用していた。
「時間は…、まだ大丈夫だな。1分外で待ってくれ、すぐ用意する」
「了解」
  時計を確認しながら立ち上がり、肩をまわしたルイが視線を逸らしながら告げる。寝起きを、しかも何やら寝ぼけているところを見られて、流石に恥ずかしいのだろうか。
  アレクシスは覚え立ての敬礼を軽く返してリビングに戻った。
  この将官寮は、独身者の軍人が使う物にしてはなかなか快適な広さだ。バスとトイレは別で、リビングがひとつ、寝室は二つある。一方の寝室はルイの完全な私室になっているが、もう一方は主に要人の護衛もかねて宿泊させることが出来るよう、所謂客間のような扱いをされているらしい。
  相部屋に詰め込まれるものと思っていたアレクシスは、到着して案内されたルイの部屋を訪れて驚いた事を思い出す。相部屋には違いないが、まさか彼の私室で生活しなくてはならないとは。これ以上ない安全地帯ではあるけれど、初日は些か緊張で睡りが浅かった。二日目には警戒心など殆ど薄れたが。
「待たせてすまんな」
  一分には少し早い。黒と深緑を基調とした軍服を片手に持った姿でルイが現れた。そのままバスルームへ。
  彼の軍服の裾の長さは膝より少し長い。地位の高さと比例しているらしいのは、アレクシスの軍服が太腿程度であることから容易に想像出来る。二人とも、襟の縁取りは赤い。それは武官を表している。
  襟の縁取りは、各部によって違うらしく、クイーンなどの秘書官は黄色。戦術士は橙、技術部は青、医療部は白、と様々だ。資料は見せられたが、全てを覚えきってはいない。
  今日の訓練は午後から。午前中は、作戦情報室を案内してくれるらしい。
  洗顔諸々を終え準備が整ったルイは、情報端末ボードを片手に持って肩を竦めて見せた。いつもの予定時間より十五分遅いが、問題は無い。アレクシスは寝坊した彼の後ろについて部屋を出た。

 

***

 

 AUGAFFセントラルスフィア基地内は、レカノブレバス本星に居た頃より、幾分体感温度が低いとアレクシスには感じられた。それは平均的なレカノブレバス人ならば、やや肌寒い程度だろう。広義で言えば基地全体が機械であるから高温多湿を避けたいのかもしれないし、宇宙空間で少しでも無駄なエネルギーを使いたくないからかもしれない。どちらの理由でも、または違った答えだろうとも、アレクシスには構わなかった。
  基地内でも、さらに冷やされたこの部屋は、SOACOMの作戦情報室だ。驚いた事にルームプレートの類は一切無かった。
  短い廊下の一番奥にある扉が開く。白い床と灰色の壁に囲まれた何もない部屋に出た。足も止めずに通り抜け、対角線上にある自動ドアを出ると、コンソールパネルと椅子が雑多に並ぶ広い作戦会議室が現れた。
  フォルト協会の友人であるロキのシステム操作室を何倍も拡大増殖させたような印象をアレクシスは受けた。翼型に広がるコンソールにはちらほら軍人が座っている。ディスプレイとホログラムが点滅している。若干の傾斜する部屋の奥には壁一面に星海図らしきものが映し出され、光点が点滅したり動いたりしていた。
「お早うございます、准将」
「お早う」
  軍人達とルイの挨拶は畏まった物ではなく気軽い。観光客を訪れた田舎者のような反応で立ち止まったアレクシスを促しながら、ルイは苦笑を零して部屋の奥へ進んだ。コンソール群の島が途切れた通路に入り、自動ドアのパネルに触れる。
「お早うございます、ボス」
「やあ、ルイ。それとアレックス准尉」
  小部屋に居たのは、クイーンともうひとり。黒髪に銅色の瞳の成人男性。どこか見覚えのある顔立ちをしているとアレクシスは思った。
「お早う。早いな、お前等」
  執務室に似た作りの部屋だ。一番大きなコンソールの前に座ったルイは、コンピューターを立ち上げる。ホログラムディスプレイではなく、卓上からハードディスプレイがせり上がってきた。アレクシスはどうしたものかと思案していたのだが、クイーンに勧められて椅子の一つに腰掛ける。
「アレックス、紹介しておく。こいつはSOACOMの情報分析主任だ。詳しい事は本人から聞いてくれ。俺は暫く雑務をこなす。クイーン」
「イエス、ボス」
  片手を振って仕事様式に入ってしまったルイの横に、電子バインダーを持った秘書官が立つ。引き継ぎやらなにやら、専門用語混じりの会話が彼らの間で始まってしまった。
「そっけない紹介だな、相変わらず」
  方眉を上げた苦笑を浮かべ、情報分析主任だと紹介された男性がアレクシスへと視線を向けた。
「僕はノア。ノア・クーリッジ。階級は大佐。初めまして、アレックス・C准尉」
「…クーリッジ?」
  大佐相手に座位のままでいいのか、という考えは、ノアのファミリーネームを聞いて吹き飛んだ。件の友人と同じだ。思わず聞き返す。それにこれまで、ここ最近何度か耳にした名だ。
「その想像は正しい。僕はロキの兄にあたる」
「貴方が…、そういえば声に聞き覚えが」
「ルイの屋敷かな?」
「ええ」
  なるほど、確かに似ている。ロキをもう少し成長させてしまえばきっと彼のようになるだろうと想像は難くない。
「数日前、ロキがAUGAFFにアクセスしてきたけれど、君も一緒に居たのじゃないかな」
「…ええ」
  そこまで解るものなのか。
  確かに傭兵依頼の話をされた後、ロキに頼んだことは確かだ。その時ロキは「兄貴が出てきた」と言って居たことも思い出す。
「ロキは、貴方が居るならここはそう悪い所ではないと言っていた」
「それは嬉しいね。その言葉に免じて、お仕置きはやめておこう」
  にこりと笑うノア。
  その時、ディスプレイを見つめていたルイが顔を上げた。
「ノア、音声を使え」
「それは失礼」
「アレックスにはレベル5まで情報を開示していい」
「おや、そこまでとは驚きだ」
「ヴァン=ウル将軍の許可は出ている」
「…確認した」
  黙ったままのクイーンは事情を察しているのだろう。ルイとノアにはアレクシスに感知出来ない何らかの通話手段があるのだろう。電子デバイスを体内に埋め込んでいるのならばそれも可能だ。
「ではアレックス、……そうだな、その前にACと呼ばせて貰って構わないかな。その方が発音しやすい」
「どうぞ」
「それでは改めて。SOACOMについて、一通りの説明は受けているね?」
  アレクシスは頷いて応えた。
「ならば一足飛びに説明をしよう。AUGAFFは名目上防衛軍だ。連盟国の防御を主な目的としているが、SOACOMは性質が違う。我々はもっと攻勢性質を持っている」
「カウンターテロ?」
「そうだね。それもひとつだし、主体と言っても良い」
  言葉を遮られても嫌な顔は見せないノアは、アレクシスとの間にある簡素な机を指で叩いた。ホログラムが浮かぶ。
「この宇宙には、僕等のような分類上人類が築いた文明とは異なる存在が居る」
「AUGAFF加盟国以外の国家や惑星、とか?」
「いいや、それは同じだと考えていい。我々SOACOMが絶対敵と設定しているのは、一般的な人類の目には見えない」
「見えない?電子的な何かとかか?」
「人類が創造した人工物は、例え電子だろうと光だろうとエネルギーの一部であろうと、我々が感知する事が出来るのならばそれは敵ではないよ」
  目に見えない敵。五感で捕らえられない何か。そんなものを、そもそもどうやって察知するのだ。見て感じる事が出来なければ、それは居ないのと同じだろう。
「AUGAFF最高峰の技術でも、奴等を捉えることは未だ難しい。我々は奴等の存在を感知する時は常に後手に回っている」
  ノアは、忌々しい物を睨み付けるような視線でホログラムを見つめた。レカノブレバス銀河系の縮図が縮小され、半分に割った上部に白いアメーバ状の泡に似た物が映し出された。
「奴等は異層に存在している。我々が感知・認識している次元に重なる、別の次元だ」
「次元…?あー、申し訳ない。俺は義務教育以外の学問は戦闘くらいしか身に付けていないんだ」
  数学や物理は嫌いじゃないけど得意なわけではなかった。そもそも銃ですらに計算ではなく体感と経験で撃っている。構造は知っているから分解と組み立てが出来たとしても、細かい設計となると埒外のこと。
  アレクシスが降参を現すように両手を挙げてみせれば、ノアは方眉を歪めた。
「…いません、大佐」
  相手が上官だった事を思い出し、言い直す。だがノアが眉を顰めたのは不敬に対してではなかった。畏まらなくていい、とノアがやんわり応える。
「そもそも我ら人類にすら未知の存在だからね。学問的な『次元』でも、それこそ文学的な『次元』という使い方でも、認識はどちらでも構わない。大切なのは、この広大な宇宙の何処にでも居るかもしれない奴等を、人類は殆ど感知することが出来ないという一点だ」
「数学と物理のプロにすら導き出せないからな。俺等が扱う公式、空間、時間、全てが奴等にとっては意味を為さない」
  急ぎ処理しなければいけない物は終わったのか、ルイがコンソールの向こうから会話に割り込んできた。アレクシスがそちらに視線を向ければ、ウィンクを返された。反応に困る。
「それでも、敵なのか?」
  レカノブレバス星で生活していたアレクシスは、学校やマスメディアですら聞いたこともない何かの存在を素直に信じる事は出来なかった。
「我々に害を及ぼすという点で、絶対的に敵対している」
  ルイは素っ気なく返した。横に控えるクイーンから次の処理を請求する鋭い視線が刺さっていた。
「侵略や襲撃と当てはめていいのか、それすら議論の対象だけど、実際被害が出ているのにそれを倒すには難しい。相手が同じ人類ならば、もっと簡単なんだ」
  ノアは指先を動かして、卓上のホログラムを変えた。大部屋の大画面に映し出された星海図に似た画像が表れる。
「攻撃は全て宇宙空間、それも人工物に限られている。惑星や恒星、その他どんな星にも被害が出た記録は無い。攻撃目標は人類かと言えばそうでもない。無人の基地がある日突然消えていたという事さえあった。
  発生日時や状況も、何らかの規則性は見受けられない。頻度はそれ程多い物ではないから、対処も研究も進まない。忌々しいね」
  星海図の朱い光点を数えながら、確かに頻度は多くないなとアレクシスは思った。面白いくらい星を避けている。軍事施設が多いが、民間の施設も幾つかあった。
「この『敵』の存在は公にされていない。殆ど『無い物』と認識させている。連盟国の主立った上層部には知識として知らせているが、星で生活するものには非脅威だ。彼らにとって、宇宙空間で居るかどうかも解らない何かより、同じ人類の反乱のほうがよっぽど怖いだろう」
  言われてみればそうだろう。被害のない相手に対する危機感は、対策を講じるだけ無駄が増える。ならば要らぬ不安要素は別の相手へ委譲してしまうほうが効率的だ。だからこそAUGAFFが請け負っているのかと気付く。それにしたって、効率的とは言えないが。
「何だか、天災みたいだな…」
「予測が付かない災害だけれど、間違ってはいないね」
「でも、貴方たちはそんな未知の相手と戦っているんだろう?」
  でなければ、あれほど硬度な姿勢で『敵』だと言い切らないだろう。
  アレクシスの指摘に、ディスプレイを影にしながらルイがにやりと笑って見せた。
「ところで、AC。君は、サイオニクスをどう認識している?」
  ノアの問いかけに、アレクシスは小首を傾げた。
「俺は専門家じゃないから、何とも言えないんだが…」
「構わない。君がどう思っているのか、聞きたいんだ」
  ふむ、と頷いたアレクシスは暫し考える。
「通常持ち合わせている感覚器官の延長、かな。持っている者には普通だろうけど、持っていない者には不可思議で、時に嫉妬の対象になる。手品だってタネがある。サイオニクスも、保持者にとっては何らかの器官が発達しての結果だろう。俺が銃を使うのと、サイオニッカーが能力を使うのは、扱う物が違うというだけで同じだと思っている」
「いい回答だ。そう、サイオニッカーは彼ら特有に発達した器官を持っている。それは後付でどうにかなるものではない。後付の能力は、どれだけ近くともサイオニクスとは言わないからね」
  にこりと笑ったノアが、指先を動かしてホログラムを消した。彼は恐らく何らかの機械的なインターフェースを利用して画像を再生させているのだろうが、それだとて解らない者にとっては何らかの超能力だと感じるだろう。アレクシスには身近にロキという機械に強い友人が居たから驚きはしないというだけだ。
「話を戻そうか」
  ノアは悪戯っ子のような表情をしてみせた。正直あまり似合っていない。
「我ら人類の大半は『奴等』を認識することは出来ない。事後事実を確認するだけだ。けれどサイオニッカー、特に受動能力の高い者は、『奴等』の存在を感知することが希にある」
「…え?」
  思わずアレクシスは身を乗り出した。サイオニッカーの知り合いが少なからず居るが、彼らからそんな発言を聞いた事は一度もない。
「そして、『奴等』を確実に撃退できるというのも、今のところサイオニッカーだけ」
「随分端折るな…。厳密に言えば、長く宇宙空間で生活しているサイオニッカーだ」
  どうやら事務仕事を終えたルイが、注釈を入れてきた。
「それなら…」
  アレクシスは一呼吸置く。
「俺はその、『奴等』相手の仕事はしないんだな」
  数年に一度更新手続きを行う身分証を発行する時、サイオニクス検査が必須だ。サイオニクスが発現すれば、申請しなくては色々と不都合が生じる。今まで受けた検査の何処にも、彼は引っかかる事がなかった。
  自分が居ても戦力にならないのならば、ただの荷物に他ならない。戦闘員の負担を軽くするためにもアレクシスは通常人類が相手の作戦にしか使えない事になる。
  SOACOMという特殊な目的を持った部隊が、全てその未知の敵を相手にしているわけではないだろうから、きっと対人類の仕事を振り分けられるのだろうと単純に思った。
「…そうかな。どう思うんだ、ルイ。僕より君の方が解るだろう?」
  ノアは腕を組んで椅子に寛いだ。
  そう言えば、この准将もサイオニクスは持っていない。IDDを確認したアレクシスは気付いた。戦闘に出るとは言っていたが、彼は本来司令官だ。まさか感知出来ない敵まで前線で相手をしないだろう。
「現時点じゃあ、俺も明言は控える。そろそろ本気で俺の戦闘訓練に組み込むから、近いうちに解るだろう」
「僕のスキャンじゃ、君に近いと思うんだけれど」
「…後で報告書を出せ。そういうの今言うな、今」
  入り込めない会話の内容に、アレクシスは困る。どうやら自分の事を言われているのだろうから、理解出来ぬまま進められるのは面白くない。
  アレクシスの胸中を現したような顰め面に、ルイは苦笑を零した。丁度タイミング良く、クイーンがマグカップに珈琲を注いでアレクシスと自分の上司の前に置いた。彼女は副官ではないから、会話に立ち入らない。
「ルイは、サイ検知器に一度として引っかかった事がないんだ」
  と、ノア。
「偽造とかではなく、か?」
  アレクシスは半眼でノアに告げた。
「身体能力が高いのは実際見せつけられたし、IDDも確認したけど、俺はいまいち信用出来ない」
「むしろルイがサイオニッカーなら、隠す利点はそれ程無いよ。どこの国の検知器にすら感知出来ないのだから、記載した方が偽造になる」
「だがなアレックス、…これはレベル5以上の機密になるが、俺は奴等を感知出来るのさ」
「…は?」
「事前察知、なんて出来ないけどな。俺に見える範囲ならば、感知も殲滅も出来る」
「そんな…、無茶苦茶な…」
「確かにね。今の技術じゃ追いついていないのか、それともルイが実は奴等に乗り移られているのかもしれないけど」
  後述はノアの冗談だろう。ルイが嫌な顔をする。この准将にとっても、その敵は好ましくないに違いない。

  

本編スタートです。長くなるとは思いますが、BLはちらほら混ぜていきたいと思います!
視点がアレクシス寄りだったので、詳しいことは今回書いていませんが、ノアは内蔵インターフェースを使って、ルイのPC上にチャットを送ったりしてました。
2009/09/10

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